第463話

 俺はアロ達を滝の洞窟に残し、がっつりと単独で探索に出ることにした。

 どういう魔物がいるのか、どの程度のランクの魔物がいるのか、どこに何がいるのか、しっかり調べておく必要がある。


 ここは視界が悪い。

 できれば地形も概ねでいいので掴んでおきたいところだ。


 特に重要なのが、川の流れの源流であり、霧の発生源でもある、山頂の方だ。

 俺は霧の発生源に、何かヤベエ魔物がいるんじゃないかと睨んでいる。


 もう少し時間を掛けて慎重に動くつもりだったが、方針を変えることにした。

 今のままでは、リリクシーラの襲撃に間に合わないかもしれない。

 多少のリスクはとっていくべきだ。


 この島は情報が少ないというだけで、他の四大魔境、アダムのいた巨大樹島よりも劣る可能性だってあるのだ。

 そうなったら、別の四大魔境への移動も考えなければならない。


 俺は洞窟の奥裏の崖を駆け登り、大滝と並行して進む。

 崖の上では、川の流れが多少は落ち着いていた。

 この先を進んで行けば、源流へと辿り着けるはずだ。


 斜面はなだらかになったり、急になったりを繰り返している。

 霧のせいで大きさはさっぱりわからなかったが、この山、それなりの大きさがありそうだ。

 土の露出したはげ山で、木や植物はほとんど生えていない。


 ……ううむ、飛び回って辺りを調べたいところだが、この視界の悪さだと、空から地上が結局見えねぇんだよなぁ。


 歩いていると、視線を覚えた様な気がした。

 だが、〖気配感知〗にはあまり引っ掛からない。


 しかし、こういう勘は大事だ。

 それに霧のせいか、どうにも感知が鈍っているような気もする。


 俺は警戒しつつ、周辺をウロウロする。

 ぬっと、巨大な影がすぐ近くから現れた。


「グゥオオオオオオオオッ!」


 俺は脅かして相手の動きを止めようと、〖咆哮〗から入りつつ、翼を広げて後方に大きく跳び、奴から距離を取った。


 び、びびった、今、なんかヤバイ奴がいた気がする。

 脅し目的に放った〖咆哮〗にも、まるで動じていなかった。

 恐らくは高ランクの……む?


 俺は違和感を覚え、そうっと歩いて、さっきみた大きな影へと近付いた。

 巨大な人の頭……の、土の像だった。

 五メートルくれぇはある。

 なんつーか、荒々しいおっさんの生首のモアイだった。


 お、驚かせやがって。

 だが、なぜこんなところに、こんな像があるんだ?

 人がこれまでほとんど足を踏み入れたことのない未開のはずだ。


 ステータス確認で、いつ頃、何目的で作られたものなのか、わかるかもしれねぇ。

 そうすりゃ、この島の謎だってちっとは解けるはずだ。


【〖クレイガーディアン〗:B+ランクモンスター】

【意志を与えられた土塊の守護者。】

【練り込まれた魔力と、憎悪の深さが強さの源。】

【かつては神を落とすべく作られた魔物だったが……。】


 俺は飛び上がり、土塊の顔面を蹴り飛ばした。

 その反動で後方へ逃れつつ、態勢を整える。


 あっぶねぇ、下げてから上げて落とされた。

 あいつ、どう見ても石像じゃねぇか。あんなナリで魔物なのかよ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:クレイガーディアン

状態:通常

Lv :85/85(MAX)

HP :714/785

MP :225/225

攻撃力:544

防御力:881

魔法力:364

素早さ:241

ランク:B+


特性スキル:

〖ゴーレム:Lv--〗〖土属性:Lv--〗〖忍び足:LvMAX〗

〖HP自動回復:Lv9〗〖MP自動回復:Lv9〗


耐性スキル:

〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗

〖毒無効:Lv--〗〖即死無効:Lv--〗


通常スキル:

〖噛みつき:Lv8〗〖変形:Lv8〗〖自己再生:Lv9〗

〖砂嵐:Lv9〗〖熱光線:LvMAX〗〖未練の縄:Lv9〗

〖クレイ:LvMAX〗〖クレイウォール:Lv8〗〖クレイスフィア:Lv7〗

〖グラビティ:Lv8〗〖グラビドン:Lv9〗〖フィジカルバリア:LvMAX〗

〖フロート:Lv9〗〖カース:Lv7〗〖デス:Lv7〗

〖ダイレクトバースト:Lv1〗


称号スキル:

〖土塊:LvMAX〗〖元魔王の配下:Lv--〗

〖最終進化者:Lv--〗〖執念:LvMAX〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 な、なんだ、こいつのステータス……。

 今の蹴り、軽い一撃だったとはいえども、ぜんっぜんダメージになってねぇぞ。

 こいつ、外見といい、数値といい、ちょっと普通の魔物じゃねぇぞ。


 さっきの説明文といい、こいつ、元神聖スキル持ちの配下か?

 やっぱりこの地にも、云百年、云千年前の魔王が来ていたらしい。

 巨大樹島では、偶然重要な地に行けたと思っていたが、力をつけて人間の国々を追われた魔王が辺境である四大魔境を訪れるのは、ある意味必然なことなのかもしれない。


 しかし、Bランク上位のレベルマックスとはありがたい。

 これで2レベル、上げられるかもしれねぇ。リリクシーラ襲来前に進化できずという、最悪の事態は防がれる。


 正直、俺の頭の中では警笛が鳴り響いている。

 こいつは多分、関わっちゃいけねぇ奴だ。

 この霧の先も、行かねぇ方がいい。

 なんなら、この地からだって、すぐに去った方がいい。


 ここ最東の異境地は、俺が思っていたような、レベリングに最適で、蠅の目を誤魔化せるちょうどいい土地なんて、そんな甘っちょろいもんじゃきっとねぇんだろう。


 俺だって普段なら絶対、こんなあからさまな奴は触らねぇ。

 だが、今、こんな美味しい条件の奴を逃す手はねぇんだ。


「グゥオオオオオッ!」


 俺は大地を一直線に駆けて再び距離を詰めた。

 クレイガーディアンへと目掛け、爪を叩きつける。


 クレイガーディアンの身体を光が覆う。

 これは〖フィジカルバリア〗だろう。

 物理耐性を上昇させてきやがった。

 本格的に面倒臭くなってきやがった。


 だが、こんだけ遅い奴にゃ、遅れはとらねぇぜ。

 俺は思いっきりぶん殴った。

 奴の巨体が、大地を削りながら吹っ飛んでいく。


 お前が固いっつうなら、何十回でも殴り飛ばしてやらあ。


 俺は爪に入った土へと目を落とす。


【アルキミアの魔土:価値B+】

【500年前、人の身でありながら魔王の力を得た錬金術師アルキミアが生成した、強大な魔力を帯びた粘土。】

【獣の形状を土に記憶させることで、多くの魔物を生み出したとされている。】

【アルキミアの死後、魔土獣のほとんどが討伐され土塊に戻ったが、一部の辺境の地ではまだ姿を見ることができるだろう。】


 ……やっぱし、か。

 クレイベアと同種の魔物なんだな。

 強さは全然違うが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る