第474話
トレントのスキル〖根を張る〗で俺の背にしばらく根を這わさせていたのだが……確かに、ステータスを確認していると、MPがすくすくと回復していることがわかった。
アロの〖マナドレイン〗と似た運用ができるようだった。
なるほど、これならまだトレントも戦うことができる。
『主殿、ありがとうございます。これでまだ戦うことができそうでございます!』
トレントはやる気満々のようだった。
……こういうときに空回りしそうなのがトレントさんなのだが、大丈夫だろうか?
とりあえず、俺の背から一旦降りてもらっていいか?
なんか背中に寄生されてるみたいで落ち着かねぇんだけど。
大丈夫だよな、これ、俺が操られたりしないよな?
鱗の隙間を抉り出す様に根が入り込んでいるのは、よくよく見ればちょっとグロテスクだった。
俺は再びトレントを頭に乗せ、地面に埋もれているトロル・マンドラゴラの上の大きな豆の樹の部分へと接近した。
『トレント、あれに向かって一発かましてやれ』
『主殿……また、外れではありませぬよね?』
『だ、大丈夫だ! ちゃんとチェックしてある!』
トレントめ、グリングリンズと一度取り違えて、普通の植物としばらく睨み合いさせたのを微妙に根に持っていやがるな、トレントだけに。
トレントが〖クレイスフィア〗を放つ。
豆の樹の幹に土球が当って揺れ、大きな根の塊の巨人、トロル・マンドラゴラが姿を現す。
最初はビビりまくりだったトレントさんも慣れつつあるようで、幹を張ってしっかりとトロル・マンドラゴラを睨んでいた。
これが戦闘経験を積んだ成長なのか、単に竜の威を借ることを覚えたのかは考えないようにしておくとして、脅えて引き気味にならなくなったのは大きなプラスであるはずだ。
しっかりと敵を見据えられるようになったためか、トロル・マンドラゴラの額へと正確に〖クレイスフィア〗をぶつけていた。
相変わらずトロル・マンドラゴラの回復量に押し負ける程度のダメージだが……大事なのは、経験値がいくら配分されるか、ということだ。
う~ん……でも、今の調子だと、一体倒すごとにMP回復を挟まないといけねぇんだよな……。
あまりにも与ダメージ量が控えめすぎる。
トレントには〖ポイズンクラウド〗のスキルがある。
これで毒を与えられれば……いや、トロル・マンドラゴラは毒耐性が高い。
さして魔力が高いわけでもないトレントさんの状態異常魔法に掛かってくれるかどうかは怪しいところだ。
……あれ、トレントってでも、スフィア系の魔法スキル、土、水、風、火と四元素コンプリートしてたよな?
いや、いつも〖クレイスフィア〗ばっかり使ってたから、アレのスキルレベルが一番高いんだろうが……トロル・マンドラゴラを相手取るには〖ファイアスフィア〗の方がいいのではなかろうか。
このままだと効率が悪くて仕方ない。
『トレント、火の魔法スキル持ってるよな? あれ使ったらどうだ?』
『は、ははは……主殿、ご冗談を。そんなものを使ったら、私の方に燃え移りそうで怖いではありませぬか』
……木の顔が僅かに引き攣っていた。
喰わず嫌いもとい、使わず嫌いだった。
『いや、選り好みしてる場合じゃねえんだよ! 嫌なのは察するが、手段を選んでると強くなれねぇぞ……』
『む、むぅ……』
『大丈夫だって、自分で使って自分に引火する様な奴、見たことねえよ。絶対にないって、俺が保証してやるから、な?』
『わかりました、主殿……! 早く私も、アロ殿の様に、主殿と肩を並べて戦えるようにならねばなりませぬからな! ナイトメア殿よりも先に!』
『お、おう……』
スライム討伐の際に、アルバン大鉱山に一体だけ残されたのが堪えたのかもしれない。
ま、まぁ、やる気を出してくれたのは結構なんだけどよ。
俺は首を引き、トロル・マンドラゴラの攻撃を避ける。
その後、顎で軽く頭を叩き、相手を怯ませた。
今だトレントさん! 敵に隙ができたぞ!
『はっ! 主殿! 〖ファイアスフィア〗! 〖ファイアスフィア〗!』
火の球が、やや間隔を開けて二発放たれる。
トロル・マンドラゴラの顔面に二発ともヒットした。
炎が上がり、黒い煙が出ていた。
やっぱりダメージもかなり上がっているようだ。
行けるぞ、これは。
トレントさんは元々四元素の魔法スキルを持っている。
使い分けを覚えれば、攻撃手段としては決して弱くはないはずだ。
……あれ、頭が熱くね?
『主殿ォォオオオ! 水を、水を!』
燃え移ってんじゃねぇか!
うおおおんっ! なぜだ、なぜ扱い慣れていないスキルを二連続で放ってしまったんだ!
俺は素早く前足を振るい〖次元爪〗でトロル・マンドラゴラにトドメを刺した。
【経験値を828得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を828得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが63から64へと上がりました。】
頭を地へと下ろして倒し、トレントさんを地面で転がし、素早く咥えて口で覆った。
口内の粘液が炎を抑え込む。
『……大丈夫か、トレント』
『はい、どうにか……』
トレントのレベルを確認する。
レベルは【Lv:20/60】から【Lv:26/60】へと上がっていた。
よし、いいペースだ。
トレントさんが勇気を振り絞って自滅覚悟で火魔法を使ったことで、奴の回復量をギリギリ上回れていたのがよかったのだろう。
このまま〖ファイアスフィア〗を制御できるようになれば、トロル・マンドラゴラを用いたレベリングはかなり容易になるはずだ。
俺には〖魔王の恩恵〗という、自身よりもランクの低い配下の魔物の取得経験値量を倍増させる、超有能スキルがある。
軌道にさえ乗っからせることができれば、一気に進化まで持っていけるはずなのだ。
『主殿、魔力がまたなくなったので、根を張らせていただいてよろしいですかな?』
『…………』
これのせいで途切れるっていうか、ペースが悪いんだよなあ。
何か改善策はないものか。
『主殿! 仮に主殿の頭に根を這わせていただけるのであれば、頭と背を移動しなくてもよくなりますぞ!』
『なんかそれそういう魔物みたいにならねぇか!?』
頭を木の根で乗っ取られているドラゴンは、ちょっと絵面的に厳しすぎる。
つーかそれ、なんかヤバイことにならねぇか? 今度こそ身体乗っ取られるだろ。
『名案という自負がありますが、アロ殿に見られると私が木炭にされるかもしれませぬな……』
名案という自負があったのか……。
いや、確かに効率面さえ見ればいいのかもしれないが、色々と考えてしまう。
ううむ、我が儘を言っていられる場合ではないのだが……。
何か、トレントさんが自分の力で敵のHPを削る方法があればいいのだが、ちょっと思いつきそうにない。
ふと俺の脳裏に、燃え上がるトレントさんが浮かび上がった。
『……な、なぁ、いいこと思いついたぞ』
『いいことですか? いいことならばやりましょうぞ主殿!』
『その、やるかどうかはトレントさんの自由意思に任せたいんだが……』
『主殿がやれというのなら、この私、どんなことでもやり遂げてみせましょう!』
俺はトレントと打ち合わせを行い、新たなトロル・マンドラゴラを狩りに向かった。
トレントに上部の植物を〖ファイアスフィア〗で焼かれ、トロル・マンドラゴラは随分とご立腹な様子であった。
『行くぞ、トレント!』
『はいっ!』
俺は尾を跳ね上げ、尾先のトレントを勢いよく空高くへと投げ出した。
トレントはトロル・マンドラゴラの頭上で、突然燃え上がった。
意図的に〖ファイアスフィア〗を暴発させてもらったのだ。
続けて、トレントが鋼鉄製へと変化する。
今さっき覚えた〖スタチュー〗の、鋼鉄化して防御力を底上げするスキルだ。
更にトレントの身体を黒い光が包み込む。
範囲を本人のみに絞った〖グラビティ〗だ。
鋼鉄化した燃え上がるトレントが、〖グラビティ〗によって下方向へと急加速しながら落下していく。
そして、トロル・マンドラゴラの頭部へとぶつかった。
トロル・マンドラゴラの頭に巨大な黒い跡形ができ、声こそ上げなかったものの、苦し気に呻いていた。
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種族:トロル・マンドラゴラ
状態:通常
Lv :52/80
HP :379/531
MP :164/184
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ちらりとダメージ量を確認した。
いける、少々MPはかさばるが、トレントのステータスからは信じられない火力を発揮している。
トレントさんのステータスを確認すると、〖メテオスタンプ〗という通常スキルが生じていた。
おお! スキル認定されている!
俺はトロル・マンドラゴラにタックルをかまし、勢い余って地面に埋もれているトレントさんを回収し、もう一度空へと放り投げて〖メテオスタンプ〗を放った。
三回目を終えたところで、トロル・マンドラゴラはついに動かなくなった。
ついにトレントさんだけをダメージ源にトロル・マンドラゴラを討伐することに成功したのである。
【経験値を526得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を526得ました。】
よし、俺の取り分がかなり減っている。
その分トレントに入ったはずである。
レベルを確認すると、【Lv:26/60】から【Lv:32/60】へと上がっていた。
最初はどうなる事かと思ったが、段々とゴールが見えて来た!
トレントがよろよろと俺に寄ってくる。
やったぞトレント! レベル、めっちゃ順調に上がってるぞ!
な? 〖メテオスタンプ〗よかっただろ?
次からもこれを軸に……!
『そ、その、主殿……次からもこの戦法で行かないとだめでしょうか……?』
あ……やっぱり嫌か。
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