第486話

 ドラゴンフィッシュこと天空鰻共との戦いが終わった。

 B+級モンスターの群れ相手だったが、俺の支援があったとはいえ、アロ達は充分に戦えていた様に思える。


 B+級といえば、アビスの親玉マザー、そして魔王三騎士のサーマルにも匹敵する。

 サーマルはアロとナイトメアが手を組んで逃げ回るのが精一杯だったことを思えば、この短期間でのレベリングの意味はかなり大きい。

 トレントさんなんてアルバン大鉱山の居残り組だったのだが、今ではナイトメアを凌いでB+級である。


 アロは【Lv:67/85】から【Lv:72/85】へ、

 ナイトメアは【Lv:53/70】から【Lv:61/70】へ、

 マギアタイト爺は【Lv:61/70】から【Lv:63/70】へ、

 黒蜥蜴は【Lv:28/80】から【Lv:41/80】へ、

 トレントは【Lv:1/85】から【Lv:33/85】にまで上がっていた。


 じゃんじゃん気持ちよくレベルが上がっていく。

 〖魔王の恩恵〗万々歳である。

 今回は持っていけなかったが、マギアタイト爺とナイトメアもそろそろ進化が見え始めてきている。


 ナイトメアの足が欠けていたので、〖リグネ〗で再生させておいた。

 ナイトメアも〖自己再生〗は持っているが、ステータスお化けの俺が使っていった方がいいだろう。

 黒蜥蜴、トレント、アロの怪我も治しておいた。

 ヴォルク、マギアタイト爺のコンビはほぼ無傷であった。


『さすがヴォルクだな……』


 俺は声を掛けながら、ヴォルクのステータスを確認する。

 ヴォルクは【Lv:85/85(MAX)】になっていた。


「……マギアタイトは、我の剣から外した方がいいかもしれんな。我があまり経験値を稼ぎに入れない以上、奴のレベリングも阻害することになる」


 ……少し、寂しそうな言い方であった。

 俺は敢えて言いはしなかったが、自身の強さに天井が来たことを理解しているのかもしれない。

 

「ところで、面白い武器を振り回していたが……あれを、我に貸すことはできぬのか?」


『あ、いや……あれは魔法で作ってるだけで、手から離れたら消えるんだよ。〖ディメンション〗で出してるわけじゃなくて、実在しない武器なんだよ』


 空間魔法〖ディメンション〗は、自分だけの空間を持ち、そこに無生物を預けて好きなタイミングで引き出すことが可能となるスキルだ。

 あまりスペースが広いわけではないので、主に武器を預けておくのがメインの使い方のようだ。


 ヴォルクも保有しているので、恐らくこのスキルだと捉えたのだろう。

 もっとも、レラルが健在だった頃はなぜか仕舞わずにわざわざあの大きい剣を背負って持ち歩いていたが。

 ……そのレラルは現在、魔王戦で破損し、今は〖ディメンション〗に仕舞っているそうだが。


「そうか……ならば仕方ないな」


 がっくりとヴォルクが項垂れる。

 ……割と本気で期待していたようだ。

 な、なんだか、申し訳ない。


『俺の〖ディメンション〗は空だからな……』


「……む、持っていたのか?」


『ああ、使い道がないから腐らせているが……』


「お前の魔力なら、あそこまで苦労して背中に縛りつけなくとも、あの巨大マンドラゴラを運べたんじゃないのか……?」


『…………そ、そうなの?』


「い、いや、我はお前ではないからわからんが、試してもよかったのではないのか?」


 殺気を感じ、俺はちらりと背後を振り返った。

 ナイトメアの仮面がじっと俺を見つめていた。

 いや、正確には仮面の周囲の目が、なのだが……。


「りゅっ、竜神さまに悪気はないから!」


 アロがナイトメアの前に立ち、ナイトメアを諫めていた。

 い、いや、悪い、ナイトメア、本当に悪かった。

 で、でも、しんどい思いをして運んだのは俺だから、なんというか、大目に見てくれ。


 トレントさんがそれを遠巻きに見て、笑う様に幹を震わせていた。

 おうトレントさん、随分といい身分になったじゃねぇか。


 実際に試してみた。

 空間魔法〖ディメンション〗を使う。

 宙に青や赤、黒が渦を巻いた光の塊が浮かび上がる。

 俺はそこへと、ドラゴンフィッシュの死体を押し込んで行った。

 頭を入れたところで渦の巻きが早くなり、ドラゴンフィッシュが完全に吸い込まれていった。

 は、入った……入っちまったよ。


 だいたい容量もわかった。

 これならギリギリだが、ハデス・マンドラゴラも完全に入っただろう。

 許せ、ナイトメア。

 ナイトメアは不機嫌そうに俺を睨んでいたが、アロに諫められたのが利いたのか大人しくしている。


 俺は続けて追加でドラゴンフィッシュを二体、そして貝殻から剥がしたシンを〖ディメンション〗の渦へとぶち込んでおいた。

 ……貝殻も本来は価値があり、加工して盾として使うこともできるそうだったが、俺が大厄戦槌でかち割ったせいで罅だらけになってしまっており、使い物にならなくなってしまっていた。

 まぁ、元々加工技術なんてないし、人里に売りにいく余裕もないので、使い道はないのだが。


 丁度いい時間なので、ここで昼飯を終えて探索を続けることにした。

 残った一体のドラゴンフィッシュを〖次元爪〗で頭を落として簡単に血抜きを行い、鱗ごと皮を取り、内臓と骨を剥がす。


 ……因みに、ドラゴンフィッシュは白身魚だった。

 海近くだったので、せっかくなので海水から塩を精製して塩焼きにすることにした。

 アロに〖クレイ〗で台を作ってもらい、その上で〖灼熱の息〗を用いて身を焼くことにした。


 サイズが大きいので、迷いなく食べられていい。

 本体の味は薄めだが独特の風味と仄かな甘味があり、塩がしっかりと生きている。

 やや臭みがあるが、俺もドラゴン生活が長いので気にならない。脂も十分に乗っていて素晴らしい。


 ナイトメアもお気に召したらしく、がつがつと食べていた。

 だが俺がにまにまと眺めていると、不意に食べるペースを落とした。

 ……な、なんか邪魔したみたいで悪い、すまん、嬉しかったんだ。


「ドラゴンフィッシュは話には聞いたことがあったが、まさかこいつを喰うことになるとはな、味は悪くないが……どうにも不思議な気がする」


 ヴォルクが複雑そうな顔でドラゴンフィッシュを食べていた。

 まぁ、美味しいならなんでもいいじゃねぇか。

 どの道ここの食い物は、このクラスの魔物ばっかりだぞ。


 いや、こんなに旨い魚は喰ったことがないかもしれない。

 この仄かな味わいとクセのある風味も悪くないが、調味料を染みさせてから焼けば、臭みも薄れて万人受けする味になりそうだ。

 でもなんだろう、この風味、何かに似ている気がしなくもない気が……?

 …………こ、こいつ、やっぱり鰻だったんじゃ。

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