第473話
……俺は改めてトロル・マンドラゴラを探し、今度こそグリングリンズとかいう紛い物ではないことを確かめてから、トレントと共に接近する。
俺は離れたところで立ち止まり、同時に止まったトレントを先へと進む様に顎で急かす。
トレントは幹を捻り、ちらちらと俺を見ていたが、やがて観念したかのようにトロル・マンドラゴラへと歩み始めた。
間合いがまだ開けている段階で、顔の前に〖クレイスフィア〗の土球を浮かべ……始めたところで、トロル・マンドラゴラが地中より這い出て、トレントへと喰って掛かる。
俺は素早く〖グラビティ〗を放つ。
辺りに黒い光が走り、トロル・マンドラゴラの動きを止めた。
……当然だが、トレントの動きも止まった。
いや、むしろトレントの方が被害が大きい。
幹が横倒しになり、身体を捩っている。
トロル・マンドラゴラも這い這いの体勢ではあるが、辛うじて動けそうな様子であった。
やべ、普通にしくった。
ク、クソ、これどうすりゃいいんだ?
背側に回り込んで、トロル・マンドラゴラだけ範囲に入るようにセッティングしておくべきだったか?
いや……これは、こうするのが一番か。
俺は尾を伸ばしてトレントを持ち上げ、自身の頭の上に乗せた。
う、うし、これで回避できる。
トロル・マンドラゴラが這い這いの姿勢のまま近づいて来て、大きな口を開けて喰らいついて来る。
俺はひょいと頭を下げ、頭部のトレントごと回避する。
よし、行ける。ちょっとばかりダサいが、この戦法で行こう。
トレント、落ちるんじゃねえぞ!
俺は頭を下げ、続くトロル・マンドラゴラの連撃を回避する。
その間にトレントが〖クレイスフィア〗を使い、トロル・マンドラゴラの顔面を狙って土球を放つ。
コォンと、小気味よい音が響く。
うし、これでちっとはダメージが……!
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種族:トロル・マンドラゴラ
状態:通常
Lv :54/80
HP :519/541
MP :186/186
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び、微妙……!
おまけにトロル・マンドラゴラ、回復力特化型じゃなかったか?
こ、これ、削り切れるか?
こりゃトレントさん、放っといてレベル上がるわけねぇわ。
接近攻撃なんて速度もねぇし特にスキルもねぇ上に、ステータス自体低いからやる意味ないのに、遠距離魔法攻撃がしょっぱいダメージしか出ねぇんだもの。
レ、レベルを上げれば、マシにはなるはずだ。
とにかく、この戦闘を成功させる……!
行け、トレントさん!
俺はその後も首をひょいひょいと動かし続け、トレントにはひたすらに〖クレイスフィア〗を連打してもらった。
いけ、いいぞ、トレントさん!
同じところに何度も攻撃を加えるんだ!
削れて行けば、敵の頑強さも減っていくはずだ!
しばらく一進一退の攻防を続けていると、一撃、二撃、三撃と、珍しく全く同じ部位に三連続で攻撃がヒットした。
一撃で僅かに凹んだ額が二撃目で大きく凹み、三撃目で体表が削れた。
いい、いい調子だ! このまま行け、トレントさん!
『主殿……魔力が尽きたかもしれぬ』
……ま、まだ一体目なんだけど……え、マジで?
俺はトロル・マンドラゴラのステータスを窺う。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:トロル・マンドラゴラ
状態:通常
Lv :54/80
HP :455/541
MP :143/186
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ピンッピンしてるじゃねぇか!
あんなに〖クレイスフィア〗撃ったのに……嘘だろお前……。
よくよく考えてみれば、こいつはちょっと柔らかい大ムカデくらいのステータスは持っている。
そう考えれば、一方的に攻撃できたからといって、トレントさんがあまり打点を稼げなかったのは仕方なかったかもしれない。
敗因は、もっと弱い敵を探すべきだった。
俺は自然と、レベリング用の敵に何故かアロを基準に考えていた。
アロはステータスの比率とスキル構成に恵まれている面があるが、トレントさんは逆になんだかもう呪われてるんじゃないの、と疑いたくなるくらいには致命的なステータス比率と、壊滅的なスキル構成を有している。
そのためアロへトレントが十体掛かりで挑んで、ようやく勝機が見えて来るかどうか、くらいには実力に大きな開きがあった。
俺は目を瞑り、前脚を振るう。
空間を超えた爪撃がトロル・マンドラゴラの身体を引き裂いた。
トロル・マンドラゴラが仰向けに倒れ、動かなくなった。
【経験値を1053得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1053得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが61から63へと上がりました。】
……トレントと取り分が分かれたからって原因もあるだろうが、レベルが大分上がりにくくなってきたな。
いや、一つ跳んでりゃ充分っちゃ充分なのかもしれねぇが。
確認して見ると、トレントのレベルが【Lv:15/60】から【Lv:20/60】へと上がっていた。
うぐ……び、微妙……。
おまけにこれで、トレントのMPがすっからかんになっちまった。
い、いや、今は素直に、レベルが上がったことを喜ぼう。
その、トレント……何か、スキルは覚えたか?
『……〖デコイ〗と、〖スタチュー〗を』
〖デコイ〗はアドフも持っていたスキルだが、後者は知らない。
俺は咄嗟に調べてみる。
【通常スキル〖スタチュー〗】
【自身を鋼鉄化させることで、防御力を引き上げる。】
【ただし、発動している間は移動が不可能な状態となる。】
……これ、クェルトロル共が持っていた奴だな。
なるほど〖アンチパワー〗で攻撃力を下げて、〖デコイ〗で気を引いて〖スタチュー〗で防いで囮になるコンボなんだな。
いや、もっと能動的なスキルを覚えてくれよ!
つーか、なんであんまりMPないのにバンバン魔法スキルばっかり覚えちまうんだよ!
『不甲斐ありませぬ……』
『い、いや、トレントさんに怒ってるんじゃねぇんだが……悪い』
この狩場は、トレントさんには少々キツめのパワーレベリングだったかもしれない。
『一応、その……魔力を早めに回復できる手段はあるのですがな……』
『あ、あったのか?』
『肥えた土に根を張っていれば……いつもよりやや回復が早いように思うのですが……』
……そういえば、〖根を張る〗とかいう使い道不明のスキルがあったな。
あれはそういうスキルだったのか。
『失礼を承知で申させていただければ……魔力の塊である主殿の身体に根を張らせてもらえれば、それなりの回復速度が見込めるかもしれませぬ……』
『……おん?』
……俺はそれからしばらく、蹲って地面に腹を付けていた。
背にはトレントが乗っかり、心地よさそうに根を張っている。
……これ、身体乗っ取られたりしねぇよな?
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