第414話

『貴殿には、儂のスキルが、目に見えているのであろう? どうだ、怖いか?』


 触手を伸ばし、近接戦闘の構えを取るローグハイルが、俺へと呼び掛けて来る。


『〖スキルクラッシュ〗……このスキルこそ、この儂が魔王様に最も近づいた存在であることの証明! あのお方の様に奪い、利用することはできぬが、相手のスキルを消し去ることができる。この儂相手に近接戦など、愚の骨頂……そうは思わんかったのかな?』


 ローグハイルが俺へと触手を這わせる。

 俺も前足を浮かせ、爪で引き裂く構えを取る。

 ローグハイルの無数の眼球が、びくびくと脈打ち、大きく見開かれた。


 魔眼スキルで怯ませて、隙を作るつもりだ。

 俺は全身に気を巡らせ、魔眼の視線の威圧に抗う。


『死ねぇっ!』


 ローグハイルが叫ぶ。

 先程生み出された三体のローグハイルの分身体が、俺を囲む様にしてブルブルと震え、口から粘液の弾丸を発射する。

 こいつらのお馴染みスキル、〖ウーズボム〗だ。


 ローグハイルが姿勢を屈めながら俺へと飛び込んでくる。

 俺が〖ウーズボム〗三連打への対応を迫られている間に、先程言葉で脅しを掛けた〖スキルクラッシュ〗で攻撃をするつもりだ。

 接近してくるなら好都合!

 耐え抜いてぶん殴ってやる!


 ……いや、違う。

 〖スキルクラッシュ〗は、牽制するための嘘か?

 仮にそうならば、ローグハイルは接近して来ない。

 こちらからの攻撃で倒せるタイミングではないかもしれないならば、ここは避けた方が無難か?


 いや、下がって退避している余裕はねぇ!

 トロル共がこちらへ向かえず、ギガンドスライムも離れていて次の攻撃に時間が掛かる。

 ローグハイルも、〖ドッペルゲンガー〗を俺に使わせられ、弱っている。

 本当なら、距離を取って自動回復でHPとMPを回復させたいはずだ。

 ここは、攻め時!


 俺は前に出て、爪を振るう。

 〖ウーズボム〗の酸弾の一つが、俺の爪に砕かれる。

 だが、残る二つの酸弾が、俺の肩に当たって弾ける。

 激痛が走り、翼が縮み、固まる感覚。


 だが、俺ならば、耐えられる!

 ローグハイルをぶん殴れるなら、HPオバケのウロボロスだからこそ、割に合うダメージで済む。

 ダメージ前提で勝負できるのは、ウロボロスの大きな利点だ。


 ローグハイルは、飛び込んで来ない。

 間合いの外で、踏みとどまっている。

 ローグハイルの異形の身体が、凹凸だらけになっていく。


 やはり〖スキルクラッシュ〗は嘘で、本命は確実な打点を稼ぐ〖ウーズマシンガン〗!

 さっきの話も、意識を〖スキルクラッシュ〗に向けさせるための罠!


『儂が、読み勝った! ヒョホ、ヒョホホホホホ! 死ね、イルシアアアッ!』


 爪が届くには二歩足らず、発射直後の〖ウーズマシンガン〗が到達する、回避が難しい距離。

 完全にローグハイルの間合いだった。

 おまけに今は翼が動かないので、ガードも飛んで逃げることもできない。


 無数の酸弾が、ローグハイルから俺へと飛んでくる。

 肩に、顔に、腕に、腹に、当たる。


『死ね、死ね、死ね、死ねえええええっ!』


 鱗が溶ける。

 一刻も早くこの場を回避せねば、如何に俺とてこれは危ない。

 だが俺は横でも後ろでもなく、とにかく前に進み、ローグハイルの身体をがっしりと爪で掴んだ。


『は……?』


 よう、これも想定通りか?


「グゥオオオオオオッ!」


 俺は前足でローグハイルを持ち上げ、体重を掛けて地面に叩きつけた。

 ローグハイルの粘体の身体がバウンドし、床が割れる。


『ゴホォッ!?』


 続けて浮いたローグハイルへと前足を叩きつける。

 殴られた衝撃で飛んでいくローグハイルへと相方が喰らい付き、宙に固定する。


『お、お……?』


 そこへ俺が〖ドラゴンパンチ〗で殴り飛ばす。

 相方の口に粘体の一部が残り、ローグハイルの身体が飛んでいき、地面を転がった。

 身体中の目が潰れている。


 辺りに散らばっていたローグハイルの分身体達が、次々に弾けてただの液体へと変わっていく。

 どうやら維持できる余力を失くしたらしい。


 ぜぇ、ぜぇ……へへ、やってやったぜ。

 どうだ、さすがに堪えただろう?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ローグハイル・オーロルニア〗

種族:ショゴス・ウーズ

状態:通常

Lv :81/105

HP :123/1185

MP :44/734

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 よし、後一撃入れてやれば……!

 俺はちらりとギガントスライムを確認する。

 触手が向かってきている。

 モーションがデカすぎて、乱戦ラッキーパンチ以外は怖くねぇ!

 俺は後ろに飛んで回避する。

 ギガントスライムの触手が床を削って突き進み、壁を抉り、俺とローグハイルを両断する。


『そ、そうだ!』


 ローグハイルが、化け物の姿から、人型の輪郭へと戻る。

 ただし色は溝色のままであり、外見も潰れた目玉塗れである。

 ローグハイルは触手に飛び乗ると、触手はローグハイルを乗せたまま、伸びきったゴムの様に縮み、ローグハイルごと引き戻されていく。


 俺は慌てて後を追い掛け、〖鎌鼬〗を放つ。

 風の刃は触手を貫通したが、ローグハイルの身体を掠めるのみに終わった。

 あの状態のローグハイルは、小さすぎて〖鎌鼬〗で狙うのが難しい。

 俺は地面を蹴って頭を丸めて転がり、ローグハイルの後を追う。


 クソッ!

 アイツ、俺を真似て逆に逃げるのに使いやがったな!

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