第485話
俺は敵の姿に唖然としていた。
まさか親玉が、まったくドラゴンフィッシュとは似ても似つかない巨大な貝だとは思わなかった。
な、なんだこいつ……。
【〖シン〗:A-ランクモンスター】
【霧を用いて大規模な幻影を操る魔物。】
【また、様々な音を真似することで周囲を惑わせることができる。】
【遠征中に兵が荒れ地に村を見つけて立ち寄ったが、それ自体が〖シン〗の幻でほぼ全員喰い殺されてしまった、という伝承もある。】
【その性質上、正体を掴むことが難しく、アンデッドやドラゴンとして扱われることが多いが、実態は大きな貝の化け物である。】
……やっぱし、A級下位はあるか。
随分と厄介な力を持っていやがる。
つーかこいつ、仲間の振りしてドラゴンフィッシュを利用していやがったのか……。
たった一体でこの地の全土を霧で覆い尽しているわけではないだろう。
事実、山を登った時にも霧は濃くなっていた。
恐らくシンが何体もこの地にいるのだ。
ドラゴンフィッシュを嗾けて来て本体はじっと隠れていたあたり、元々はさほど好戦的な性質ではないのかもしれない。
ただ自身の縄張りに新参者がやってきたので、力試しにドラゴンフィッシュをぶつけて来たのだろう。
下手に動いて逃げることもできず、退くに退けなくなった、といったところか。
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種族:シン
状態:物理耐性上昇
Lv :89/100
HP :955/955
MP :844/844
攻撃力:342
防御力:821
魔法力:892
素早さ:311
ランク:A-
特性スキル:
〖MP自動回復:Lv6〗〖気配感知:Lv8〗〖忍び足:Lv9〗
〖触手:Lv8〗〖大幻貝の貝殻:Lv--〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv8〗〖毒耐性:Lv4〗〖麻痺耐性:Lv4〗
〖幻影耐性:Lv7〗〖即死耐性:Lv4〗〖混乱耐性:Lv5〗
通常スキル:
〖蜃気楼:Lv9〗〖ミラージュ:Lv8〗〖人化の術:Lv7〗
〖反音鏡:Lv7〗〖詠唱返し:Lv6〗〖殻に籠る:Lv9〗
〖霧の結界:Lv4〗〖穴を掘る:Lv7〗〖触手鞭:Lv6〗
〖デス:Lv6〗〖グラビティ:Lv6〗〖フィジカルバリア:Lv6〗
〖病魔の息:Lv7〗〖アクアスフィア:Lv5〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗〖幻楼閣の主:Lv--〗
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チェックしてみたところ〖反音鏡〗はあらゆる音を覚えて発することができるスキル、そして〖詠唱返し〗は認識した魔法スキルをわずかな間だけ自分のものにできるスキルのようだった。
なるほど、なかなか面白そうなスキルを持っていやがる。
しかし、戦いはここまでだ。
こいつは能動的に戦えるタイプではない。
致命的に機動力に欠けており、近接で正面から戦えるタイプじゃあない。
おまけにとっておきの幻影も、俺にはまったく意味をなさない。
この距離まで詰めたら、もう俺の勝ちだ。
シンを中心に、黒い光が広がった。
重力魔法の〖グラビティ〗……使い勝手のいい、便利なスキルだ。
敵に回したときには厄介だったが、覚えてからも重宝している。
味方を巻き込むのは玉に瑕だが。
しかし、この程度の重力、今の俺には関係ない。
シンの姿が薄れ、霧に、先程同様に幾つもの長い首を持つ、鬼の様な化け物が浮かび上がる。
だが、それもすぐに歪んで消えた。
万策尽きたらしい。
一度効かなかったスキルを、もう一度ぶつけてきやがるとはな。
シンの触手が引き、貝殻が固く閉ざされた。
防御に徹したらしい。
……別に不要だろうが、スキルを慣らす意味で、一応使っておくか。
俺は〖竜の鏡〗で体勢を変えて二足歩行へと変わり、続けて〖アイディアルウェポン〗を発動する。
手許に燐光が集まる。
俺がイメージするのは、硬いものを貫ける武器、ハンマーだ。
ハンマーをイメージした後は、とにかく強力な武器になる様に、と意識した。
手許に禍々しさを感じさせるハンマーが現れた。
槌頭は白いが、赤く輝く呪文の様な文字が模様の様に刻まれている。
槌頭の片側が尖っていたため、俺はそちらの面をシンへと向けた。
【〖大厄戦槌〗:価値B】
【〖攻撃力:+44〗】
【災いを呼び寄せるとされている、巨大な戦槌。】
【災いを振りまく竜の骨を用いて作られた。】
【この武器の一撃は、対象の物理耐性、防御力を瞬間的に減少させる。】
【また、稀に〖呪い〗を付与する。】
俺はシン目掛けて、一気に大厄戦槌を振り下ろした。
「グゥオオオオオオオッ!」
貝殻が砕け、緑の汁が噴き出した。
うむ、状況に応じて性質が変えられるのはありがたい。
【通常スキル〖アイディアルウェポン〗のLvが5から6へと上がりました。】
俺は大厄戦槌を手から離し、〖竜の鏡〗を解除した。
【経験値を5696得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を5696得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが79から83へと上がりました。】
さすがにステータスは俺の圧勝だが、相性次第では苦戦させられたかもしれなかったな。
周囲の霧が薄れていく。
やはり奴だけでこの地の霧を保っていたわけではないらしく、完全に霧が晴れる様子はない。
……聖女が来ることを思えば、シンの乱獲は避けるべきかもしれない。
さて……後は、シンに釣られてうようよやってきた、哀れなドラゴンフィッシュ共を片付けるだけだ。
俺は素早くアロ達の補佐へと戻ることにした。
先程同様に〖次元爪〗を用いてドラゴンフィッシュの鰭の部分を破壊し、奴らの飛行能力を下げて地へと落としていく。
シンの幻覚による支援がなくなったため、そこからは安定して戦うことができた。
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