第468話
進化してステータスが半減した今……確実に勝てる魔物と戦い、レベル下位の間のレベリングを済ませておきたい。
俺の経験上、進化してレベルがリセットされたとしても、安定した狩場さえ見つけることができれば、簡単に前の進化上限近くくらいまでは昇り詰めることができる。
スキルに頼ってフェンリルへ挑んでもいいが……できれば無用なリスクを冒したくはない。
最高レベルのフェンリル相手でもレベル1でステータス的には同格なので勝てそうな気もするのだが、素早さで大きく劣っているのはやはり危険が大きい。
それに、フェンリルより一回り弱い魔物を見つけられれば、アロ達のレベリングもかなり楽になる。
「グゥオ……」
『ちっと、俺一人で島をまた見て来るわ。フェンリルよりステータスの劣る敵がいねぇかを捜したい』
俺はアロ達へと〖念話〗で声を掛ける。
「今のお前では少々危険なのではないか? 追いかけられれば、戦わざるを得ないのだぞ」
ヴォルクが俺の言葉に答える。
『ああ、わかっている。だが、使えそうなスキルがあってな。ちょっとそこで立っててくれ』
俺は言うなり、アロ達から少し距離を取る。
そして俺は、周囲の光や空間を魔力で歪ませ、自身の姿を変えていく。
これは特性スキル〖竜の鏡〗の効果である。
やり方はいつも通り、感覚で分かるとしか言いようがない。
俺は川を睨み、水面に映る自分の像を調整していく。
俺の姿が、小さく、黄色くて丸っこいドラゴン……〖ベビードラゴン〗の姿へと変わる。
今の背丈は、アロよりも劣るくらいである。
【特性スキル〖竜の鏡〗】
【周囲の光、空間を歪め、姿を変えることができる。】
【敵を引き付けたり、気配を小さくすることもできる。】
【また、他の身体を変形させるスキルと併用することで、MP消耗を大幅に抑えることができる。】
何かと応用が利きそうな便利なスキルだ。
……ただし、〖人化の術〗程ではないものの、継続してMPが削られるため多用が難しく、少々集中力を要するため、戦闘中に咄嗟に尾を伸ばす様な真似も難しそうだ。
慣れ次第で後者は補えるかもしれないが。
ただ記載にある通り、〖人化の術〗と併用すれば、人間に化ける際の継続減少MPを大幅に減らすことができそうだ。
さらっと追加されていたが、マジでとんでもねぇスキルだ。
L級(伝説級)と考えればルインの様な破壊力には欠けるが、これが狙いで進化も十分考慮に入るくらいの利便性を持っている。
〖ベビードラゴン〗の姿を取ったのは、特に理由はない。
姿をよく知っていたのでやりやすく、動きやすそうだった、というのが大きい。
それに、その気になれば完全に姿を消せそうなのだが、そこまでやると〖人化の術〗以上にMP消耗が激しくなる上に、まともに動くこともできなくなりそうなので、それなりの長期の移動を前提とするとこのサイズが限界に近そうだ。
……ただ、短時間なら姿を消してやり過ごすことができるというのは、覚えておいて損はねぇだろう。
ステータスを確認すると、〖人化の術〗同様に最大体力、攻撃力、防御力が半減させられている。
……もしかしたら、巨大化すれば多少はプラスされるんだろうか?
トールマンの部下だったアザレアは〖竜化の術〗の際に多少フィジカルにステータスが強化されていたので、あり得ない話ではない。
「ほう、ただの幻覚ではなさそうだな」
珍しく、ヴォルクが少し驚いた顔をしている。
「りゅ、竜神さま……?」
「キシッ……?」
アロと黒蜥蜴がぴくりと身体を震わせ、一人と一体が俺へとゆっくり近づいて来る。
アロの手の動きが、猫を捕まえようとする子供のそれになっていた。
顔が期待に満ちている。
や、止めろよ……?
今の俺はただでさえレベル1でステータスが低い上に大きさ補正で半減されているので、アロよりも膂力で劣るのだ。
背後に控えるトレントさんから〖グラビティ〗の黒い光が広がり、前のめりになっていたアロをその場で転ばせ、黒蜥蜴の動きを封じた。
枝が俺の方向へと伸ばされる。
幹に空いた人の顔を模した様な口と目の穴が、どこかいい笑顔を浮かべている様に俺には見えた。
お、おう、ありがとうなトレントさん……。
アロと黒蜥蜴からめっちゃ睨まれてるけど、元気に待っていてくれ。
俺はこれで少し様子を見て来る。
気配を抑えてコソコソと移動できるうえに、この島は霧のせいで視界が悪いのだ。
運悪く見つかっても、油断を誘ったところで〖グラビティ〗で動きを止めてから〖竜の鏡〗を解き、一気に畳みかけることができる。
それに速度は変わらないので、〖転がる〗全力で逃げることができるかもしれない。
俺は〖ベビードラゴン〗の姿を取り、周囲を警戒しながら一人でまた洞窟周辺の探索を行った。
霧の中をひたすらに進む。
……できれば、C級上位くらいの赤蟻上位版の魔物の巣があると、かなり動きやすくなる。
遠くに駆けるフェンリルが見えたので、俺はその場で伏せ、遠くへ行くまで止まってやり過ごした。
元の巨体ならば絶対に見つかっていただろう。
やはり、この戦法は有効かもしれない。
そう思っていると……何か、パキ、ポキ、と関節を鳴らす様な音が連続的に響き、それは段々と大きさを増していた。
何かが、俺へと近付いてきている。
既に俺の気配を捉えているようだった。
チッ、感覚が鋭いのかもしれねぇな。
どうにか逃げられねぇか?
霧にぼんやりと姿が浮かび始めてきている。
ここまで来たら、簡単に種族を確認しておいた方が今後動きやすくなるか……。
どうやら相手は、人間より一回り大きい程度の様だ。
もしかしたらさほど強くはないかもしれない。
【〖キラークイーン〗:A-ランクモンスター】
【視野に入ったもの全てを分解するという、強い意志に駆られている。】
【その性質により、〖ブギードール〗の多くは連戦を挑む間に体力が尽き、いずれ返り討ちに遭うのが常である。】
【だが、〖キラークイーン〗にまで至った〖ブギードール〗は、その存在こそが、疲労と敗北を知らない最悪の殺戮人形であることの証明となる。】
【通常〖ブギードール〗がここまで生き続けることは、確率的にはほぼあり得ない。】
霧に敵の姿が見える。
破れた洋服を着る、少女の人形だった。
ただ片目は外れており、手足が異様に長い上に、それぞれ四本ずつあるという、明らかに異形の姿をしていた。
四本の手の全てには、ナイフが握られている。
俺は一つ目と、しっかり目が合った。
初めてアビスを見た時以上の衝撃だった。
「ミ……ツケタ」
キラークイーンが身体を忙しなく動かし、俺へと距離を詰めて来る。
俺は咄嗟に〖竜の鏡〗で姿を消した。
俺の立っていた場所まで凄まじい速度で移動したキラークイーンは、不思議そうにその場を徘徊した後、首を傾けさせて別の場所へと向かっていった。
奴が去ってから、俺はその場へ〖ベビードラゴン〗の姿を戻す。
あ、危なかった……。
マジでぶっ殺されるところだった。
結構MPを持っていかれたが……完全に姿を消せるのは、やっぱし大きいな。
俺はしばらくその場で息を荒げていたが、こっちの方向を探索するのはもういいかと考え、別の方向へと向かうことにした。
あんな奴が徘徊しているのなら、ここを探ってもアロ達を連れて来るのは不可能だ。
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