第411話
「ブルゥワアアアアアアアア!」
巨大スライムに円形の窪みが生じ、そこから雄叫びが轟く。
俺でさえ恐怖を覚え、身体が一瞬凍り付いちまったほどだった。
中に取り込まれて浮かぶ骸の眼窩が、恨めし気に俺を見ているかのようだった。
巨大スライムが、俺へ向かって前進してくる。
速度は遅い。
だが、五体の巨人と、五体のローグハイルを相手取らなければならない俺の身としては、あまりに厄介すぎる。
【〖ギガントスライム〗:A-ランクモンスター】
【とんでもない暴食の魔物。】
【目についたもの全てを喰らおうとする。】
【取り込まれた者の魂は輪廻に回帰せず、〖ギガントスライム〗の中で苦しみ続ける。】
当然のように、A-クラスをバンバン持ってきやがって!
流石に今回のは洒落にならねぇぞ!
「ゴオオオオオ!」
顔の潰れた醜悪な巨人達が、ギガントスライムに先行して俺へと駆けて来る。
ローグハイルが地面を這い回り、俺を囲む様に動く。
【〖クエルトロル〗:B-ランクモンスター】
【鬼族の中でも、恐ろしく残忍な個体の至る進化。】
【黒い森の支配者達。】
【思考はいつも憤怒と苛立ちで覆われている。】
【捕まるなら死んだ方がいいと、冒険者達の間には語り継がれている。】
ぜ、全部B-クラス!?
ローグハイルの分身体は……!
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種族:ドッペル・ショゴス・ウーズ
状態:ドッペルゲンガー
Lv :75/75(LOCK)(MAX)
HP :53/53
MP :8/8
攻撃力:248
防御力:258
魔法力:461
素早さ:437
ランク:B-
特性スキル:
〖スライムボディ:Lv--〗〖触手:Lv5〗
〖帯毒:Lv6〗〖消化液:Lv5〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv2〗〖魔法耐性:Lv2〗〖毒耐性:Lv2〗
〖麻痺耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv5〗〖混乱耐性:Lv2〗
〖睡魔耐性:Lv4〗〖石化耐性:Lv2〗
通常スキル:
〖変色:Lv5〗〖ライフドレイン:Lv5〗 〖組み付き:Lv4〗
〖ウーズボム:Lv5〗〖病魔の息:Lv4〗〖自己再生:Lv5〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗
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……さすがに本体よりは大分落ちるようだが、それでもB-の最大レベルクラス……。
HPとMPはそう高くない。
恐らく、切り離したときに渡した分量しか、分身体達は得ることができないんだろう。
スキル説明にもあった通り、この程度の体力ならば一発殴れば消し飛ばせる。
……もっともそれは、殴ることができれば、だが。
先行する二体のトロル目掛け、俺は〖鎌鼬〗を放つ。
B-ランクの敵は、〖鎌鼬〗がまともに当たれば、その一発でかなりの痛手となる。
前二体のトロルの身体に風の刃が走り、肉が切り刻まれていく。
二体のトロルは身を屈めて膝を突き、動かなくなった。
よし、これくらいの敵なら、すぐに倒せ……いや、違う!
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種族:クエルトロル
状態:鋼化(中)
Lv :69/69(MAX)
HP :317/483
MP :174/192
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種族:クエルトロル
状態:鋼化(中)
Lv :68/68(MAX)
HP :299/477
MP :165/189
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よく見れば、血の流れがすぐのところで止まり、 肉の断面が妙な金属質になっている。
鋼化して、自身の行動を阻害する代わりに、防御力を引き上げるスキルか!
こっちは一体一体早く削りたいのに、嫌なスキルばっかり引っ提げやがって!
トロルに意識を向けている間に、散ったローグハイルの群れが、俺を回り込む。
どれが本体の個体だったが忘れそうになるが、一体だけ動きが早く、俺から距離を保っている奴がいた。
正面に自身が立つ気はないらしい。
本体を残し、四体のローグハイルが俺に直進してくる。
焼き払うしかねぇ。
俺に広範囲スキルは、〖灼熱の息〗に〖病魔の息〗、それから衝撃波を飛ばす〖地返し〗くらいだ。
天井の低いここだと〖地返し〗は使えない。ともなれば、〖灼熱の息〗頼りだ。
俺は息を吸い込み、腹部に魔力を溜める。
同時に、四体のローグハイルの身体に凹凸が生じる。
分身には〖ウーズマシンガン〗はない、あるのは〖ウーズボム〗だけだ。
単発ならば、そう問題ねぇ。
俺は〖灼熱の息〗を吐きながら、首を振り乱す。
相方が、俺の死角を潰す様にせっせと首を振っていた。
俺のブレス攻撃に対抗する様に、粘体の塊が四方から同時に放たれる。
と、同時にローグハイル達は散っていく。
まともにダメージを受ける奴らからすれば、ブレス攻撃は天敵だ。
一体位は潰しときたかったが、ローグハイル軍団を退かせるのが限界だった。
このままじゃ、ジリ貧過ぎる……。
牽制の炎のカーテンの中で、俺は打開策を練る。
やっぱしどうにかダメージを蓄積させて、あのトロルから削っていくしかないか……?
しかし、奴らは鋼鉄化のスキルで、ランク以上にタフだ。
ローグハイルの分身が先か?
しかし、奴らはそれなりに動きが速い。
トロルを囮に嫌らしい立ち回りをするから捕らえにくい。
手間取っていたら、それこそ奴らに攻撃の隙を与える。
トロルは近づいてくるまで放置し、近づいてきたら〖灼熱の息〗で纏めて鋼鉄化を使わせて一時的に足止め……その隙に、ローグハイルの分身が、逃げない様に確実に近接ダメージで仕留める……いや、それだと……。
考えごとをしていると、身体に急に悪寒が走り、痺れた様に動かなくなった。
辛うじて目を動かせば、視界の端に立つローグハイル本体が、身体中の目を見開いて俺を見ている。
ローグハイルの本体だけが持つスキル、魔眼スキルか!
〖恐怖の魔眼〗、〖石化の魔眼〗、〖狂気の魔眼〗の三種を持っていた。
恐らく使ったのは〖恐怖の魔眼〗か。
目が合わなくても使えるのかよ、クソ……!
「グォオオオオオッ!」
俺は魔力を発し、振り解く。
楽に発動できる分、拘束力は弱いらしいな。
ましてやステータスは俺の方が上だ。
気を張ってりゃ、これくらいは……!
突如、何かが飛来してきた。
それは炎の壁ごと突き破って、俺を弾き飛ばす。
一瞬、視界が眩んだ。
とんでもねぇ威力だ。
俺は翼を最大まで広げて空気抵抗を全面に受け、爪を地面に突き立てた。
数メートルほど後ろに弾かれただけで済んだ。
壁に身体を打ち付けでもしたら、余計なダメージを受ける上に、体勢が崩れて袋叩きにされる。
これ、は……ギガントスライム、か?
開けた視界の中、巨大な触手を俺目掛けて垂れさせる、ギガントスライムの姿が見えた。
やっぱし、あいつも無視できねぇ。
この手数の差は、はっきりと致命的だ。
続けて追撃を放つ極太の触手を、俺は横に跳んで回避する。
壁と床が削り取られ、大きな溝ができた。
あのスライム、ステータスをHPと攻撃力に全振りしてやがる。
パワーだけなら俺以上になるぞ。
この世界は極振りだと生きていけねぇが、集団戦の駒の一つとしては、恐ろしい働きをする。
『ヒョーッヒョヒョ! 今のは効いたであろう? よくやったぞお、ギガントよぉ』
ローグハイルからの〖念話〗が届く。
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