第443話

 俺は後方に弾き飛ばされ、背で壁を崩し、その場で蹲った。

 目を開ければ、虹色の光球が浮かんだところを中心に、城の壁や床が、球形に削られる様に破壊されている。

 リリクシーラの〖ミラーカウンター〗の光の壁の影響か、リリクシーラの立っていた方面は、破壊が薄い。


 魔法の防護壁を間に挟んだとはいえ、最も至近距離で攻撃を受けたことに違いはない。

 無事ではすまなかっただろうう。

 今の一撃で消し飛ばされたのか、床の崩壊に巻き込まれたのか、彼女の姿は見えない。


「リ、リリクシーラ様……? リリクシーラ様? いずこに……」


 他のリリクシーラの部下のアルヒス、バレアや野次馬の冒険者達は、俺同様に外側に弾き飛ばされたらしく、床に空いた穴のすぐ外側で呻いていた。

 アロはその場に膝を突いてこそいるものの、肥大化した腕が偶然盾になったのか、本体はダメージをそこまで受けていない様子だった。


 な、なんだ、あの規模のスキル……。

 距離はあったのでこの程度のダメージで済んだらしいが、床の惨状を見るに、中央部で受けていたら、とんでもないダメージになっていたはずだ。


 化け物本体は、天井を頭で易々と突き破って破壊し、上階へと消える。


「オォオオオ、オォォオオオオオオッ!」


 かと思えば、また奇怪な鳴き声と共に、奴の空けた天井の穴から、虹色の光が落ちて来る。

 さっきリリクシーラ目掛けてぶっ放したスキルだろう。

 上階の床が砕け散り、再びその姿が露になった。

 直撃した部分は消滅しているのか、粉々になったのか、幸い瓦礫の雨が落ちて来ることはなかった。


 化け物の姿は、色といい、曖昧な形といい、〖変色〗前の初期状態の〖カオス・ウーズ〗に似ている。

 だが、あれが粘体だったのに比べ、こいつは完全に光の集まりだ。

 地下から出てきたことといい、スライムが扱いに困って地下に閉じ込めていた、〖ギガントスライム〗の様な魔物なのか?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ルイン

状態:崩神

Lv :54/150

HP :1279/2422

MP :1185/2716

攻撃力:1871

防御力:1016

魔法力:1995

素早さ:1287

ランク:L(伝説級)


特性スキル:

〖HP自動回復:Lv8〗〖MP自動回復:Lv9〗〖神の声:Lv1〗

〖ルイン:Lv--〗〖崩神:Lv--〗〖アブソリュート:Lv2〗


耐性スキル:

〖状態異常無効:Lv--〗


通常スキル:

〖自己再生:Lv9〗〖ルイン:Lv4〗


称号スキル:

〖元魔王:Lv--〗〖破滅の魔法:Lv--〗

〖最終進化者:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 で、伝説級!?

 オールステータス1000超えって、どういうことだよ。

 攻撃力、魔法力、共に2000近くって、こんな化け物が、なんで地下室に眠ってたんだ。


 称号スキルの元魔王って、まさか、あのスライムなのか!?

 ど、どういうことだ。

 ランクが上がる程序盤のレベリングが早く済む様になるのはわかるが、それでも、レベル54は異常だ。

 セラピムを殺したのか?


【〖ルイン〗:L(伝説)ランクモンスター】

【破滅の魔法の化身。】

【邪悪な魔力が集って形を成している、不定形の魔物。】

【形あるものが世界に残っている限り、その破壊衝動が癒されることはない。】


 神の声め、デタラメ言いやがって。

 何が、アイツの死は確定した、だ。

 ピンピンしてるどころか、パワーアップしてるじゃねぇか。


【特性スキル〖ルイン〗】

【その膨大な魔力の塊である身体に触れることは、死を意味する。】

【同名の魔法スキルの使用時に消耗するMPを半分にすることができる。】


 な、なんだそれ……。

 常に身体が、魔法スキルに覆われてるようなもんってことか。

 んなもん、接近戦が、不可能じゃねぇか……。

 同等以上が相手になる場合、俺のダメージソースはほぼ近接攻撃に依存する。


【特性スキル〖アブソリュート〗】

【本人の意思に関わらわず、常に周囲からMPを吸収し続ける。】


 ……膨大なステータスな上、MP回復まで完備してやがる。

 通常スキルに〖自己再生〗もある以上、体力切れも狙えねぇ。

 本当にあのスライムなら、〖命のマナ〗で精神を消耗していたはずだが、ルインの様子には疲労の陰は見えない。


 おまけに〖アブソリュート〗と〖自己再生〗のコンボは、〖命のマナ〗のように何十回とスキルを乱発するような真似をしなくてもいい。

 前回の様な消耗は期待できない。


【通常スキル〖ルイン〗】

【虹色の光を放ち、広範囲に破壊を齎す。】

【威力は中心からの距離によって大きく異なる。】


 さっき使ったのは、進化種族名にもなっている〖ルイン〗……か。

 先程、奴は自分のスキルに巻き込まれていたが、特に本人がダメージを負っている様子はなかった。

 恐らくだが、本人が〖ルイン〗そのものであるため、あのスキルでダメージを負うことがないのだ。


 こんな魔物、戦いようがねぇ。

 ど、どうしろっていうんだよ。

 ……あ、いや、このスキルは……?


【特性スキル〖崩神〗】

【不相応の力を手にした者は、必ず朽ち果てる。】

【最大HP・最大MPが急速に減少していく。】

【このスキルが消えることはない。絶対に。】


 な、なんだ、ルインのデメリットスキル……?

 いや、恐らく違う。

 不相応の力……多分、やっぱりあいつは、本来進化できなかったか、してはいけなかったんだ。

 伝説級になるには、神聖スキルが一つか二つ、必要だったのだ。


 ……ああ、そういうことか。

 あいつが俺を倒すことに病的に固執していたのは、様子を見て明らかだった。

 スライムの奴は、俺に勝てなかった時点で、進化を強行して〖崩神〗を付ける以外に、選択肢がなかったのだ。

 だからあの時点で、スライムが逃げ切る芽があったとしても、死ぬことが確定していたのだろう。


 今やあいつに、自我が残っているのか、どうかさえ怪しい。

 ……あまりに、痛々しい。

 残酷で自分勝手でとんでもねぇ奴だったが、こうなると哀れでもある。

 あの場で、しっかりと殺しておいてやりたかったとさえ思える。


 ……ただ、もしも本当に奴に思考能力がないのなら、このまま逃げられるかもしれない。

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