第489話
滝の洞窟で一晩身体を休めた俺達は、まずは景気付けとして軽く周囲の散策を行い、単独で動いていたフェンリルを襲撃した。
自爆顔面岩ことクレイガーディアンや、触手肉達磨のシュブ・ニグラス共の住まう山の上を目指す前に、まずは進化したばかりのナイトメア改めアトラナートと、黄金の輝きを得たマギアタイト爺の初期レベリングを済ませておきたかったのだ。
今回は目的が目的のため、アトラナートとマギアタイト爺以外は補佐に徹することにした。
少しばかり俺が横から手出ししたが、戦闘はあっさりと終結した。
さすがはA-級モンスターだけあり、アトラナートは【Lv1】にして既に最高レベルに近いフェンリル相手に匹敵しうる力を発揮していた。
どうやらアトラナートのスキル〖アビスフィールド〗は、自身を中心に円状に巣を一気に展開する魔法スキルの様であった。
名前からもしやと訝しんでいたのだが、怪虫アビスを召喚する類のものでなかったことに少しだけ俺はほっとする。
範囲攻撃であるために低レベルでも高速で動き回るフェンリルを巻き込むことができ、その上にアトラナートの扱う糸である〖吸魔闇粘糸〗は名の通り粘着性が高く、受けた物理衝撃を大きく殺すため振り切るのが難しい。
おまけに身体に粘着している間は継続的にHPとMPを奪われるというとんでも性能である。
対フェンリル戦では〖灼熱の息〗で破られたものの、一時的に動きを止めるという役目は充分に発揮した上に、猛炎による自爆ダメージを誘発することに成功していた。
現状でこれだけ奮闘できるのだから、今後の活躍にも期待大である。
マギアタイト爺もレベルとランクの割には十分な奮闘を見せてくれた。
新スキルの〖ステルス〗は、自身の金属体に入射した光を迂回させる性質を付与するスキルであった。
一対一ならばさすがにすぐバレていただろうが、フェンリルの目を誤魔化してアトラナートに注意を向かわせることで、自身は死角より一方的にフェンリルを攻撃することに成功していた。
同じく新しく手に入れた〖メタルバルーン〗は、体内で空気より軽い気体を生成して金属体を膨らませ、金属製の風船を跳ばすというものであった。
ただマギアタイト爺の他のスキルによって〖メタルバルーン〗に高熱を与えてラジコン型の投擲武器として用いられる他、時間差で膨張した気体に金属膜を破裂させることで爆弾として扱うことも可能らしかった。
加えて〖メタルバルーン〗そのものに〖ステルス〗を付与することで、回避困難の透明爆弾にすることさえできた。
俺が見るに〖メタルバルーン〗は優秀な攻撃スキルとなりえるが、さすがにレベル差があって同ランクの上にステータスが防御と回避特化型なので、フェンリルに対して大きなダメージとはならなかった。
しかし、経験値稼ぎのための打点稼ぎとしては上々だった。
フェンリル討伐はあっさりと片が付いた。
アトラナートは【Lv:29/102】へ、そしてマギアタイト爺は【Lv:24/92】へと上がった。
アトラナートの今後が期待できる一戦だった。
この調子ならば、アロを抜いて仲間内のトップになりそうな勢いである。
ステータスが優秀なのもあるが、それ以上にスキルに対して期待が持てる。
アトラナートはまだまだ強くなる。
『二人共お疲れさん。特にアトラナート、凄かったぞ!』
俺はアトラナートへと声を掛ける。
アトラナートは俺へと顔を向けた後、俺の後方を見るようにやや面を傾ける。
「……ソウ」
アトラナートが素っ気なく俺に応え、また元向いていた方向へと目線を戻した。
つ、冷たい……。
人間の身体が生えて仕草がよくわかるようになったせいで、露骨に邪険にされているような気がする。
相方ァ、どうしたらいいんだよ。
ふとさっきアトラナートがどこを向いていたのだろうと考えて後ろを振り返ると、ほっとした表情のアロが立っていた。
アロは俺と目が合うと、首を振って表情を普段通りに戻す。
なんだ、アトラナートを見ただけか。
マギアタイト爺は戦闘が終わってからはヴォルクに頼まれ、再び剣の姿を取っていた。
剣の形状自体は依然と変わりない。やや刀身が長くなった程度である。
しかし、これまでにはない黄金の光を放っていた。
「おお、おお……この神々しい輝き、素晴らしい」
ヴォルクも大満足である。
目の色を変えて刀身に指を伝わせていた。
金ぴかぴんで成金っぽいと俺は秘かに考えていたが、何も言わないでおくことにした。
一応ステータスを確認してみる。
【〖黄金魔鋼の霊剣:価値A+〗】
【〖攻撃力:+104〗〖魔法力:+65〗】
【高価な魔金属〖マギアタイト〗の中でも、更に高価な〖ゴルド・マギアタイト〗を用いて造られた剣。】
【最早値のつけようのない、国宝級の一振り。】
【〖ゴルド・マギアタイト〗は魔力の伝導率がこの世界に現存する金属の中で最も高く、所有者の魔力の扱いを高める力を持つ。】
【また魔法そのものを斬ることで無効化することができる他、斬りつけた相手の魔力を奪うこともでき、魔術師殺しの凶刃ともいえる。】
【また、この剣は自我を持っている。】
め、めっちゃ中身も進化していやがる……。
攻撃力補正が倍近くになっていた。
ヴォルクの持っていた〖月穿つ一振りレラル〗さえも上回る上昇値である。
おまけにどうやら対魔術師用の剣という側面も持っているらしい。
……ここまで強くなれば、もう十分だろう。
これでようやく、最東の異境地の山の上へと踏み込む準備が整った。
レベリングの仕上げがてらに、いっちょ挑んでやろうじゃねぇか。
これ以上悠長に構えている猶予はない。
俺がルインと戦い、リリクシーラと敵対してからそれなりの日数が経っている。
そろそろ奴が攻め込んできてもおかしくないのだ。
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