第478話
俺は一直線にハデス・マンドラゴラへと距離を詰めていく。
マリス・キャタピラは所詮C+級……多少体勢が崩されようとも、ヴォルクのフォローがあればナイトメアや黒蜥蜴も逃げ損なうことはないだろう。
だが、ハデス・マンドラゴラはそれなりに速く、一撃の打点が重い。
俺とトレントで一気に叩く。
『あ、主殿っ! 少々危険過ぎませぬか!?』
『大丈夫だ! 頭に捕まっておけ! 辺りの虫に〖ファイアスフィア〗で攻撃してやれ!』
トレントさんの〖ファイアスフィア〗は命中精度も、魔弾の速度もあまり優れているわけではない。
動き回る虫に当てることは本来難しい。
だが、このうじゃうじゃと湧いている状況ならば、何かしらに当たるはずだ。
『危なくなったら、俺に根を張って〖スタチュー〗でガードしてくれ!』
そう、今の状況ならば〖スタチュー〗の行動不能デメリットを、俺が足になることで軽減することができる。
本来窮地で〖スタチュー〗なんぞ使えば囲まれて死に至るだろうが、トレントさんが金属と化している間に俺がその場を突っ切ればいいだけだ。
何も難しい問題はない。
『は、はっ! お任せを!』
トレントが必死にあっちへこっちへと〖ファイアスフィア〗を放ち、芋虫共へと命中させていく。
が、芋虫はレベルが高く、HPに恵まれたステータスになっている。
苦し気に呻くものの、トドメを刺すには至っていなかった。
俺は即座に爪を振るい、トレントが攻撃した芋虫を狙ってピンポイントに身体を裂いていく。
こうすることでトレントさんにも経験値を分与することができる。
俺の頭の中に、経験値取得のメッセージがひっきりなしに響いていく。
さすが〖次元爪〗、間合い無視の爪撃は格下狩りではこれだけでほぼ完封できる。
雑魚専〖鎌鼬〗センパイを凌ぐ優秀な後輩だ。
経験値取得メッセージが続き、【Lv:65/150】から【Lv:66/150】へ、あっという間に【Lv:68/150】へと上がった。
まだ上手く距離感が掴めないので若干外したものの、三回に二回は狙い通りに当たる。
【通常スキル〖次元爪〗のLvが3から4へと上がりました。】
よし、いい感じだ。
トレントも【Lv:49/60】から【Lv:53/60】へと上がっていた。
うし!
この調子で、ハデス・マンドラゴラもばしばし殴ってやれ!
『主殿……魔力が、もうあまり……』
トレントが言い辛そうに言う。
……消耗させ過ぎたか、だったら仕方ない。
『……トレント、頭に根を張っていいぞ』
『よ、よいのですか?』
仕方ない。
トレントは今回で進化まで持って行ってしまいたい。
多分……大丈夫だろう。
『あんまり深くは止めてくれよ……?』
……頭に痛みと不快感が走る。
ま、まぁ、頭蓋骨あるし、多少は大丈夫だろう。
俺は地面を蹴り、ハデス・マンドラゴラへと一気に距離を詰めた。
「ブルワァァァッ!」
ハデス・マンドラゴラが俺の頭へと喰らいついて来る。
中から零れ落ちた芋虫共が、そのまま俺へと向かう。
『こ、これは……!』
『安心しろトレント! ひたすら撃ち続けろ!』
俺は言いながら〖次元爪〗を用いて、伸ばした指でハデス・マンドラゴラの口内の奥の一点を突いた。
「ブルワッ!?」
ハデス・マンドラゴラが後ろに仰け反った。
トレントの放った〖ファイアスフィア〗が、ハデス・マンドラゴラの口内に二発続けて命中し、破裂した。
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種族:ハデス・マンドラゴラ
状態:憤怒
Lv :81/85
HP :592/786
MP :267/267
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トレントは魔法タイプだ。
それなりにレベルも上がっている。
ハデス・マンドラゴラは属性攻撃や魔法攻撃に対して、特に耐性を持つわけではない。
回復スキルは豊富だが、MPはさほど高くはない。
このまま続けていれば、いつかは削り切れる。
『主殿……芋虫共が』
『ああ、わかっている』
散らばる芋虫共が俺を囲み、円を作って俺へと迫ってきていた。
俺の防御力だと、マリス・キャタピラ程度の攻撃は正直痛くない。
防御貫通スキルでもない限り【攻撃力:500】程度の数値ならば、ほぼ完封できる。
せいぜい3やら5程度のダメージにしかならない。
そして俺は既に【HP:3000】を超えている。
が、纏わりつかれるのもいい気はしない。
トレントまで登られても厄介だ。
『〖ミラージュ〗!』
光を操り、俺の像を偽りの位置に結んだ。
芋虫達もまともに俺の身体に張り付くことができず、苦戦している。
戸惑いながら俺へと跳びかかってくる芋虫を足や尾で払ってあしらう。
「ブルワァアアアアッ!」
ハデス・マンドラゴラが大きく図太い根の腕を振るう。
俺の虚像を捉えたハデスが空振りし、反動で体勢を崩してその場に倒れ込んだ。
その頭部へトレントの追撃が放たれていく。
「ブルワァァァアアッ!」
失敗を顧みてか、今度は遠くに俺を想定して跳びかかってくる。
爪を軽く振るう。当たってもいないのに根の腕が切断され、宙を舞った。
……ちょっと便利すぎるな、〖次元爪〗。
ハデス・マンドラゴラを支える根の部分が、バネの様に縮んだ。
俺は奴のスキルに〖ハイジャンプ〗があったことを思い出す。
下手に動き回られては厄介だ。
「〖グラビティ〗!」
俺を中心に、黒い光が放たれる。
ハデス・マンドラゴラが、そのままその場に這いつくばる。
周囲の芋虫達も動けなくなり、その場で身を小刻みに震わせていた。
俺は身体を捻り、周囲を〖次元爪〗で軽く薙いだ。
芋虫の身体が裂けて潰れ、ハデス・マンドラゴラの身体も大きく抉れた。
今の一閃だけで、周囲の芋虫達が瀕死に陥っていた。
範囲を広く取ったので一体一体に直撃はしなかったし、威力も多少分散したようだが、それでも三体が命を落としていた。
【経験値を1530得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1530得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが68から71へと上がりました。】
もう一度、先程同様に〖次元爪〗の範囲を広めにとって芋虫を蹴散らしてみた。
【経験値を1490得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1490得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが71から73へと上がりました。】
マリス・キャタピラが、穴を掘って俺から逃げ出していく。
実際戦ってみて実感した。
B+は本来、大災害レベルのモンスターである。
だが、今この瞬間だけでも、俺はその気になればどのタイミングでも、何回でもハデス・マンドラゴラを倒すことができた。
今の俺は、ステータスが今までとはあまりに桁外れだ。
ルインと正面切って戦えるステータスになっていることを思えば、それも当然かもしれないが。
まさか、ここまで圧倒的だとは……。
ステータスを考えれば、確かにこれくらいの力は十分すぎる程にある。
辺りには瀕死の芋虫達が、地面に打ち付ける様に暴れている。
動ける奴らはどんどん逃げていく。
それをトレントが、〖ファイアスフィア〗でトドメを刺していく。
また経験値が入り、俺のレベルが一つ上がった。
周囲の芋虫がいなくなってから、俺はハデス・マンドラゴラを見下ろす。
「ブゥ、ブルワァ……」
一方的にトレントから魔法攻撃を受けたハデス・マンドラゴラは、既に回復のためのMPを失っていたらしい。
俺から受けた怪我をそのままに、地の上で弱々しく呻いた。
悪いな、俺達には経験値が必要なんだ。
『トレント……』
俺が呼びかけると、トレントが〖ファイアスフィア〗を放った。
ハデス・マンドラゴラの額が焦げ、不気味な目玉がぐるりと回り、ついに息絶えた。
【経験値を1944得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1944得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが74から76へと上がりました。】
【通常スキル〖アイディアルウェポン:Lv5〗を得ました。】
ま、また新しいスキルが増えたのか……。
それより、トレントのレベルチェックだ。
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種族:マジカルツリー
状態:呪い
Lv :60/60(MAX)
HP :425/425
MP :51/346
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き、来たっ!
きっちりと最大まで上がっている。
早速トレントの進化……の前に、残った芋虫の群れを片付ける必要がある。
幸い、ヴォルクが上手く立ち回り、アロやナイトメア、黒蜥蜴の隙をカバーするように〖衝撃波〗を放って戦ってくれている。
すぐに戦いは終わりそうだった。
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