第500話

 俺は宙から、地に立つクレイブレイブへと顔を向ける。

 クレイブレイブは〖刻命のレーヴァテイン〗の刃を俺へと向け、禍々しい光を纏った〖衝撃波〗を俺へと飛ばしてくる。

 俺は頭を下げ、身を捩り、翼を畳んで急落して三発の〖衝撃波〗を回避する。


 距離を置いても、安全とは言えねぇなこれじゃあ……。

 濃霧の中を掻き分けて突っ込んでくる〖衝撃波〗は少々躱し辛い。

 延々避け続けるのも限界がある。


 俺も爪を振るい、〖衝撃波〗の出所を狙って〖次元爪〗で大地を引き裂く。

 ……だが、捉えた実感はない。

 空高くから地を見るには、この濃霧は厳しすぎる。


 遠距離の撃ち合いはこの体格差が致命的だ。

 相手からは見えやすく、攻撃も当たりやすい。

 かといって、〖ベビードラゴン〗の体格までステータスを落として戦える相手でもない。


 位置を誤魔化す〖ミラージュ〗も、〖悪装アンラマンユ〗の前にはあまり効果が期待できない。

 シュブ・ニグラスは絡め手特化で、逆にクレイブレイブは〖悪装アンラマンユ〗によるガチンコ縛りってことか。

 だったらせめて、馬鹿デカイ体格の奴を寄越してくれたらよかったのに。

 これじゃ的じゃねぇか。


 ……仕方ねぇ。

 こっちも、対処できそうな手持ちスキルがあまりない。

 かつての魔王だかの大事な場所だか知らないが、手段を選ばずにやらせてもらう。


「グゥオオオオオッ!」


 俺は〖咆哮〗を上げ、〖次元爪〗の大振りで大地を狙う。

 範囲も、極力広範囲でぶちかましてやった。

 大地が引き裂かれ、いくつもの亀裂が走る。

 お返しにクレイブレイブからの三連〖衝撃波〗が返される。

 俺は一気に高度を引き上げ、クレイブレイブの〖衝撃波〗から逃れる。


 ……準備は整った。

 今ので、足場は崩れた。


 俺はある程度上昇したところで、頭部を下に向ける。


「グゥオオオッ!」


 俺を中心に黒い光の円が展開される。

 使った魔法は〖グラビティ〗だ。

 俺の巨体に強化された重力が伸し掛かる。

 同時に、翼で風を押し出しながら畳み、一気に急降下する。


 続けて……落下しながら、別の魔法スキルの準備を行う。

 俺を中心に、ドス黒い魔法陣が広がっていく。

 こいつはちっとばかり隙が大きい。

 今から魔法陣を展開し、着地と同時にクレイブレイブを狙う算段だ。


 地面へと到達する間際、高速で変わる視界の中、クレイブレイブが俺の側面へと跳び、俺へと斬りかかってくるのが見えた。

 こ、こいつ、この状況でも攻撃を仕掛けて来るのか!

 てっきり距離を取ろうとすると思ったが……いや、好都合だ!


 落下寸前に、後ろ脚から倒して地へと付けた。

 轟音と共に、辺りに衝撃波が走っていくのがわかる。

 〖勇者〗のスキル〖地返し〗である。 

 辺りに凄まじい衝撃波が伝わり、俺が〖次元爪〗で切り崩したばかりの地表が跳ねる。


 クレイブレイブの〖刻命のレーヴァテイン〗の刃が、俺の肩の鱗を破り、肉を裂こうとする。

 だが、乱れた地表に足を取られ、直後に身体を跳ね上げることとなった。


 クレイブレイブに、一瞬の隙ができた。


 俺はわずかに前足を上げ、攻撃するそぶりを見せる。

 だが、これ以上は動かさない。

 クレイブレイブの動きを誘うための陽動だ。

 普通に殴り掛かっても、俺の速度を受け流し、カウンターを叩き込んでくることはわかっている。


 ステータスに開きがあるのにこんな手を使うのは少々大人げないが……クレイブレイブが自発的に距離を取れないこの一瞬をついて、広範囲スキルをかまさせてもらう!

 落下前から準備していた、〖ヘルゲート〗だ。


【通常スキル〖ヘルゲート〗】

【空間魔法の一種。今は亡き魔界の一部を呼び出し、悪魔の業火で敵を焼き払う。】

【悪魔の業火は術者には届かない。】

【最大規模はスキルLvに大きく依存する。】

【威力は高いが、相応の対価を要する。】


 〖ヘルゲート〗の規模はスキルLvへの依存が大きい。

 Lv2の時点で、直径五メートル程度の範囲はあった。

 Lv4の今ならば、それなりの範囲をカバーできるはずだ。


「グゥォオオオッ!」


 俺に纏わりつく様に浮かんでいた漆黒の魔法陣の、黒い輝きが強くなる。

 黒の光は素早く地面を覆い、複数の黒い骸骨の巨人が地面から這い出る様に象られていく。

 

 〖悪装アンラマンユ〗は〖グラビティ〗さえ弾いて見せたが……まったくの無影響ではなかった。

 フェンリルを瞬殺した〖ヘルゲート〗を完全に防ぎ切れるとは思わない。

 だが、一応保険を掛け、クレイブレイブの反応が遅れる、最善のタイミングで使わせてもらった。


 クレイブレイブは体勢を変え、剣を持つ手を地面へ下げることで、自身の身体を僅かに押し上げた。

 そして足を延ばし、〖地返し〗で隆起した土塊の塊を蹴とばし、後方へと強引に逃れる。

 続けて、その更に背後の土塊へと脚を延ばす。


 その土塊を、俺の〖次元爪〗が破壊した。

 クレイブレイブの動きは捉えきれなくとも、地形での行動の縛りが大きいため、次にあいつが移動しそうな先くらいはわかる。


 咄嗟なら対応仕切れなかっただろうが……俺は落下中から、もしかしたらクレイブレイブは〖地返し〗で浮いた瓦礫を蹴り、そこを足場に逃れようとするかもしれないと考えていたのだ。


 三体の黒い骸骨の巨人が、クレイブレイブへと凭れ掛かった。

 クレイブレイブは、骸骨の巨人を蹴って〖ヘルゲート〗の造り出した黒い地獄から逃れようとする。

 

 逃がしたかと思った。

 だが、骸骨の巨人を蹴った〖悪装アンラマンユ〗の脚の装甲が砕け散る。

 中身の土塊が、粉々に宙へ舞う。


 片足で着地したクレイブレイブの身体を、黒い光から伸びる骸の腕が絡みついて押さえ込む。

 そこへ、三体の黒い骸骨の巨人が腕を振り上げ、クレイブレイブへと凭れ掛かっていく。


 黒い光が薄れて消えていく。

 ……今ので、範囲は直径十メートルちょっとといったところか。

 これ、スキルLv最大でどんな範囲になるんだ?


 黒い骸骨の巨人に囲まれていたクレイブレイブは、直立したままその場に立っていた。

 鎧ごと粉砕された脚は既に再生されている。

 もっとも、砕けた鎧は無論剝がれたままだったが。


 ……大した鎧だ。

 いや、凄いのは、纏っていたクレイブレイブの方だろう。


 〖悪装アンラマンユ〗に罅が入り、その場に砕け散った。

 中から軽装の女の像が現れた。

 クレイブレイブがゆっくりと剣を構え、今まで以上の速度で正面から俺へと駆けて来る。


 クレイブレイブが跳び上がり、俺の頭目掛けて〖刻命のレーヴァテイン〗を振り下ろす。

 赤黒い刃が俺の頭を捉え、頭に剣を突き立てる。

 だが、それは〖ミラージュ〗の幻影だ。


「グゥォオオオオッ!」


 俺は前足の爪で、大きく剣を空振ったばかりのクレイブレイブの胴体を抉った。

 クレイブレイブの上半身と下半身が、それぞれ正反対の方向へと飛んでいった。

 〖刻命のレーヴァテイン〗が地に突き刺さる。

 

【経験値を24700得ました。】

【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を24700得ました。】

【〖オネイロス〗のLvが97から105へと上がりました。】


 倒した……か。

 一瞬、上半身から身体が生えてきて起き上がるんじゃねぇかと警戒したぜ。

 しかし、辺り一帯、〖次元爪〗と〖地返し〗で滅茶苦茶になっちまった。

 どうしたもんか……。


【通常スキル〖アイディアルウェポン〗のLvが7から8へと上がりました。】

【通常スキル〖ヘルゲート〗のLvが4から5へと上がりました。】

【通常スキル〖ワームホール:Lv1〗を得ました。】


 し、新スキル……?

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