第464話

 俺の殴り飛ばしたクレイガーディアンの巨体が、ゆっくりと浮かび上がる。

 恐らく〖フロート〗のスキルだろう。


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種族:クレイガーディアン

状態:物理耐性強化

Lv :85/85(MAX)

HP :511/785

MP :208/225

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 やっぱし、相当頑丈だな。

 思いっきりぶん殴ってもこの程度か。


 だが、俺はまだ〖ドラゴンパンチ〗は使っていない、普通にぶん殴っただけだ。

 ランク差があれば、防御力特化なんざ怖くない。


 なんにせよ、多少なりともダメージが通っている以上、回復されても、殴り続けていれば、いずれ力尽きる。

 奴のMPも、既に一割近く減っている。

 疲弊させられると活動時間が減るのが痛いが、B+の経験値が入るのならば、それも悪くない。


 浮遊するクレイガーディアンの両目に、赤い光が宿る。

 俺は宙に飛び上がった。


 奴の両目から、赤の直線が放たれる。

 かつて大ムカデ相手に散々ビビらされた、遠距離スキルの〖熱光線〗だ。

 まさか二本同時に放ってくるとは思わなかった。


 このスキルは遠距離・長時間・高威力と、敵に回すと鬼の様なスキルだが……この間合いなら、そこまで恐れることはない。


 宙を舞う俺を、クレイガーディアンの真っ赤な視線が追い続ける。

 俺は奴の横を駆け抜け、通り過ぎ様に蹴り飛ばした。

 両目の光線が途切れ、土塊の巨体が宙を舞う。


 俺はすぐさま反対側に回り込んでクレイガーディアンを掴み、重量を掛けて奴の身体を地面へと叩きつけた。

 地面との衝突と同時に、振り上げた前足を叩き込み、落下衝撃を引き上げる。


 奴の身体に、罅が入った。

 同時に背に無数の突起が生じ、それが俺目掛けて一気に伸びて来る。

 クレイガーディアンの〖変形〗のスキルだ。

 だが、遅い。

 俺は翼を広げて飛び上がり、クレイガーディアンから離れ、針の間合いから撤退する。


 ……順調だが、あまりいい気はしない。

 怖いのは、奴のスキルだ。


【通常スキル〖ダイレクトバースト〗】

【無属性の魔法スキル。】

【使い手を内側から爆散させ、魔法力・防御力を基に相手に大ダメージを与える。】


 最初にステータスを見たときから薄っすらとはわかっていたが、こいつ……でっけぇ爆弾そのものだ。


 B+ランクを使い捨てにして発動する、道連れ攻撃が、どんな規模でどんな威力なのか、まったく見当もつかない。

 おまけに硬すぎて、俺の遠距離スキルじゃまともにダメージが通らない。

 マジで、普段なら絶対に相手にしねぇような魔物だ。


 とにかく、こまめに距離を取り、常に体力全快状態をキープするしかない。

 妙なスキルは〖ダイレクトバースト〗だけだ。

 それさえ除けば、素早さとパワーで押してくる純アタッカータイプのフェンリルよりも、むしろ戦いやすい。

 あの手の攻撃と速度型は、ランク差があっても気を抜いたら食い下がってきやがる。

 ……もっとも、こいつはこいつで、その〖ダイレクトバースト〗がネックすぎるわけだが。


 距離をおいた間に、クレイガーディアンの罅がなくなっている。

 体力もすっかり元通りだ。〖自己再生〗を使ったらしい。

 ……あそこは、強引に攻めた方がいいのか?

 いや、それは〖ダイレクトバースト〗を考えるに、止めておいた方がいい。


 俺はひたすら奴の周囲を高速で移動し、殴り、引っ掻き、蹴飛ばしを繰り返す。

 時間を掛ければいい。それで確実に勝てる相手だ。

 いい加減俺も疲れてきた頃、相手のステータスも底が見え始めて来た。


 浮遊していたクレイガーディアンの巨体が、地面に着地する。

 クレイガーディアンを囲む様に地面に魔法陣が浮かび、周囲からいくつもの土の塊が浮かび上がり、四つの巨大な球となり、俺へと飛んでくる。


 これは恐らく〖クレイスフィア〗のスキルだ。

 当然、このくらい軽く避けられる。

 だが、この局面でMPを捨てて、大規模な〖クレイスフィア〗を使った理由がわからない。


 続いてクレイガーディアンを中心に、黒い巨大な光の円が浮かぶ。

 次は〖グラビティ〗と来たか。しかし、これだけのステータス差ならば、強引に動くことは難しくない。

 多少動きづらいことはあるが、その程度だ。

 元々、クレイガーディアンは魔法タイプではない。


 黒い光の中、それでも俺は〖クレイスフィア〗の土の塊を回避した。

 ……回避してすぐ、背後から、何かに身体を掴まれた。

 振り返って、ぞっとした。

 土の球体から、無数の土の腕が伸びて、俺の身体を押さえていたのだ。

 他の土の球体からも腕が伸び、俺の身体を雁字搦めにする。

 加えてそこへ、〖グラビティ〗の重力が伸し掛かる。


「グゥ、グゥオオオオオオオッ!」


 俺は土の腕へと喰らいついて引き千切り、身体を捩って振りほどいた。

 ビビった。これはアロもたまに使うスキル、〖未練の縄〗だ。

 投げた土球に仕込むような真似もできるのか。今度、アロにも教えてやろう。


 顔を上げたとき、目前に、大きく口を開けるクレイガーディアンの姿があった。

 顔の八割が口になっていた。

 俺は背後へ下がるが、肩へと喰らいつかれた。


 ク、クソ!

 さしてダメージはないが、すぐに引き剥がさねぇと……!


 クレイガーディアンから伸びる無数の腕が、俺の身体へとしがみつく。

 切っても、切っても、また別の腕ががっしりと掴んでくる。

 こ、この……!


 クレイガーディアンが悪意に満ちた表情に変貌する。

 どす黒い魔法陣が広がり、クレイガーディアン全体に亀裂が入った。

 く、来る、〖ダイレクトバースト〗!

 俺は歯を食い縛り、〖自己再生〗で噛みつかれて受けた分のダメージを回復しておく。


 身体中に熱が走り、眼球が焼き切られた様に何も見えなくなる。

 一瞬、意識が吹き飛んだ。

 俺は地面の上に倒れながら、〖自己再生〗ですぐに身体を修復していく。

 起き上がれるようになるまで、少しの時間を要した。


 ……危ねぇ、〖英雄の意地〗に助けられた。

 アレがあったから決着を焦れたともいうが、正直、こんなスキルに身を委ねたくはない。

 まぁ、感触的には、アレがなくてもギリギリ堪えられていたような気もするが……。


 HPオバケのウロボロスをここまで追い込むって、相当ヤベェスキルだぞ。

 思ったより範囲は狭かったが、これでAランクを追い込めると考えたら、かなりのぶっ壊れだ。

 俺にこんな威力の強スキルがあったら、是非高防御力、高HP、高攻撃力のベルゼバブへとぶつけてやりたい。


 だが、無茶をした甲斐はあった。


【経験値を3400得ました。】

【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を3400得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが123から125へと上がりました。】

【〖ウロボロス〗のLvがMAXになりました。】

【進化条件を満たしました。】


 ……ついに、進化条件を満たした。

 ツーレベルアップだ。フェンリル二体で、惜しいところまで上がっていたのが幸いしたのだろう。

 これで……俺も、ルインと同じ伝説級になれる。

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