第499話
クレイブレイブが地面を蹴り、俺へと接近してくる。
俺は前足を振るい、〖次元爪〗でクレイブレイブを狙う。
だが、クレイブレイブは右、左、右とジグザグと移動しながら動き、的確に爪撃を見切って距離を詰めて来る。
……速さでは俺が上回ってるはずなのに、まるで当てられる気がしねぇ。
俺がどういった間隔で、どこへ狙うのか、未來を見て来たかのように最善の動きで躱してくれる。
緻密な戦闘の読みを持っていやがる。
俺の意識が逸れた一瞬を突き、〖衝撃波〗を放って来やがった。
俺は身体を動かさずに爪で受け止め、クレイブレイブを視界の中央に捉え続ける。
爪が割れ、前脚の甲が割れて血が漏れた。
……本当は避けた方がダメージがなくていいのだが、下手に動けばそこを突かれかねない。
俺だってそれなりに戦いの経験は積んでいる。
相手の土俵で勝負することの危険性はわかる。
多少の対価を払ってでも、俺の強みを活かした戦いにするべきだ。
ちょっと格好悪いが、細かい読み合いより、ステータス差とスキル性能での勝負を強要した方がいい。
奇策で意表を突くのは多少自信があるが、戦闘勘ではクレイブレイブに敵う気がしない。
「グゥオオオオオッ!」
充分にクレイブレイブが接近してきたところで、俺は咆哮を上げた。
俺を中心に黒い光が円状に展開されていく。
万能スキル〖グラビティ〗さんである。
範囲が広く、展開が速く、拘束効果がある。
敵にしたときには厄介極まりない魔法だったが、入手してからも大助かりしている。
これで止まってくれれば楽なんだが……。
黒い光に当てられた〖悪装アンラマンユ〗が強い輝きを放つ。
クレイブレイブは僅かに速度が落ちたものの、そのまま突っ切って俺へと駆けて来る。
全くの無意味ってわけじゃなさそうだが……あの鎧の魔法反射効果に潰されてるみたいだ。
魔法は通り辛く、手数に頼っての攻撃は利用される。
だったら範囲攻撃をぶつけてやる!
俺は腹の底に魔力を溜め、口から一気に吐き出した。
〖灼熱の息〗!
俺の目前の視界が赤に呑まれる。
あの防御性能だと一撃では仕留められなかっただろうが……これで、それなりのダメージにはなったはずだ。
俺は前足を構え、炎を睨む。
〖灼熱の息〗の炎に隠れ、クレイブレイブの姿が視界より消えた。
相手もこれを機に俺の不意を突く隙を狙っているはずだ。
俺は牽制の意味を込め、炎へと〖次元爪〗の乱打を放った。
炎が衝撃に変形し、部分的に規模が縮小する。
これだけ放てば向こうも攻めづらくなるはずだ。
奴が前に出れなくなって留まっている間に発見することができれば、こちらから攻撃を加えることのできる大きな機会になる。
〖次元爪〗に勢いを弱められた炎の合間に、ちょうど人一人分の大きさの影があった。
俺は〖次元爪〗で影を狙う。
対象に当たったのを確認し、すかさず前足を振り下ろして追撃を加える。
俺の指先で土塊が爆ぜ、崩れたのを感じた。
クレイブレイブにしては脆すぎる……?
奴は高い防御性能を誇る〖悪装アンラマンユ〗を纏っていたはずだ。
こんなに簡単に奴が潰れてくれるとは思えなかった。
そう気づいた瞬間、俺のすぐ下の地面が開き、クレイブレイブが跳び出して来た。
顎先を狙って剣を突き上げている。
し、しまった!
さっきのは〖クレイ〗で造ったフェイク……いや、恐らく炎に対する盾として造ったものだったのだろう。
盾で正面から来る炎を凌ぎ、素早く地中に逃れていたのだ。
俺は顔を大きく逸らし、剣から逃れようとした。
だがクレイブレイブは宙で体勢を移行し、剣を持つ腕を大きく伸ばす。
いや、しかしこの位置なら逃げ切れる。
宙に浮いた奴を爪で引き裂いてやれる。
……そう思っていたのだが、クレイブレイブの振るった剣から斬撃が宙を走り、俺の顎下に深い横薙ぎの一閃を当てた。
蒼の血が舞い、俺は大きく仰け反る。
こ、この近距離で、確実に当てるために〖衝撃波〗を放ちやがった!
俺は追撃を警戒し、首を戻すより先に、奴のいた位置を目掛けて前脚で宙を薙いだ。
俺の足を、何者かが蹴った。
いや、クレイブレイブが移動するために俺の足を足場にしやがったのだろう。
首の後ろに激痛が走った。
こ、こいつ……!
俺は地面を蹴とばし、宙へと逃れた。
身体を捻って側転させると、クレイブレイブが俺の身体を蹴って地へと逃れた。
……一旦、態勢を整える。
このままでは奴に押し切られちまう。
俺の腹にじわりとした熱が走った。
目をやれば、大きく開かれ、中から押し出される様に血が垂れていた。
は、離れ際にやってくれやがったな!
最初の斬り合いからわかっちゃいたことだが、このクレイブレイブ、とんでもなく強い……。
そりゃA+の配下を三体揃えて、大砲代わりのクレイガーディアンを用意し、伝説の武器と防具まで揃えて打倒神を掲げていたような奴だ。
アルキミアはとんでもなく強い奴だったんだろう。
だが、クレイブレイブはあくまでアルキミアを模して造っただけの土塊のはずだ。
本体はこいつより戦闘の技能が高く、恐らくはステータスもL級クラスで、スキルも大量に持っていたはずだ。
……オネイロスになり、もうこの世界に俺と一対一で戦える魔物はそうそういないのではないかと思ってたが……その温い考えをあっさりと砕かれた。
歴代で見れば、俺よりも上の魔物がわんさかといたのかもしれない。
俺は奴に開かれた顎の下を〖自己再生〗で素早く再生させ、それが終われば腹部の離れ際に斬りつけられた傷を再生させる。
……奴に羽がなかったのがまだ救いだな。
さて、このまま宙から〖次元爪〗で攻撃してやってもいいのだが……霧で視界もよくない。
クレイブレイブには当てられないだろう。
攻撃されない安全地帯があるというのは、ありがたいが……っと!
俺は高度を上げ、クレイブレイブの放った〖衝撃波〗を回避した。
こ、ここまで届きやがるのか……。
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