第469話
新スキル〖竜の鏡〗でキラークイーンをやり過ごすことに成功して味を占めた俺は、その後も〖ベビードラゴン〗の姿で霧の中を進んでいく。
歪な形の木々が生える不気味な森に入ってからは、木に化けているトレントがいないか、用心しつつ前へ前へと進んだ。
一度、無警戒でウロウロしていたフェンリルを見て、コイツなら行けるんじゃなかろうかと思い、霧に隠れて姿を戻して〖鎌鼬〗を尻に放ってやったのだが、やはりレベル差のせいでまともにダメージが通らなかった。
すぐ顔を真っ赤にし、四つの目をギラギラと光らせながら俺の許へ駆けて来たので、少々MPが嵩むがまた完全に姿を消してやり過ごさせてもらった。
しばらく執念深そうにウロウロしていたが、やはり俺の気配を捉えることはできないらしく、不思議そうにすぐその場を去っていった。
……このスキル、便利だな。
もっとも前後で隙が大きすぎる上に、姿を消している間は移動も何もできないので、知恵のある相手に通用する場面はかなり限られてくるだろうが。
俺はしばらく動いて〖ベビードラゴン〗の姿の動き方も随分と思い出して来た。
周囲を警戒して歩くのにも少し慣れて来た。
持続的に〖竜の鏡〗を使って動いているのでMP消耗による時間制限があるため、俺は〖転がる〗で移動距離を稼ぐことにした。
下り坂に沿って〖転がる〗を使っていると、崖壁の狭間の狭い道に入ってしまった。
霧で気が付かなかった。
おまけに斜面も段々急になっていき、まるで長い滑り台の様だ。
元の姿だと、この窮屈な道は通れねぇ。
アロ達のレベリングができる場所も探したいのでここは避けるべきかと思ったのだが、結構斜面が急で、無理矢理〖転がる〗を解くのも危険そうだ。
まぁ、場所に見当さえつけられれば、飛んで超えることもできるっちゃあできるので、完全に無駄というわけじゃあねぇんだけどな……。
土塊の滑り台が終わると、地面が草や花、蔦に覆われたところに辿り着いた。
相変わらず霧は酷いが、静かで落ち着くところだ。
俺は周囲を見る。
……端から端まで見えないが、全体が崖壁に覆われているのだろうか?
隠されたところっつうか、秘境の花畑に出たって感じがする。
ふむ……なかなか過ごしやすそうでいいところだ。
もしも壁に完全に覆われてるのなら、変な魔物が入ってこなくていいかもしれねぇな。
水の安定した確保さえできるならこっちに移住したっていいくらいだ。
……と、思っていたが、食い散らかされた花や木の根のようなものが散らばっているのが目に付いた。
……これは先住民がいるっぽいな。気をつけていかねぇと。
少し歩いてみると、やや間隔を開け、疎らに大きな植物が生えている。
全長で三メートルほどだ。
今の俺の姿だと、見上げるほどの高さである。
豆の樹の様な、草と木の中間の様な外見をしている。
大きな地味な花を二つほどつけていた。
面白そうな植物だな……と感心していると、急にその植物が伸びた……いや、持ち上がった。
下から、巨大な根っこの塊で象った、巨大な鬼の様な化け物が姿を現し、その大きな口で俺へと喰らいついて来た。
こ、ここに生えてる同種の植物、全部魔物か!?
ク、クソッ! 擬態のせいか、まったく気配がねぇから油断しちまった!
もう〖気配感知〗も当てにならねぇな!
俺は地面を蹴り、背後に跳ぶ。
大口が俺の前で閉じられた。
とんでもねぇ外見の魔物だ。
軽く全長六メートルはある。
頭の植物を合わせば十メートル近くにもなる。
身体の部分は、絡まった根が、巨大な口を持つ悪鬼を象っている。
コイツのステータスは……。
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種族:トロル・マンドラゴラ
状態:通常
Lv :52/80
HP :531/531
MP :184/184
攻撃力:416
防御力:247
魔法力:344
素早さ:216
ランク:B
特性スキル:
〖土属性:Lv--〗〖HP自動回復:Lv7〗〖光合成:Lv--〗
〖忍び足:Lv6〗〖超再生:Lv6〗〖過回復:Lv6〗
耐性スキル:
〖石化耐性:Lv8〗〖麻痺耐性:Lv8〗〖混乱耐性:Lv7〗
〖睡魔耐性:Lv7〗〖即死耐性:Lv7〗〖毒耐性:Lv7〗
通常スキル:
〖噛みつく:Lv5〗〖穴を掘る:Lv3〗〖自己再生:Lv5〗
〖地響き:Lv4〗〖ウィーク:Lv4〗〖クレイウォール:Lv3〗
〖麻痺噛み:Lv2〗〖酸の唾液:Lv4〗
称号スキル:
〖稀少魔物:Lv--〗〖大珍味:Lv--〗〖長寿の秘薬:Lv--〗
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よっしゃ! カモじゃねぇか!
あらゆるステータスにおいて、俺が勝っている。
スキルも大して恐れるものがない。
しいて言えば、回復がしつこそうなのと、異様に耐性スキルが高いことくらいであるが、大したものではない。
おまけにBランクで、それなりのレベルだ。
経験値も期待できる。
トロル・マンドラゴラは、獲物を喰い損ねたことを口惜しむ様に大きな口で歯軋りさせながら、再び俺へと照準を向け始めていた。
俺は〖竜の鏡〗を解除し、元のオネイロスの姿へと戻る。
トロル・マンドラゴラは、怯んだように退く。
残念だったな、餌になるのはテメェの方だぞ!
俺は新スキル〖次元爪〗を使ってみることにした。
【通常スキル〖次元爪〗】
【空間を操り、間合いを無視した爪撃を放つスキル。】
【ただし、安定して扱うには熟練した技量が必要。】
ほう、間合い無視の爪撃……なかなか面白そうなスキルだ。
俺の愛用していた〖鎌鼬〗より速く、威力も保ってくれそうだ。
俺は爪に魔力を溜め、振るう。
触れていなかったはずのトロル・マンドラゴラの体表に大きな傷跡が走り、奴の巨体が大きく揺れた。
……狙ったのはど真ん中だったのだが、やや端に逸れてしまった。
少し制御にはコツが入りそうだな。
俺はさらに続け、二度腕を振るった。
二撃目は修正し過ぎて逆側寄りになったが、三撃目は見事真ん中に命中した。
【通常スキル〖次元爪〗のLvが1から3へと上がりました。】
トロル・マンドラゴラが地に倒れた。
これで一番キツかったレベル1でのレベル上げが達成できた。
【経験値を1352得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1352得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが1から46へと上がりました。】
おおう……めっちゃレベル上がるじゃねぇか。
ずっとこのペースで上がってくれると楽なんだけどな……。
ぶっちゃけ今回は普通に戦っても勝てただろうが、スキルを試しておけてよかった。
離れた間合いから一方的に連続攻撃できるのは大きい。
射程も感触ではそれなりにありそうだ。
もっとも、〖ルイン〗みたいなぶっ壊れ射程とはいかないが……。
さて、ステータスを確認しておこう。
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〖イルシア〗
種族:オネイロス
状態:通常
Lv :46/150
HP :725/2255
MP :231/2329
攻撃力:1620
防御力:994
魔法力:2087
素早さ:1042
ランク:L(伝説級)
神聖スキル:
〖人間道:Lv--〗〖修羅道:Lv--〗
特性スキル:
〖竜の鱗:Lv8〗〖神の声:Lv7〗〖グリシャ言語:Lv3〗
〖飛行:Lv8〗〖竜鱗粉:Lv8〗〖闇属性:Lv--〗
〖邪竜:Lv--〗〖HP自動回復:Lv8〗〖気配感知:Lv5〗
〖MP自動回復:Lv8〗〖英雄の意地:Lv--〗〖竜の鏡:Lv--〗
〖魔王の恩恵:Lv--〗〖恐怖の魔眼:Lv1〗〖支配:Lv1〗
〖魔力洗脳:Lv1〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv5〗〖落下耐性:Lv6〗〖飢餓耐性:Lv5〗
〖毒耐性:Lv6〗〖孤独耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv5〗
〖闇属性耐性:Lv5〗〖火属性耐性:Lv5〗〖恐怖耐性:Lv4〗
〖酸素欠乏耐性:Lv5〗〖麻痺耐性:Lv6〗〖幻影無効:Lv--〗
〖即死耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv4〗〖混乱耐性:Lv3〗
〖強光耐性:Lv2〗〖石化耐性:Lv2〗
通常スキル:
〖転がる:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv7〗〖灼熱の息:Lv7〗
〖ホイッスル:Lv2〗〖ドラゴンパンチ:Lv4〗〖病魔の息:Lv7〗
〖毒牙:Lv7〗〖痺れ毒爪:Lv6〗〖ドラゴンテイル:Lv2〗
〖咆哮:Lv3〗〖天落とし:Lv4〗〖地返し:Lv2〗
〖人化の術:Lv8〗〖鎌鼬:Lv7〗〖首折舞:Lv4〗
〖ハイレスト:Lv7〗〖自己再生:Lv5〗〖道連れ:Lv--〗
〖デス:Lv7〗〖魂付加(フェイクライフ):Lv6〗〖ホーリー:Lv5〗
〖念話:Lv4〗〖ワイドレスト:Lv5〗〖リグネ:Lv5〗
〖ホーリースフィア:Lv5〗〖闇払う一閃:Lv1〗〖次元爪:Lv3〗
〖ミラージュ:Lv8〗〖グラビティ:Lv8〗〖ディメンション:Lv8〗
〖ヘルゲート:Lv2〗
称号スキル:
〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗
〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv8〗
〖嘘吐き:Lv3〗〖回避王:Lv2〗〖チキンランナー:Lv3〗〖コックさん:Lv4〗
〖ド根性:Lv4〗〖大物喰らい《ジャイアントキリング》:Lv5〗
〖陶芸職人:Lv4〗〖群れのボス:Lv1〗〖ラプラス干渉権限:Lv4〗
〖永遠を知る者:Lv--〗〖王蟻:Lv--〗〖勇者:LvMAX〗
〖夢幻竜:Lv--〗〖魔王:Lv6〗〖最終進化者:Lv--〗
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一気に上がってやがる……。
え、これ滅茶苦茶強くね?
HP、MPはウロボロスの最大レベルで3000に乗るくらいはあったためこの点は多少痛いが、それ以外は全部、大幅に上回っている。
特に、1300程度だった魔法力が2000台に乗っているのは大きい。
攻撃力もエルディアの1500を余裕でぶち抜いていた。
これが、伝説級の上昇値……。
こ、これなら、行けるぞ。
ベルゼバブとリリクシーラ、双方を同時に相手取れるだけのステータスはある。
トロル・マンドラゴラはまだまだ生えているようだ。
散らばっていた植物の断片は、共食いした跡だったのかもしれねぇ。
俺は一旦、アロ達の待つ滝の洞窟へと戻ることにした。
ここにアロ達を連れて来ればレベリングは充分できるはずだ。
ただ残りMPを考え、帰りは〖竜の鏡〗を使わずに、空を飛んで崖壁を超えることにした。
霧が濃いので下手に飛べば場所がわからなくなるが……それでも、崖を超えるくらいは容易いことである。
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