第445話
……伝説級の魔物であるルインから、王都アルバンを守る。
そのためには、今の俺のHP、MPは、あまりに頼りない。
元々、ローグハイルことショゴス・ウーズ、魔王ことカオス・ウーズとの連戦のせいで、俺の身体は限界だったのだ。
そこに加えて、リリクシーラとの交戦である。
今の身体では動くことさえ困難であり、スキルをまともに使うことだってできやしない。
俺は膝を突いて項垂れるリリクシーラの部下の二人、アルヒスとバレアを睨む。
視線に気づいた二人が、顔を青くする。
殺されると、そう思ったのかもしれない。
俺は二人のステータスを確認する。
アルヒスの使えそうなスキルは〖マナリリース〗と〖レスト〗、そしてバレアには〖レスト〗がある。
『……お前ら、俺が、あの化け物を止めてやる。俺を、回復しろ。手ェ抜くんじゃねぇぞ、俺には、お前らの魔力量が、見えてんだからな』
「ま……魔物の甘言など、信用できぬ! 第一、貴様があの魔物を止める理由がないだろうが!」
バレアが俺へと手を向ける。
奴には魔法スキル〖アイススフィア〗があった。
氷球で俺を攻撃しようというつもりらしい。魔物なんかに利用されるくらいなら、敵を激情させて死んでやる、といったつもりか。
『お前らが先に甘言で釣って、俺を騙したから、か?』
「う、ぐ……」
バレアが歯軋りしながら俺を睨む。
『自惚れんじゃねぇ、お前達のためじゃねぇよ。城に残る俺の仲間が巻き込まれないため、そして、お前らの好き勝手な策謀に命を左右されてる、王都の民のためだ。お前らみたいに汚い騙し討ちなんざ、誰がやるか。そもそも逃げるだけなら、わざわざ物分かりの悪い、性格も悪いお前らと交渉してまで、魔力の確保なんざしねぇんだよ』
「な、なな……! 魔物如きが、リリクシーラ様にそのような暴言を……! 我々は何を言われおうとも、貴様などに手を貸すものか! この、忌まわしい邪竜め! 殺すなら、殺すがいい!」
バレアは口振りこそ勇敢だが、目には脅えの色が浮かび、肩は震えていた。
横に並ぶアルヒスは、どうすべきなのか悩んでいるらしく、苦悶の表情を浮かべ、地に空いた大穴へと目を向ける。
目を瞑り、首を振った後、バレアへと目をやり、口を開いた。
「……バレア、このままあの化け物が暴れれば、この王都アルバンは滅んでしまう。それはあってはならないことです。ここは……賭けに出るしかない」
「な、なぁ!? アルヒス殿に、聖騎士団としての誇りはないのか! この期に及んで、斬った魔物に頼るなど! リリクシーラ様も仰っていた! 何があっても、イルシアに肩入れするなと!」
「ならばバレアは、この地を滅ぼすつもりなのか!」
「この魔物に信じられる余地がないと言っているんだよ! アルヒス殿は本気で、こいつがアレを止めてくれるなんて、都合のいいことを考えてるのか!」
「それ、は……」
バレアはアルヒスへと怒鳴った後、俺へと敵意の込められた目を向ける。
「ああ、そうだ双頭の邪竜! 貴様の言う通り、こちらが先に裏切ったからだ! 信じられるわけがないだろうが! 貴様には何一つ、身を呈してあの化け物と戦う理由がないのだから! もしも俺が貴様であったのならば、絶対にそんなことをするわけがないと断言できる!」
「グゥオオオオオオオッ!」
俺は〖咆哮〗を上げた。
『んな小さいこと言ってる場合じゃねぇって、なんでわからねぇんだよ! 聞こえただろうが、街の方から響く破壊音が!』
俺がそう言ったとき、正にまた、街から〖ルイン〗が炸裂した破壊音が響く。
目を向ければ、虹色の光の余波が広がっていくのが目に見えた。
『見ろ! また何人も死んだ! お前らはこの状況で、理由がないだのなんだの、本気で言えるのか!? 汚れ仕事ばっかりやってたせいで、感覚が麻痺してやがるのか! どう考えたって、それどころじゃねぇだろうが!』
アルヒスとバレアは爆発音が聞こえ、街の方へと目を向けていたが、俺の〖念話〗を聞き、呆然とした顔を俺へと向ける。
その後、アルヒスとバレアが顔を見合わせ、小さく頷いた。
「わ、わかった。私の魔力を、〖マナリリース〗で、全てお前に移す。とはいえ、残っているのは少量だが……」
アルヒスがバツが悪そうに言う。
バレアは何も言わなかったが、了承したらしく、項垂れながら立ち上がった。
「……あれを、倒してくれるのか?」
負傷した冒険者達の中から、俺へと声を掛けて来た奴がいた。
俺を射た、弓使いだ。
さっきまで知人の女の亡骸を抱き、狂った様に泣き喚いていたが、俺の〖念話〗に反応したらしい。
血塗れの身体を引き摺る様に歩き、俺へと近づいて来る。
「つ、使える……俺も、使える、〖レスト〗なら……こんなの頼める立場じゃないってわかってる。だが、だが、お願いだ、ティナの仇を討ってくれ! もうこれ以上、ここで死者を出さないでくれ!」
俺は無言で頷く。
バレアの〖レスト〗だけでは、ウロボロスの膨大なHPを全回復させるには至らない。
回復してくれる人数は多い方がいい。もっとも、それでもなお最大には程遠いが、そこは仕方がない。
少し間を置いてから、その様子を見ていた他の冒険者達が、手を上げる。
「わ、私も、使える……」「俺……〖クイック〗なら、できる」
「な、なら、俺は〖パワー〗を持っているぞ!」
次々と冒険者達が俺へと近付いて来る。
……見捨てて逃げなくて、よかった。
俺は少し、そんなことを考えた。
アルヒスや冒険者達から回復魔法、支援魔法を受けた。
身体の傷は、かなりマシになった。支援魔法の効果か、身体が少し軽い。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖イルシア〗
種族:ウロボロス
状態:パワー(小)、クイック、マナバリア
Lv :109/125
HP :1172/2816
MP :315/2718
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うし、かなりマシになっている。
……もっともとルインを相手取るにゃ、不足だらけとしか言えねぇ状態だ。
支援魔法も気休めみたいなもんだ。
どうせ、すぐに効力は切れる。それでも、やるしかねぇんだ。
俺は少し離れたところに立つ、アロへと目を向ける。
アロは一連の様子を、ただじっと、俺へと顔を向けて、見守っていた。
『……アロ、すまねぇ。ナイトメア達を頼む』
アロは寂しそうな表情で頷いた。
「……竜神さまなら、そうするかもしれないって、少しだけ、思っていました。竜神さまが、本当に優しい竜だってこと……私、知っていますから。お父さんのいた村も、見捨てないでいてくれたから……。私は、トレントさんのところで待っていますから、絶対に、戻ってきてください。……ずっと、待っていますから』
俺は壊れた城の上階層で街を眺めている、ルインを睨む。
向こうは、こちらを見もしていない。
悪い……アロ、今回ばかりは、約束は果たせねぇかもしれない。
俺は尻目でアロが視界から消えるのを見送った後、地を蹴り、飛び上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます