第475話

 空高くから垂直に落下したトレントが、トロル・マンドラゴラの頭を綺麗にブチ抜いた。

 焦げ跡の残る穴から黒い煙が昇る。

 トロル・マンドラゴラの身体が大きく振動し、その場に倒れて腹這いになった。


【経験値を249得ました。】

【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を249得ました。】


 よし、決着がついたな。


 トレントが〖ファイアスフィア〗でダメージを稼ぎ、HPが減ってきたところで隙を見て、トレントを空高くに打ち上げ、〖ファイアスフィア〗と〖スタチュー〗を用いて高温の金属塊へと変化し、〖グラビティ〗で重力加速度を引き上げて落下し、トロル・マンドラゴラの頭部を打ち抜く。

 なかなか与ダメージが高く、安定している。

 複合スキル〖メテオスタンプ〗は今後トレントさんの必殺技となるだろう。


 〖メテオスタンプ〗によるトロル・マンドラゴラ狩りは最初の実験を合わせてこれで四体目となるが、トレントに流れる経験値量が桁違いだ。

 複合して多様なスキルを用いているため、各スキルレベルも上がりやすいらしい。

 これから成長して威力も上がるのならば、レベリングだけではなく、本気の戦いでも役に立つかもしれない。


 俺は地面にめり込んだトレントさんを咥え、地中より引き上げる。

 レベルはなんと【Lv:49/60】へと上がっていた。

 新しい通常スキルは特にないが、称号スキルは妙なものが増えていた。

 まぁ、特に気にするようなものではなさそうだった。


『トレント、いいことを思いついた。俺が空高くへと飛んで、遥か上空から落下させるのはどうだろうか?』


 リリクシーラの使役霊獣ベルゼバブの対処が厄介だと思っていたのだが、高さに比例して〖メテオスタンプ〗の威力が上がるのならば、意識外の高度から高速でトレントさんを叩き込めば、一発ノックアウトを取れるかもしれない。

 通常形態の奴の巨体ならば、どこかしらには当たるはずだ。


 霧に乗じて空高くにいれば発見が遅れる。

 ましてや〖竜の鏡〗でカモフラージュした俺の姿を見つけることはできないだろう。

 さすがに轟音に気がつくだろうが、その頃には素早さ半減のマイナススキルを有するベルゼバブには回避することは不可能だ。

 〖メテオスタンプ〗改め〖神の杖〗と称するべきだろう。

 一部の隙もない完璧な作戦である。


『主殿よ……さすがにそれは、私が砕け散るのでは……?』


 トレントが恐る恐ると提言する。

 そ、そう……?

 確かに〖スタチュー〗を使ったからと言って、無敵になるという保証はない。

 スキルの説明にもあくまで鋼鉄化して防御力を引き上げる、としかなかった。

 ……さすがに限界があるか、行けるかと思ったんだがな。


 だが、今でも十分な威力は見込める。

 トレントを進化まで持っていくことができれば、〖メテオスタンプ〗の威力も底上げできるはずだ。

 俺はまだベルゼバブにトレントさんを投げ付けて倒す作戦を諦めていないぞ。


 俺は背中にトレントを乗せ、根を這わせてMPを回復させる。

 しかし〖魔王の恩恵〗のおかげですくすくとレベルが上がっていくのは本当にありがたい。

 これで長らくレベル上がらない問題に悩んできたトレントさんの進化も見えて来た。

 同じ時期に行動を共にする様になったアロが〖ワイト〗から〖スカル・ローメイジ〗、〖レヴァナ・メイジ〗、〖レヴァナ・ローリッチ〗を経てB+級の〖レヴァナ・リッチ〗へと進化した間に、〖レッサートレント〗から〖マジカルツリー〗に進化して以来完全に止まっていたと考えれば、その深刻さがわかるだろう。


 まぁ、元々〖レッサートレント〗は初期でD級の早熟タイプだった上に、その後C+級まで一気に進化しているので、もう一回進化するだけで奇跡が起きればアロくらいの力を得るチャンスはある。

 そのためにも、今日中にこのマンドラゴラ狩りでトレントを進化まで持って行っておきたい……!


『……主殿、マンドラゴラ、滅んでませぬか?』


 俺は周囲を一瞥する。

 ない、あのトロル・マンドラゴラの上の部分、デカめの豆の樹が見当たらない。

 辺りには木の根の巨人の残骸が転がっていた。

 アロとナイトメア、ヴォルクと黒蜥蜴が、疲れ切った、されどやり切った表情で俺へと向かって歩いて来た。


 う、嘘だろ……?

 もう狩りつくしちまったのか?


 あっちへこっちへと目をやっていると、少し離れたところに、まだトロル・マンドラゴラの豆の樹が残っているのが見えた。

 ま、まだあった!


『な、なあ、トレント、あれ……!』


『あれは、我々が最初に目をつけてしまった紛い物では……』


 グリングリンズだった。

 う、嘘だろ……トロル・マンドラゴラ、もう全部狩りつくしてしまったのか。

 い、いや、全体的にレベルが上がった今なら、フェンリル相手にも戦えるようにはなったのかもしれないが……。


「キシッ! キシィッ!」


 黒蜥蜴が嬉しそうに俺へと駆けて来る。

 この燥ぎっぷり、まさか……!


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ベネム・クインレチェルタ

状態:通常

Lv :55/55(MAX)

HP :144/277

MP :31/299

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 レ、レベル最大になっている……!

 さすがヴォルクコーチ!

 我らのエースであるアロは【Lv:39/85】から【Lv:55/85】へ、

 ナイトメアは【Lv:29/70】から【Lv:48/70】へ、

 マギア・タイトは【Lv:55/70】から【Lv:57/70】へと上がっていた。


 レベル50、60辺りから一気にレベルが上がりにくくはなってくるのだが、それを考慮しても、俺のレベルへとかなり近づいている。

 アロはあの時間の間に何体のマンドラゴラを狩ったというのか。

 やはり広範囲魔法攻撃と、自前で便利なMP回復能力を兼ね揃えているのは強い。

 

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