第412話
『ギガントの体内には、何百ものニンゲンや魔物の魂を捕らえてあるのだよ。魔王様がスキルを引き抜き、残りカスはこの儂がスキルごと記憶を潰し、適当に放逐する。そして、どうなっても誰も気を留めぬであろう冒険者共は骸を地下に詰めて、ギガントの餌とするのだ』
ローグハイルからの〖念話〗が続く。
スキルを潰せば、記憶が損なわれる……。
微かに、予想はしていた。スキルは経験や本能によって得られる。
スキルを奪われるということは、その根源ごと奪われるということでもある。
そう考えれば、ミリアの村のドーズや、モディーの娘リュオンが正気を失っていた理由もわかる。
『オイ、相方ァ! アンナ後ロニ突ッ立ッテル奴ニ、掻キ乱サレテンジャネェ! キモイノガ来テンゾ!』
わかってはいる。
これは、ローグハイルの揺さぶりだ。
今更知られてもどうでもいい情報を流すことで、俺の怒りを煽り、集中力を乱し、理詰めで行動させないつもりだ。
わかってはいるが、聞き流すことなんてできねぇ。
『魔王様にスキルの大半を抜かれ、狂気に陥った状態でギガントに貪られ、魂を囚われ、呻き、苦しみ続けるのだよ。何もわからぬままでな! 恐ろしいか! 恐ろしいであろう? 貴殿も直にそうなるのだ! ヒョヒョ、ヒョッヒョッヒョ!』
どうしても、ローグハイルに集中力が奪われる。
聞かずにスルーした方がいいのはわかっている。
だが、どうしてもそれができない。
『〖念話〗の鍛錬を積んでおる儂には聞こえるぞ、あの骸共の声が。出してぇ、出してくれぇ、殺してくれぇ……苦しい、おお、苦しい……ヒョヒョヒョヒョ、笑ってしまうのお!』
「グゥウウ……」
俺はローグハイルを睨みながら唸る。
こいつらは、性格や、言動もそうだが……生物としての性質そのものが邪悪過ぎる。
いや、違う。
邪悪な言動が、本人をより悪意に満ちた進化へと駆り立てるのだろう。
ローグハイルは、たまたまあの不気味な姿になったわけじゃねぇ。
あの不快な姿は、本人の性質に外見が伴った結果だ。
『そして、気が逸れてくれて、ありがとう』
距離を詰めていたトロル達が、俺へと距離を詰めてきていた。
背後にはローグハイルの分身が控えており、ギガントスライムがその後ろで機会を窺っている。
「ゴオオオオッ!」「ゴアォオオオ!」
「ゴオオオ!」
三体のトロルが、俺の正面から棍棒を振り下ろす。
相方が一体を噛むが、またもトロルは鋼鉄化し、まともに牙を通さない様子だった。
俺は前足を振り上げる。
が、間に合わない。
残り二体が、俺の首元と肩に、棍棒を振り降ろす。
ローグハイルの分身が〖ウーズボム〗を準備している。
俺は振り上げた前足の先に、思いっきり力を籠める。
黒い炎が前足に宿る。
首元と肩に棍棒が直撃する。
が、後ろ足で踏ん張ってやった。
ウロボロスには、Aランクというほどに圧倒的な攻撃力はねぇ。
防御力もねぇ。魔力は高いが、同じく魔力特化型のA-のローグハイルと大差ない程度だ。
その代わり、ウロボロスには圧倒的なタフさがある。
「ゴ……」
俺の殺気に充てられてか、目下のトロル達が硬化を行った。
俺は奴らへ、勢いよく前足を放った。
黒い炎が宙に残り火の線を引く。
【通常スキル〖ドラゴンパンチ〗のLvが3から4へと上がりました。】
鋼化したトロルに直撃する。
先頭のトロルで止まるが、俺は目を見開き、更に腕に力を込めて振り切った。
「グゥオオオオオオッ!」
トロルに罅が入り、上体が下半身から引き千切れ、生身へと戻る。
【経験値を1104得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1104得ました。】
【〖ウロボロス〗のLvが103から104へと上がりました。】
その力のまま、背後にいた二体目のトロルをも吹き飛ばした。
【経験値を1120得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1120得ました。】
やってやった。
だが、頭に血が昇り過ぎた。
敵を減らせたのはいいが、最悪の位置だ。
ローグハイル分身体の〖ウーズボム〗が来る。
それだけじゃない。
ローグハイル本体も、凹凸だらけになっていた。
〖ウーズマシンガン〗が来る。
ギガントスライムも動いている。
今の状態から、普通にやって回避するのは難しい。
体勢が崩れれば、周囲から連撃をもらう。
そうなれば、如何に高HPの俺とて無事では済まない。
だったら、これしかねぇ!
この状況で使うのはギャンブルが過ぎるが、安全に道を切り開ける方法がねぇなら、運頼みしかねぇ。
俺は後ろ足で地を蹴って低空を飛び、そのまま身体を丸め、縦に回転した。
急に速度を上げた俺の後ろを、〖ウーズボム〗の粘弾が飛び交う。
地面に着地したとき、床に大きな亀裂が入った。
そのまま床を削りながら強引に進み、敵地のど真ん中を潜り抜け、途中でローグハイルの分身を一体引き潰してやった。
かなり遅れて、俺の走った軌道の道を、ギガントスライムの触手が穿つ。
やってやった、完全回避だ。
そのまま高みの見物を決めていたローグハイル本体へと接近する。
『チッ……なんだ、こやつは……!』
ローグハイルは触手で地面を叩き、上に大きく跳ねて回避した。
俺も回転を緩めて尾で床を叩き、自身を跳ね上げてローグハイルを宙へと追う。
回転力の残る前足を、ローグハイルへと思いっきり振りかぶる。
テメェみたいな奴には、絶対に負けたかねぇんだよ!
が、ギガントスライムの触手が宙を穿つ音がする。
俺はローグハイルを尾で弾き、自身を地面へと落として距離を取った。
チッ、打点を取り損ねた。
間に合わなかったか。
ギガントスライムの触手の超威力が、俺の身体を掠める。
やっぱり、アイツが厄介すぎる。
だが定位置にいるアイツを狙えば、残った全戦力から集団攻撃を受けちまう。
「ブルゥワアアアアアアアア!」
ギガントスライムの咆哮が轟く。
中の無数の骸が、悲し気に漂う。
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