第459話
最初の半日は、リリクシーラが追撃を仕掛けてくることを考えるとアーデジア王国内で休むわけには行かず、〖自己再生〗で必要な部位だけ戻して強引に〖飛行〗を続けていたため、速度が好調時の半分も出てはいなかった。
アーデジア王国を出て、行く先々で休息を重ね、そこからようやく満足に空を飛ぶことができたのだ。
その後もリリクシーラを撒くために大回りしていたこともあり、目的の地が遠くに見えてくるまでには、まる二日が経過していた。
だが、そのお陰で、体調は既に万全だった。
首を上げる。遠くに、深い霧に覆われた、広大な地が見え始めて来る。
奥の方にはぼんやりと山が見え、手前には森が広がっていた。
遠くが見えねぇわけじゃねぇ。
だが、とにかく視界が悪い。
それにベルゼバブの眷属は、せいぜいC+ランクだ。
霧の中を漂っている間に、俺達を見つける前に、他の魔物に喰い殺されてくれる算段が高い。
ここが世界四大魔境の中でも最悪の場所、最東の異境地。
ここから先に何が出てくるのかは、さっぱり予想もつかねぇ。
だが、ここを乗り越えねぇと、リリクシーラとベルゼバブには勝てねぇだろう。
俺は背を振り返り、アロ達に目線で確認を取る。
既に〖気配感知〗を入念に張っているが、どんな奴が出て来るかはわからねぇ。
いつも俺より先に敵を見つけてくれた相方がいねぇのも心細い。
だが、進むしかねぇ。
大地に降り立ったのと、殺気を覚えたのは、ほぼ同時だった。
背後で、何者かが地面を蹴った音を拾った。
俺は敢えて素早く振り返ることで、背のアロ達を振り落とした。
前足を大きく振り上げ、盾にする。
すぐ顔の先に、巨大な口が開いていた。
全長五メートルはあろうかという、巨大な真っ黒の狼だった。
四つの目が、俺を睨んで笑っている。
俺は敢えて、腕を噛みつかせる。
多少血が舞うが、大した痛みじゃねぇ。
まずは、こいつの特徴を調べる。
【〖フェンリル〗:Bランクモンスター】
【巨躯に似合わぬ俊敏さを持つ、凶悪な巨狼。】
【その影が現れた土地は、遠くない先に滅びるという。】
【生きとし生けるものを喰らいては、次の地へと駆ける、俊足の災害。】
なるほど……外観に相応しい、凶悪な情報が出て来た。
続けて、ステータスも確認する。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:フェンリル
状態:通常
Lv :72/80
HP :673/673
MP :292/292
攻撃力:405
防御力:211
魔法力:288
素早さ:561
ランク:B
特性スキル:
〖闇属性:Lv--〗〖嗅覚:Lv7〗〖HP自動回復:Lv8〗
〖忍び足:Lv8〗〖即死の魔眼:Lv3〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv2〗〖毒耐性:Lv4〗
〖麻痺耐性:Lv4〗〖混乱耐性:Lv3〗
通常スキル:
〖カース:Lv7〗〖クレイ:Lv4〗〖ヒドゥ:Lv5〗
〖ダークスフィア:Lv5〗〖忌み噛み:Lv3〗〖ビーストタックル:Lv4〗
〖灼熱の息:Lv3〗〖自己再生:Lv5〗〖地響き:Lv7〗
〖ハイジャンプ:Lv5〗〖穢れの舌:Lv3〗〖仲間を呼ぶ:Lv2〗
称号スキル:
〖執念:Lv5〗〖大喰らい:Lv4〗
〖最終進化者:Lv--〗
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……こんなもん、か。
所詮はBランクというところだろう。
「フェンリルだ! いきなり伝承でしか名を聞かぬ魔獣に遭遇するとは、幸先がよい!」
ヴォルクがマギアタイト爺の剣を抜き、姿勢を下げる。
俺は〖自己再生〗で、フェンリルの喰らいついた牙の周辺の肉を治癒し、肉から表皮、鱗をびっちりと再生させ、奴の牙を抜けにくくした。
「……ギ?」
空中で、フェンリルの動きが固まる。
俺は体重を掛けて勢いよくそれを地面に叩きつけた。
辺りが大きく揺れ、フェンリルが四つの目を回し、口を大きく開ける。
身体を起こそうとするのを前足を引いて横倒しにし、逆の前足で奴の首をへし折った。
殴りつけた勢いで、フェンリルの牙が抜ける。
フェンリルは捻じれた首のまま、血を溢れさせながら地面の上を転がる。
少しの間身体を痙攣させていたが、すぐに動かなくなった。
【経験値を1876得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1876得ました。】
【〖ウロボロス〗のLvが122から123へと上がりました。】
Bランク……か。
そんなもんじゃ、まだまだだ。
災害だかなんだか知らねぇが、そのくらいじゃあ、リリクシーラを相手取る糧とするには足りない。
最西の巨大樹島には、B+の魔物や、A-のアダムがゴロゴロといた。
この地も、こんなもんじゃねぇはずだ。
ヴォルクは首の捻じれたフェンリルをしばし呆然と見ていたが、残念そうにマギアタイト爺の剣を背負い直す。
「……こうして見てみれば、ウロボロスは本当に規格外だな。それより、獲物がこれだけデカければ、充分な食糧にはなるだろう」
……そう言われると、やはり、相方のことが頭に浮かぶ。
あいつがここにいれば、満足に飯が喰えると、喜んでいたのかもしれない。
まぁ、最初に出てきたのがフェンリル程度だったことよりも、降りてすぐにヤベェ魔物と遭遇しなかったことをよしとしよう。
最悪の場合は、あり得たのだ。
エルディアの様な化け物が潜伏していて、いきなり喰らいついて来る様な展開が。
そうなれば、全員無事では済まなかっただろう。
まずは、周囲を警戒しながら探り、拠点を定めるべきだ。
フェンリルの肉も貯蔵しておきたい。
この島についておぼろげながらに調べ、今後について、目標の詳細も定めておきてぇところだ。
もしかしたら、マギアタイト爺みたいに話の通じる魔物がいて、内情を教えてくれるかもしれねぇ。
そういう奴を見つけられれば、今後が一気に楽になるはずだ。
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