第396話
翌朝の早朝、俺はアロ、ナイトメアを連れて、アルバン大鉱山の坑道から這い出た。
以前王都に出向き、帰ってくるときに用いた鋼馬は開放してしまっていたため、また別の鋼馬を捕まえて移動することにした。
アロが鋼馬を〖ゲール〗の竜巻攻撃を交えつつ追いかけ回して脅しを掛けて、ナイトメアが糸で罠を張って鋼馬を捕えていた。
トレントさんは俺の横に並び、しみじみとその様子を観察していた。
トレントさん……〖グラビティ〗使ったら、鋼馬の足止めになるんじゃねぇの?
俺が尋ねると、トレントさんは寂し気に幹を振るう。
〖グラビティ〗の無差別足止めで散々大顰蹙を買った記憶が抜けないのかもしれない。
そっか……つれぇな。
トレントさんの足じゃ、〖グラビティ〗を鋼馬にぶつけんのも難しいもんな……。
俺がトレントさんと黄昏ている間に、アロとナイトメアが二体の鋼馬を用意してくれた。
おどおどと周囲を見る鋼馬へと目をやってから、俺はその更に奥、王都アルバンへと目を向ける。
今日で、今度こそあのスライムと決着をつける。
これ以上、あいつに好き勝手やらせるわけにはいかねぇ。
いや、スライムだけじゃねぇ。
いずれ、神の声とも決着をつけてやる。
神の声は、スライムに何らかの干渉を行っている。
あの化け物を生み出すのに神の声は関わっていて、あいつは魔物を率いて人間を餌にする、魔王となった。
リリクシーラは、魔物と人間をぶつけて遊んでいる神の声を、世界の行く末を我々に任せていると好意的に解釈しており、その根拠も聖国にあると言っているが……俺にはやっぱり、とても信じられねぇ。
この世界のシステムそのものといっても過言でもないような存在に、俺が何をできるのかはわからない。
だが、王都へ行ってスライムの悪行を知り、はっきりと確信を持ったことがある。
スライムを経由して人命を弄ぶ神の声は、何の理由があっても正当化されるべき存在ではない。
神の声よ。
最近はめっきり声を掛けて来ねぇが、どうせ俺を見てやがるんだろ?
俺は、お前も許さねぇ。まずはスライムだ。
だがその後……いつになるかは、わからねぇが、絶対、お前もぶっ飛ばしてやるからな。
【特性スキル〖神の声:Lv5〗では、その説明を行うことができません。】
俺を小馬鹿にするように、神の声からのメッセージが届く。
さて、そろそろ向かうとするか。
俺はアロ、ナイトメア、相方へと目を向け、最後にトレントさんへと軽く頭を下げる。
トレントが、俺とアロを交互に見た後に、幹をフルフルと揺らす。
本当に俺達が無事帰ってこられるのかどうか、不安らしい。
ナイトメアへ視線を送らない限り、徹底している……と、思いきや、俺の目を盗む様に、チラチラとナイトメアの方を見ていた。
なんやかんや、ちゃっかりナイトメアの心配もしているらしい。
トレントさん、ツンデレだったのか。
安心しろよ、トレントさん。
俺は絶対生きて戻るし、アロやナイトメアも絶対殺させねぇからよ。
なに、一度勝った相手だ。
俺がそろそろ移動を開始するかと考えていたところ、坑道からこっちへと駆けて来る奇妙な液体金属があった。
その中央部には、チカチカと光る核が埋もれている。
マギアタイト爺さんも、俺達を見送りに来てくれたようだ。
『ソウカ、マタ行クノカ』
マギアタイト爺は、俺のすぐ前まで来て、〖念話〗で語り掛けて来る。
俺は首を下ろし、極力目線を合わせる。
おう、爺さん。んじゃ、俺はちっと世界救って来るわ。
坑道はレベリングのために危ない魔物は一通り狩ったし、必要ないとは思うが……トレントさんに万が一がないか、一応付き添ってやっててくれ。
『…………イヤ、ソレハデキン』
マギアタイト爺が、身体を振る様に揺らす。
な、なんだ?
まさか、魔王様を傷つける奴は許さない的な展開か?
てっきりマギアタイト爺は魔王に与していないと考えていたのだが、俺の考えが甘かったか?
『竜ヨ、余ヲ、連レテイッテクレ。コウ見エテモ、余ハソレナリニ強イ。役ニ立ツハズダ』
マギアタイト爺の〖念話〗で話す内容に、俺も相方も黙ってしまった。
予想外の申し出である。
しかし、マギアタイト爺はB-ランクでレベルが高く、スキルも応用の利きそうなものが盛りだくさんである。
アロと同等か、それ以上の戦力を持つ。
少なくとも、見回りの兵となっていたナイトスライムの様な下位種を複数相手取る、くらいのことはやってくれそうだ。
マギアタイト爺がいれば、戦闘がかなり楽になる。
しかし……ありがたいけどよ、なんでそんな急に、手を貸す、だなんて言い出し始めたんだ?
昨日、俺が王都から帰ってきた段階で、俺達が魔王の討伐を目論んでいることを知っていたはずだ。
『……奴ガ、怖カッタ。ダカライママデ、ズット迷ッテイタ。ダガ、余ニハ、大キナ責任ガアル』
責任……?
『王都ヲ根城ニシテイル魔王ハ、奴ハ……余ガ、海辺デ拾イ、助ケタ、スライムナノダ……』
え? マ、マギアタイト爺さんが、あのスライムを、助けた……?
海辺っつうことは……やっぱり、俺と同様、崖底の川から海へ流されていたらしい。
『今デモ覚エテイル。奴ハ、必要ナスキルガアッタカラダトイイ……奴ノ恩人デモアル、余ノ古イ友ヲ殺シタノダ。アノトキ、既ニ余ヨリ奴ハ強ク……余ハ、何モデキナカッタ。ダガ、ヤハリ、奴ノ仇ヲ、討ッテヤリタイ。余ニ、協力サセテクレ』
……それはありがたいんだけどよ。
だが、マギアタイト爺さんは、一応〖人化の術〗はあるみたいだが、スキルレベルがたったの2だ。
MPも、ずば抜けて高いわけじゃない。
悪いが、王都にはつれていけない。
『……ナラバ、コレデドウダ?』
マギアタイト爺の姿が変形し、固まって圧縮されていく。
そして、あっという間に一本の剣へと変化した。マギアタイトのコアは、剣の柄に飾りの様についている。
なるほど……これならば、確かに自然と、王都まで持ち込むことができる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます