第465話
俺は怪我を〖自己再生〗で直しながら、霧の中を進む。
本当はすぐさま進化したいところだが、まだここでやるべきことが残っている。
リリクシーラ襲撃までにどの程度の猶予があるのかわからない以上、時間を無駄に使うわけには行かない。
ここから滝の洞窟まで、それなりに距離があるのだ。
ここまで来たのだから、せっかくならば、川の源流にある、この地を覆い尽す霧の発生源を確認しておきたい。
見るだけでいい。
確認だけして、今回は引き下がるつもりだ。
簡単にでも調べておけば、次にここへ向かう際に、事前に動きを具体的に詰めておきやすい。
しばらく川沿いに進んでいると、前方から何かを引き摺る様な音が聞こえて来た。
俺は〖気配感知〗を巡らせながら、慎重に前へと進む。
薄っすらと、霧に影が浮かび始めてきた。
三つだ。
二つは地面を擦っていて、一つは浮かんでいる。
いや、浮かんでいるのではない。
どうやら、細長い足があるようだった。
俺は岩に隠れて様子を窺った。
近づくにつれて、だんだんと様子が見えて来た。
輪郭がくっきりとしていく。霧の中に、見覚えのある、二つの巨大な顔面が映る。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:クレイガーディアン
状態:通常
Lv :85/85(MAX)
HP :785/785
MP :225/225
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:クレイガーディアン
状態:通常
Lv :85/85(MAX)
HP :785/785
MP :225/225
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺は息を殺す。
あれ、一体じゃなかったのかよ!
ふざけんな、あんなのに見つかったら死ぬに決まっている。
なんで降りてきているんだ。仲間の自爆の音を聞いて、不穏にでも感じたのか?
つーか、アレは何を守ってるんだ。
今すぐ逃げ出したいが、真ん中の奴も確認しておきたい。
ゆっくりと近付いて来て、真ん中の奴の姿が、明らかになってきた。
細く、そして異様に長い、五つの獣の足が伸びている。
関節が二つ、三つあるらしく、奇怪な歩き方をしている。
その上には、肥大化した腫瘍の塊に、幾つもの裂けた大きな口が貼りついたかのような、不気味な肉塊が、胎動の様に震えていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:シュブ・ニグラス
状態:通常
Lv :125/125(MAX)
HP :1811/1811
MP :1568/1568
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
A、Aランク!?
いつかこのランクの奴がこの地なら出て来るんじゃないかと睨んでいたが、きっちりと今出て来やがった。
おまけにレベルマックスだ。
経験値の塊みたいなものだが、今は近づけない。
つーか、気づかれたら、絶対に勝てない。
俺の身体も、クレイガーディアンの〖ダイレクトバースト〗を受けた損壊が、まだ完全には再生していない。
そんなところへ、B+二体連れのAランクはヤバすぎる。
そもそもクレイガーディアンは、普通のB+ランクじゃねぇ。
奴の自爆スキルは、恐らくダメージ2000近くを叩き込んでくる。
俺でもヤバかったのだから、ヴォルクやアロでも即死だろう。
肉塊の中から、ギョロリと押し出される様に、大きな目玉が外へと露出した。
神経の束の様なものでぶら下がっている。
全身をブルリと震わせると、神経束が持ち上がった。
目玉が赤い輝きを放ち、俺のいる方向へと伸びる。
「オ、オオ、オ……」
シュブ・ニグラスの無数の口から、呻き声が漏れる。
な、なんだ?
気づかれたのか? いや、そうとは断定できない、じっとしていた方がいい。
次の瞬間、シュブ・ニグラスが五つの足をカクカクと曲げ、物凄い速度で俺へと駆け出して来た。
俺は岩陰から飛び出し、夢中で〖鎌鼬〗の五連打を放った。
そして風の刃が奴に到達するより先に身を翻し、身体を丸め、〖転がる〗で即座に反対方向へと逃げ、坂道を下った。
ヤバイ、なんだよあの不気味な走り方は!
あんなのに捕まったら、絶対に無事じゃ済まねぇ。
アレが、この異郷の地のボスみたいなもんか。
しばらく逃げたところで、俺は速度を出し過ぎていたために曲がり損ね、壁に激突した。
辺りが揺れ、ぶつかった土壁が大きく抉れる。
上から落ちて来た大岩を、俺は腕で払い退ける。
ひ、ひでぇ目に遭った。
奴らには挑めねぇな。
少なくとも、今は無理だ。
……しばらくねちっこい粘着質な殺意を身に受けていたように思うが、今はそういったものは感じない。
振り切れた……と、そう考えていいのだろうか。
奴が山頂付近を守っているのならば、ここまでは追ってこないのかもしれない。
つっても、それで後を付けられていて滝の洞窟を暴かれでもすれば、大惨事へと繋がりかねないが……。
俺は少しの間ここに留まり、後をつけられていないのかどうかを確かめることにした。
その間に、修復が不完全だった身体の細かい部位を、時間を掛けてしっかりと〖自己再生〗しておくことにした。
途中、血の臭いに釣られてかフェンリルがやってきたが、今はこれ以上経験値の取得はできないため、〖鎌鼬〗を三発ほどお見舞いして追い返すことにした。
警戒されて今後は群れで動かれる可能性が上がるかもしれないが、三、四体くらいならば、どうにか同時でも相手取れる範疇だ。
むしろ経験値的には美味しい。
その後、シュブ・ニグラスが現れる気配はなかった。
俺は目を細めて川の上流を確認した後、ほっと息を吐き、水を呑んでから洞窟へと戻ることにした。
これで、洞窟に戻ってから進化ができる。
それに目標もできた。
あのブヨブヨ肉塊野郎を仕留められれば、ベルゼバブ相手に戦っても、充分通用するはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます