第370話
エルディアがこちらに向かってほぼ垂直に飛来してくる。
エルディアが赤黒い歯茎と、巨大な牙を露わにして俺を威嚇する。
『なぜ貴様ぁ! ニンゲンなどと仲良く談笑しておるのだぁ!』
俺はエルディアを見下ろし、エルディアの状態を調べる。
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『エルディア』
種族:ディアボロス
状態:憤怒(大)
Lv :130/130(MAX)
HP :1697/1697
MP :1316/1316
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駄目だ、完全にブチ切れている。
話し合いが通じそうにねぇ……っつうか、話し合いの余地ねぇよな、これ。
「なに……あの、数値……」
リクシーラもエルディアのステータスを見たらしく、顔を顰めていた。
攻撃力1500オーバーは、レベルカンスト聖女さんも、さすがにあまり相手取りたい敵ではないようだ。
「……もしかして、お知り合いなのでは?」
リリクシーラが、目を細めて俺を見る。
俺は何も返せず、戸惑いながら目線を避けてしまった。
見ていなくとも、リリクシーラと女剣士アルヒスの視線が突き刺さっているのがわかる。
本音で言えば、エルディアとは戦いたくなかった。
だがエルディアは、魔王の誕生を知れば、間違いなく魔王側につこうとするはずだ。
これ以上、なぁなぁで馴れ合うわけにはいかねぇ。
俺は上体を持ち上げ、翼をはためかせる。
魔力の込められた風を腕に伝わせ、爪先から放つ。
〖鎌鼬〗のスキルによって生成された風の刃が、こちらへ向かうエルディアの目前の、大樹の太い枝を切断した。
枝をエルディアは、身を翻して回避する。
直進を止め、滞空しながら俺を睨む。
つ、次は当てんぞ!
こっちは俺と、アロ達三体、そして聖女と付き人、聖女の竜が付ている。
七対一だ。おまけに俺とリリクシーラ、聖竜セラピムはAランク相応。
いくらLv130だろうが、圧倒的に不利なのはそっちだぞ!
『オマエ、ワザト外シタナ?』
呆れた様に、相方が俺を見る。
せ、戦略的な警告だ。
確かに戦い辛いという精神的な理由もあるが、なにより、交戦になったらアロ達の身が危ない。
エルディアも俺も、お互いにこの場での戦いは望まないはずだ。
『そうか、それが答えだというのだな、双頭竜よ!』
エルディアが滞空の姿勢を崩して前傾し、再び垂直に飛び掛かってくる。
駄目だった。怒り狂った相手に和平交渉など成立するはずもなかった。
そもそもエルディア自身が、実利があろうとも和睦を受け入れられる様な性格だとは思えない。
「リリクシーラ様! 聖竜様を!」
「〖スピリット・サーヴァント〗! お出でなさい、救国の聖竜、セラピム!」
一度は消されていたセラピムが、聖女が杖を掲げると、瞬時に姿を現す。
神々しき白の竜が、澄ました顔でエルディアを見下ろす。
巨大樹の枝から飛び降りてエルディアへの距離を縮め、翼を大きく広げて滞空。
セラピムの広げた翼の背後に無数の光が集まり、それがエルディアへと目掛けて降り注いでいく。
光の雨が、巨大樹の枝を削り飛ばしながら、エルディア目掛けて落ちていく。
スキル〖ライトニングレイン〗とやらだろう。
この位置関係ならば、最適の技だ。
完全回避は難しい。それにセラピムもAランクモンスターである。
エルディアへも十分ダメージが通るはずだ。
「ゴォアアアアアッ!」
エルディアが雄たけびを上げる。
エルディアの身体を、魔力の膜が覆う。
〖マナバリア〗か。元々耐性ガチガチのエルディアに、更に魔法への耐性が重ねられる。
エルディアは光の弾幕を、ブチかましで突破する。
頬と、背に光の球が当たり、エルディアの鱗を削り、血肉を抉った。
だが、止まらない。
高ステータスを誇るエルディアは、易々とセラピムの傍へと接近し、紫紺に輝く太い腕を振り上げた。
「クゥォオオッ!」
セラピムが鳴き声を上げる。
セラピムとエルディアの間に、光の壁が生じた。
恐らくは〖光の盾〗のスキル……自身の耐性やステータスを上げるタイプのものではなく、攻撃を防ぐためのスキルらしい。
すぐに振り下ろされるかに思えたエルディアの腕だったが、セラピムが〖光の盾〗を用いる隙を突いて、腕を大きく引いていた。
俺が今までに見た中での最大攻撃力値が、存分にセラピム目掛けて振り下ろされる。
〖光の盾〗が硝子板の様に砕け散り、奥にいたセラピムの腹部をまともに殴りつけ、同時に禍々しい大爪で抉った。
「クギュェェッ!」
セラピムの悲鳴が響く。
セラピムが後方に弾き飛ばされ、巨大樹に背を打ち付ける。
腹部が大きく抉れて肉が裂けているが、血は出ていない。
セラピム本体から離れて飛び散った肉は、白い光になって消えてく。
状態のスピリット、と関係があるのだろう。やはり、霊体ということか。
物理ダメージはまともにもらうみてぇだが……。
『人に飼い慣らされた憐れな竜め! 雑魚はすっこんでおれ!』
手出しする間もないほど一瞬のことであった。
「聖竜様ッ!?」
アルヒスの顔が青褪めていた。
「まさか、こんな魔物がまだいたとは……」
リリクシーラも、戦力補充のために俺を追い掛けてきて、まさかお目当て以上の魔物の襲撃を受けるとは想定していなかったらしく、困惑げであった。
俺も少し、エルディアを舐めていた。
硬い、速い、重い。単純だが、それ故に破綻がない。
ステータス値は、生半可なスキルを超える。
エルディアがセラピムを殴り飛ばした一撃は、スキルでも何でもない。
エルディアには爪スキルや打撃スキルはない。
ひょっとしてエルディア、王族に成りすましてせこせこレベル上げしてるらしい魔王なんかよりよっぽど強いんじゃなかろうか。
リリクシーラを見たときはAクラスが実質三体分かと慄いていたが、エルディアはそれどころではなかった。
リリクシーラも、魔力以外のステータスではエルディアに遠く及ばない。
エルディアが、俺と同じ高さまで高度を上げ、身を翻して勢いを付けた尾の一撃を放つ。
俺の目前の枝が、木屑を上げて大きく抉れる。
その反動で、エルディアがやや後方まで飛び、別の枝へと着地した
凄まじいキレの〖ドラゴンテイル〗だ。反応できなかった。
当てる気なら、一発もらっていた。
『貴様の先制攻撃の分だ』
余裕ぶったふうにエルディアが言う。
そして真紅のギラギラと輝く相貌が、俺と相方の双方を睨む。
『さて、どういうつもりなのか、ゆっくりと聞かせてもらうとしようではないか、双頭竜よ』
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