第395話

 アルバン大鉱山内部へと戻った俺は、アロ、ナイトメアのレベリングを開始することとなった。

 俺達を出迎えてくれた液体金属、〖マギアタイト・ハート〗ことマギアタイト爺も、流れで俺達についてきた。


 ……残念だが、人間に化けられないトレントさんは、魔王討伐に来ることができない。

 今回のレベリングはあくまでおまけになる。

 また差が開くと凄く悲しそうな顔をしていたが、仕方ない。


 トレントさんを連れて行くには、トレントさんを抱えて城まで飛んで強襲する必要があるが、そうすると魔王へ警戒を促すばかりか、王都中の戦力が俺に集中する。

 そうなるとリリクシーラも、俺の討伐に動かざるを得なくなる恐れがある。


 元々、機転が利かず、速度がなく、不器用なトレントさんは、今回の作戦では身の危険があまりに高すぎるのだ。

 無理をして連れて行く理由は残念ながらどこにもなかった。


 トレントは、アロからは枝に手を置いて慰められ、ナイトメアからは床に糸を吐いて煽られていた。

 相方ァ……俺から言っても聞かないから、ナイトメアをどうにか更生させてやってくれ。


『イインジャネ? オ前ハ潔癖スギンダヨ、冗談ミタイナモンダロ』


 相方は欠伸混じりに俺へと返す。

 今は冗談でも、こういうところからイジメが始まっていくんだぞ?

 ナイトメアなんか、進化してでかくなっても、中身は子供だからな?

 俺達が教育していかねぇと駄目なんだよ。


 俺が説得しても、相方は乗り気ではなさそうだった。

 ……仕方ない、俺から言うしかないのか。


 横目で俺と相方の様子を窺っていたアロが、トレントを軽く抱いて、ナイトメアを睨む。


「ナイトメア、ダメ。トレント、嫌がってる」


 アロに怒られ、ナイトメアの身体がピクリと揺れ、数秒の静止の後に、渋々とトレントへと頭を下げた。

 アロ……さすが、B+ランク。

 ナイトメアも、アロには一目置いているのか、素直であった。

 トレントも、感涙の雫を目に湛えている。


「竜神さま! 竜神さま!」


 アロがトレントから離れて俺の足許に寄って来て、ちらちらと顔を見上げて来る。

 おう、よくトレントを助けてくれた、アロ。

 俺が言ってもあんまり聞かねぇから助かるよ。

 頭を撫でてやりたいが、爪が引っかかったら頭皮を引き剥がしかねないので自重する。


 トレントがちょっと寂しそうに、ナイトメアがやや納得いかなさそうにアロの背を見ていた。


「……ガァ」

『……アロモ、ナカナカ逞シクナッタナ』


 相方がやや呆れ気味に言う。

 俺は何のことかわからず、首を傾げた。


 洞窟を突き進む。

 今回は探索ではなく、レベリングが目的なので、〖気配感知〗で積極的に魔物を探していく。


 俺はこう見えても、レベリングのプロだ。

 俺のレベリングにはBクラス上位が山ほど出没するアダム島くらいがちょうどよかったが、アロ達のレベリングはCクラス前後がメインとなるこのアルバン大鉱山が一番効率よくレベリングできるはずだ。

 要するに、無理にデカい奴を集団で狙って倒すより、自分と同等か少し下の相手との戦いを数熟す方が、経験値が入手しやすいのだ。


 アロ達はまだ【アロLv:22/85】、【ナイトメアLv:20/70】、【マジカルツリーLv:10/60】レベルと、まだレベルの上がりやすい低レベル帯だ。

 レベリング適正地であるここならば、俺のサポートがあれば、半日でもある程度まで持っていけるはずだ。


『魔物狩リハイイガ……デキレバ、ココノバランスヲ崩サヌ範囲デ頼ムゾ。グリムアンモハ、大喰ライナ上ニ増エルカラ、多メニ間引イテクレレバムシロアリガタイガ』


 マギアタイト爺から〖念話〗が飛んでくる。

 ずっとついてきていると思ったら、忠告するタイミングを窺っていたようだ。

 加減がわからず、必死な俺には、調整をしてくれるマギアタイト爺の忠告はありがたい。

 頭を下げて軽く礼をすると、マギアタイト爺は安堵した様に、へたりと液体金属の身体が広がり、低くなる。


 べ、別に、逆上して喰ったりしねぇよ……?


 グリムアンモは、甲殻が虹色の輝きを放つ鉱石と化した、巨大アンモナイトである。

 一度、トレントさんを囲んで喰おうとしていた魔物だ。集団で動くCランク上位であるため、アロ達のレベリングには最適な相手といえる。


 道中、どこかクレイベアに似た、角張ったクマ〖ベアズストーン〗と遭遇したが、マギアタイト爺が液体金属からのっぺらぼうの頭部を延ばし、首を横に振ったので、前脚で跳ね飛ばして脅かし、逃がすことにした。

 ベアズストーンがドタドタと、わざとらしい動きで逃げていく。


『奴ハ希少種デ、臆病デ大人シイ。増エスギテイル、グリムアンモヲ主食トシテオル。出来レバ、見逃シテヤッテクレ』


 ……あれは、喰えそうにねぇしな。

 食べられない魔物を倒すのは、どうにも罪悪感がある。


 やがてアンモタイトの群れが見つかる。

 アロは土の腕を地面から生やすスキル〖未練の縄〗で動きを縛り、風魔法〖ゲール〗、土魔法〖クレイ〗で、効率よくアンモタイトを狩っていく。

 ナイトメアも、糸を駆使し、グリムアンモを甲殻から引き摺り出して、脆い身体に、面の下の口で噛みつきを放っていた。


 トレントは〖アンチパワー〗を使って攻撃力を下げながら、えっちらおっちらとグリムアンモから逃げ回り、アロやナイトメアの射程範囲へと誘導していた。

 無理をして攻撃に移り、ダメージを受ける様を想像していたので、素直に支援に徹してくれてほっこりした。

 そうそう、そうやって支援に徹してくれるといいんだよ!

 すげぇ、トレントさんが有能に見えるぞ! もう無差別行動阻害魔法、〖グラビティ〗は封印してくれ。


 俺は危ないところがあれば即座に〖鎌鼬〗で援護してグリムアンモを跳ね飛ばし、ダメージを受ければ即座に相方の〖ハイレスト〗と、アロ用回復魔法〖フェイクライフ〗が飛ぶ。


 ナイトメアとトレントのMPが底を尽き、アロがぐったりとし始めたところで、休息に入ることにした。

 アロはHP、MPは俺を電池にすれば不屈だが、精神的な疲労が大きいのだろう。


 明日は、再び王都に向かい……あのスライムと、今度こそ決着をつける。


 アロ達のレベルを確認して見る。

 アロは【Lv:22/85】から【Lv:29/85】へ、

 ナイトメアは【Lv:20/70】から【Lv:25/70】に、

 トレントは【Lv:10/60】から【Lv:15/60】にまで上がっていた。


 ここで粘れば、数日でレベル40くらいまでは上げられそうだが……時間がないのが惜しい。

 だが、このレベリングの意味は大きい。

 これでステータスが、多少は三騎士に追いついた。


 久々に、じっくりと戦力を確認しておくか。


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〖イルシア〗

種族:ウロボロス

状態:通常

Lv :102/125

HP :2655/2655

MP :453/2564

攻撃力:1029

防御力:584

魔法力:1129

素早さ:735

ランク:A


神聖スキル:

〖人間道:Lv--〗


特性スキル:

〖竜の鱗:Lv7〗〖神の声:Lv5〗〖グリシャ言語:Lv3〗

〖飛行:Lv7〗〖竜鱗粉:Lv7〗〖闇属性:Lv--〗

〖邪竜:Lv--〗〖HP自動回復:Lv8〗〖気配感知:Lv5〗

〖MP自動回復:Lv6〗〖双頭:Lv--〗〖精神分裂:Lv--〗

〖意思疎通:Lv3〗〖支配者の魔眼:Lv1〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv5〗〖落下耐性:Lv6〗〖飢餓耐性:Lv5〗

〖毒耐性:Lv6〗〖孤独耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv4〗

〖闇属性耐性:Lv4〗〖火属性耐性:Lv3〗〖恐怖耐性:Lv3〗

〖酸素欠乏耐性:Lv4〗〖麻痺耐性:Lv6〗〖幻影耐性:Lv3〗

〖即死耐性:Lv2〗〖呪い耐性:Lv2〗〖混乱耐性:Lv2〗

〖強光耐性:Lv1〗〖石化耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖転がる:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv7〗〖灼熱の息:Lv5〗

〖ホイッスル:Lv2〗〖ドラゴンパンチ:Lv3〗〖病魔の息:Lv6〗

〖毒牙:Lv7〗〖痺れ毒爪:Lv6〗〖ドラゴンテイル:Lv2〗

〖咆哮:Lv3〗〖天落とし:Lv4〗〖地返し:Lv2〗

〖人化の術:Lv8〗〖鎌鼬:Lv7〗〖首折舞:Lv4〗

〖ハイレスト:Lv7〗〖自己再生:Lv5〗〖道連れ:Lv--〗

〖デス:Lv4〗〖魂付加(フェイクライフ):Lv4〗〖ホーリー:Lv2〗


称号スキル:

〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗

〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv8〗

〖嘘吐き:Lv3〗〖回避王:Lv2〗〖悪の道:Lv9〗

〖災害:Lv9〗〖チキンランナー:Lv3〗〖コックさん:Lv4〗

〖卑劣の王:Lv9〗〖ド根性:Lv4〗〖|大物喰らい(ジャイアントキリング):Lv3〗

〖陶芸職人:Lv4〗〖群れのボス:Lv1〗〖ラプラス干渉権限:Lv2〗

〖永遠を知る者:Lv--〗〖王蟻:Lv--〗〖勇者:Lv7〗

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 ……明日は、〖魂付加(フェイクライフ)〗を容赦なく使うつもりだ。

 ここで配下を作っても連れて行けないので、向こうでその場その場で作ることになる。

 アロやトレントの例からいって、レベル1スタートとなるため、どの程度有効なのかはわからねぇが……敵の多い城内では、攪乱や、隙を作る意味はあるかもしれねぇ。

 このスキルは、使い方次第でかなり応用が利くと、俺は見込んでいる。


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名前:アロ

種族:レヴァナ・リッチ

状態:呪い

Lv :29/85

HP :412/412

MP :430/430

攻撃力:211

防御力:185

魔法力:476

素早さ:104

ランク:B+


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv4〗〖アンデッド:Lv--〗〖闇属性:Lv--〗

〖肉体変形:Lv7〗〖死者の特権:Lv--〗〖土の支配者:Lv--〗

〖悪しき魔眼:Lv4〗〖アンデッドメイカー:Lv--〗


耐性スキル:

〖状態異常無効:Lv--〗〖物理耐性:Lv5〗

〖魔法耐性:Lv5〗


通常スキル:

〖ゲール:Lv7〗〖カース:Lv4〗〖ライフドレイン:Lv5〗

〖クレイ:Lv7〗〖自己再生:Lv5〗〖土人形:Lv6〗

〖マナドレイン:Lv6〗〖未練の縄:Lv6〗〖亡者の霧:Lv5〗

〖魅了:Lv1〗〖ワイドドレイン:Lv2〗〖ダークスフィア:Lv2〗


称号スキル:

〖邪竜の右腕:Lv--〗〖虚ろの魔導師:Lv7〗〖朽ちぬ身体:Lv--〗

〖最終進化者:Lv--〗〖アンデッドの女王:Lv--〗

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 アロの強みは、魔力の高さは無論のこと、アンデッドのためかずば抜けて高いHPにある。

 おまけにドレインスキルで、タフなHPを最大限に活かした立ち回りができる。

 素早さが欠点だが、普段は遠距離魔法と肉体変形を合わせた、トリッキーな戦闘スタイルでカバーできている。

 アロ、ナイトメア、トレントさんの中でも、ステータスだけでなく、スキル構成もずば抜けて戦闘能力が高い。


 アロのタフさならば、レベルで格上の〖ポイズンマスター〗ことサーマルの一撃に耐えられる。

 それだけでなく、〖状態異常無効〗の神耐性スキルがあるため、サーマルのスキルを死に札にできる。

 問題は奴とのステータス格差だが、間違いなく相性は最高である。

 ナイトメアや他の冒険者のサポートがあれば、押し切れるかもしれない。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ナイトメア

状態:通常

Lv :25/70

HP :218/218

MP :18/211

攻撃力:183

防御力:117

魔法力:190

素早さ:145

ランク:C+


特性スキル:

〖闇属性:Lv--〗〖HP自動回復:Lv3〗〖帯毒:Lv5〗

〖気配感知:Lv3〗〖猫又:Lv--〗〖忍び歩き:Lv5〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv4〗

〖毒耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv4〗


通常スキル:

〖毒牙:Lv4〗〖蜘蛛の糸:Lv5〗〖仲間を呼ぶ:Lv1〗

〖糸達磨:Lv3〗〖毒糸:Lv3〗〖首吊り糸:Lv4〗

〖騙し討ち:Lv3〗〖カース:Lv2〗〖人化の術:Lv5〗

〖自己再生:Lv2〗〖ダークスフィア:Lv2〗〖クレイ:Lv3〗


称号スキル:

〖邪竜のペット:Lv--〗〖糸の達人:Lv5〗〖意地悪:Lv--〗

〖突然変異:Lv--〗〖執念:Lv5〗〖狡猾:Lv4〗

〖深淵喰らい:Lv2〗〖暗殺者:Lv5〗〖最終進化者:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ナイトメアはステータスこそアロに大きく劣るが、凶悪な糸スキルがある。

 トラップを張るのに専念できるだけの狡猾さもある。

 下手に攻撃を受ければかなり危ういが、戦い方を限定し、補佐に徹すれば、充分戦える余地がある。

 三騎士との直接対決は厳しいが、雑兵スライム相手なら、充分罠に嵌めて蹂躙できるはずだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:マジカルツリー

状態:呪い

Lv :15/60

HP :223/223

MP :11/166

攻撃力:64

防御力:134

魔法力:169

素早さ:78

ランク:C+


特性スキル:

〖闇属性:Lv--〗〖グリシャ言語:Lv2〗

〖硬化:Lv3〗〖MP自動回復:Lv1〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv5〗


通常スキル:

〖根を張る:Lv4〗〖クレイ:Lv2〗〖レスト:Lv4〗

〖ファイアスフィア:Lv2〗〖アクアスフィア:Lv2〗〖クレイスフィア:Lv3〗

〖ウィンドスフィア:Lv2〗〖念話:Lv2〗〖グラビティ:Lv3〗

〖ポイズンクラウド:Lv1〗〖フィジカルバリア:Lv3〗〖アンチパワー:Lv4〗


称号スキル:

〖邪竜の下僕:Lv--〗〖知恵の実を喰らう者:Lv--〗

〖白魔導師:Lv4〗〖黒魔導師:Lv4〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 トレントさん、は……うん、どうしてもレベルがな……。

 〖アンチパワー〗があればアロが一気に戦いやすくなるのだが、残念ながらトレントさんを運ぶ手段がない。

 俺がつい頭を下げると、そそくさとトレントさんも頭を下げた。


 俺達は、アルバン大鉱山の坑道の奥で眠りについた。

 俺が腰を落としてじっとしていると、マギアタイト爺が俺の許へとやってきた。


『魔王ヲ、討ツノカ?』


 ……俺達の様子を見て、勘付いたらしい。

 やっぱり知ってたんだな、魔王の事を。

 どうする、止めるのか? と、思念で返す。


『…………イヤ』


 マギアタイト爺は、少し考えた後に、否定する様に小さく身体を振り、俺達の許から離れて行った。

 なんだ? どこか、不審な気もするが……。

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