第448話

 俺は〖転がる〗で大地を駆け、全力疾走する。

 とにかく、距離を取らないといけない。

 スタミナ配分なんて考えてる余裕はねぇ。


 だが、ルインの基本速度は、俺を遥かに上回る。

 ルインは低空飛行で俺の後を追いかけ、全力の〖転がる〗に対しても、食らいついて来る。


 奴のスキルは、ほとんど距離を無視して〖ルイン〗の爆弾をぶっ放してくる。

 だが、かといって捕まれば、避ける余地もなく、近接戦で仕留められる。

 魔法攻撃に気を付けながら、近づかれない様に立ち回るしかない。


『相方ッ! 前ニ、ヤラレタ! 距離感ハワカンネェ!』


 来る、〖ルイン〗が!

 全力で駆け抜けるか? いや、無謀だ。

 残念ながら〖飛行〗と違い、〖転がる〗は上下への退避ができず、動きも単調になる。

 俺は軌道を大きく逸らし、斜め前へと突っ走る。

 離れたところで、〖ルイン〗の虹色の光が上がる。


 今回は避けられたが、こんなラッキーが何度も続くとは思えない。

 奴から連続的に〖ルイン〗を使われたら、容易に詰んじまう。

 速度上昇はありがたいが、〖転がる〗では〖ルイン〗を避け切れない。


『マ、マタ来ルゾ! 次ハ、ワカンネェ……今度モ、フェイント臭ェ……』


 ……やっぱり、目線から読み続けるのは限界がある、か。

 ルインの戦い方から、単調さが薄れてきている。

 いいさ、〖転がる〗で逃げ切るのも、限界が近いと思ってたんだ。


 俺は尾で地面を叩いて身体を持ち上げ、そのまま宙へと飛ぶ。

 俺のすぐ下に、ちょうど虹色の光の球体が現れた。

 危ねぇ、ドンピシャでぶつけて来やがった!


 俺は〖転がる〗の余力に従って宙で回転しながら、背後目掛けて〖鎌鼬〗を二発撃ち込んだ。

 そのまま体勢を整え、前へ、前へと逃げる。


『相方、どうだ! 足止めになりそうか!』


『ゼンッゼン、ビクトモシテネェ! 魔力ノ無駄ダ、止メトケ!』 


 ……ち、ちっと、焦ったか。

 ふと前方へ目を向ける。目前には、青々とした海が広がっている。

 ここを逃げるのか?

 こっちに入ると〖転がる〗を挟めなくなる。

 進路を変えるなら、今しかない。


 いや、この先も〖転がる〗で凌ごうと考えるのは、無謀だ。

 奴に同じ手で向かっても、同じ方法でまた対処されるだけだ。

 既に〖転がる〗は見切られつつあった。

 次、同じ動き方をすれば、〖ルイン〗で挟まれて終了だ。


 だったら、このまま海を飛んでやろうじゃねぇか。

 無理に曲がっても減速するだけだ。

 俺はそのまま真っ直に飛び、海へと向かった。


 ……そのとき、身体に違和感が生じた。

 重くなった、というのが正しいかもしれない。

 恐らく、冒険者から掛けてもらった〖クイック〗の効果が切れたのだ。

 こ、これは、ちょっとキツイかもしれねぇ……。


 や、奴の方は、どうだ?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ルイン

状態:崩神

Lv :54/150

HP :1128/1269

MP :622/1564

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……半分近くまでは、最大HPが落ちている。

 1000を下回れば、奴は、王都まで戻る余力を失うはずだ。

 もう少しで、これ以上人里を襲わせないという、二つ目の目標は果たせる。


 後は……今から十五分間程度、俺があいつから逃げきることができれば、奴は身体を保っていることが、できなくなる。

 だが、やはり、俺のステータスでは、どう考えたって、不可能だ。

 今の速度の落ちた俺の〖飛行〗だと、ルインからは逃げ切れない!

 どんどんと、ルインが接近してきている。


 駄目だ、考えても、考えても、ロクな策が浮かばねぇ。

 何か、使えそうなスキル……〖病魔の息〗……〖天落とし〗……〖人化の術〗……〖首折舞〗……〖デス〗に、〖ホーリー〗……ダメだ、ダメ!

 まったくルインに通用するビジョンが浮かんでこねぇ!

 反則だろうが! 攻撃力も魔法力も、どっちも1800超えなんて!


 今度こそ、ダメかもしれない。

 悪い、アロ、やっぱり、約束は、果たせねぇ……。


『……相方、オレニ、策ガアル』


 一瞬、誰かと思った。

 無論、相方である。ルインから目を離し、俺の顔をじっと見ていた。

 め、珍しいな、お前が策を考えるなんて。


『オレノ首ヲ、落トシテイケ。十五分、ハ、保証デキネェガ……足止メシテヤルヨ』


 ……は?


『な、何を、似合わねぇこと、言ってるんだよ、そもそも俺の身体から離れたら、その時点で、まともに動けるわけが……』


 ふと、随分と以前に、黒蜥蜴と共闘して倒した、ツインヘッドのことを思い出した。

 奴は戦闘中、毒攻撃を受けた右の頭を、自分の前脚で叩き落したのだ。

 その後……落ちたはずの頭が浮上し、俺へと襲い掛かってきた。


 奴のスキル、〖道連れ〗だ。

 俺がウロボロスに進化した際に手に入れたスキルの、一つでもある。


『バ、バカ言ってんじゃねぇ、俺は絶対、そんなこと、しねぇからな!』


『コノママジャ、共倒レダロウガ! アロト約束シタンダロ? 身体ノ主導権持ッテル、オマエガ死ヌワケニハ、イカネェダロウガ!』


 俺は相方の言葉を無視し、前方を向く。


『オイ、相方ァ! モウ、選ンデル余裕ナンカ、ネェンダヨ! オイ!』


『うるせぇ、とっとと奴を確認しろ! あの魔法が来るだろうが!』


 ふざけんじゃねぇ、相方犠牲にしておめおめ生き延びるなんざ、そんな手段を取るくらいだったら、ルインとここで心中した方がまだマシだ。

 絶対に、そんな話は聞けない。

 見てろよ、相方……。

 俺は〖道連れ〗なんか使わなくたって、ルインの最大HPが尽きるまで、逃げ切って見せるからな……!

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