第350話

 俺はどうにか低空飛行で、バジリスクの餌候補共を振り切って逃げることに成功した。

 奴らは所詮興奮して錯乱状態にあるだけの獣だ。

 適当に距離を置けば必要以上に追ってくることはなく、後は餌同士で潰し合っていた。

 バジリスクは俺をあの大乱闘に巻き込みたかったらしいが、魔力差が開いていたのでそこまで重度の状態異常に陥らなかったのが幸いだったな。


 振り返れば、遠くに魔物達が奇声を上げながら戦っているのが見える。

 アダムが〖グラビドン〗を乱射しつつ、足技で周囲の魔物を叩き潰して無双していた。

 アダムは攻撃と速度特化のアタッカータイプだ。

 ランク下の魔物が付け入る隙はねぇだろう。

 ……いや、ランク下のバジリスクに石にされてたんだったか。


 ある程度距離が取れたところで、俺は早々に着陸した。

 ナイトメアが糸でどうにか壺を運んでくれているものの、いかんせん運び方が荒いので中のものがかなり飛び散っている。


 相方が喰いたがっていたバジリスクも、毛皮が剝がれて肉が抉れ、ボロボロである。

 地面に引きずり回されてたんだから当然だが、なかなかにえげつない。見せしめで凄まじく処刑された後みたいになっている。

 因みにバジリスクの〖帯毒〗はなかなか侮れないらしく、バジリスクが引きずられた後は、バジリスクの赤紫の体液が地面に散らばって、ジュウと土を焦がして煙を出している。


 ……あれ、喰っちゃダメな奴だろ。

 相方よ、アレ、本気で喰いたいか?

 お前にはいつも世話になってるし、感謝してっから、どうしてもっていうんならそりゃもう、喰っていいよ?

 どうせ俺ら、腹なんかそうそう壊さないだろうし。

 でも、ちょっと、あんまりお勧めできねぇよ。

 ちょっと待ってくれたら、もっといいもん用意できる自信があるぞ俺は。


 地上に降り立ってからは、トレントを置いて、顎を地面に着けて舌を伸ばし、アロを地面へと転がした。

 俺の唾液塗れになって転がったアロが、唾液の上から土塗れになった。

 おうふ……悪い。


 アロがむくりと起き上がった後、気にしてないよ、というふうに頷いた。

 頷いたが、口には出してくれなかった。

 そ、そうだ! それより、進化よ進化!

 これでついにアロも進化圏内に入ったはずだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:アロ

種族:レヴァナ・ローリッチ

状態:呪い

Lv :65/65(MAX)

HP :382/382

MP :368/405

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 来たァッ! アロの、四度目の進化だ。

 アロは泥まみれの身体をしょんぼりと払っていたが、俺の顔からレベル上限に達したことを察したらしく、顔色を輝かせ、手をぱたぱたと上下させて喜んでいる。


 ナイトメアと、トレントのステータスも見ておこう。

 こいつらも結構上がってるかもしれねぇ。

 

 俺は相方の口からもそもそと出てくるナイトメアへと目を向ける。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ナイトメア

状態:通常

Lv :14/70

HP :122/174

MP :84/163

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 さ、さすがナイトメア……。

 結構体張ってアシストしてくれてたもんな。

 序盤はレベル上がりやすいとはいえ、これはなかなかの快挙だろう、

 おいおい、この調子じゃ、そのウチ寝首掛かれかねねぇな。


 俺に褒められても嬉しくないらしく、ツンとした感じで俺から目を逸らし、相方の首へと糸を吐きかけてよじ登っていく。

 相方は自分の唾液だらけのナイトメアが登ってくるのがなんともいえないらしく、ちょっと顔を顰めていた。

 わかる、わかるぞその気持ち。俺はこっそりと同意した。


 さて、トレントさんは……。

 トレントは俺へと期待の眼差しを向けながら近づいて来る。

 ふっふ、そう慌てるんじゃねぇって。しっかり見てやっからさ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:マジカルツリー

状態:呪い

Lv :1/60

HP :161/161

MP :110/110

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 俺はサッと目を逸らした。

 おーい相方!  アロを進化させるために、〖魂付加フェイクライフ〗を撃ってくれ!

 トレントは無表情でじっと俺の方へと目の穴を向けていたが、俺はついに目を合わせることができなかった。

 アロは俺に気を遣うように、トレントから距離を置いた方向から俺へと近づいて来る。


「ガァッ!」


 相方が吠えると、黒い光がアロへと纏わりつく。

 やがて黒い光が消えて、アロが姿を見せる。

 目を瞑ったまま、ただじっと立っていた。


 進化……できたのだろうか?

 さっきまで纏わりついていた泥は綺麗に落ちている。ただ、外見に大きな変化はないが……。

 やや背が伸びて、顔つきが色っぽくなったようには思う。

 いままでは十歳ほどだったはずだが、三歳分くらい成長したのではないだろうか。


【〖レヴァナ・リッチ〗:B+ランクモンスター】

【土を自在に操って身体に纏う、レヴァナ系統のアンデッドの最上位。】

【生者に強い執着を持つアンデッドは、ついに土から完全に理想の肉を造り出すことに成功した。】

【その美しさは、討伐に出向いた冒険者さえも虜にすることだろう。】


 び、B+だとぅ!?

 Aである俺のちょうど一つ下にあたるな。ついにここまで追いつかれちまったか……。

 アロは魔法攻撃一点突破型だし、万が一アロを本気で怒らせたら、俺でも大ダメージ負いかねねぇんじゃなかろうか。

 ……な、なるべく口に入れて運ぶのはやめよう。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:アロ

種族:レヴァナ・リッチ

状態:呪い

Lv :1/85

HP :164/164

MP :179/179

攻撃力:121

防御力:101

魔法力:260

素早さ:88

ランク:B+


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv4〗〖アンデッド:Lv--〗〖闇属性:Lv--〗

〖肉体変形:Lv7〗〖死者の特権:Lv--〗〖土の支配者:Lv--〗

〖悪しき魔眼:Lv4〗〖アンデッドメイカー:Lv--〗


耐性スキル:

〖状態異常無効:Lv--〗〖物理耐性:Lv4〗

〖魔法耐性:Lv5〗


通常スキル:

〖ゲール:Lv7〗〖カース:Lv4〗〖ライフドレイン:Lv5〗

〖クレイ:Lv7〗〖自己再生:Lv5〗〖土人形:Lv6〗

〖マナドレイン:Lv6〗〖未練の縄:Lv4〗〖亡者の霧:Lv4〗

〖魅了:Lv1〗〖ワイドドレイン:Lv1〗〖ダークスフィア:Lv1〗


称号スキル:

〖邪竜の右腕:Lv--〗〖虚ろの魔導師:Lv7〗〖朽ちぬ身体:Lv--〗

〖最終進化者:Lv--〗〖アンデッドの女王:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ま、魔眼のスキルレベルが上がっている!?

 今まで特に使ってるところは見たことがなかったが、なんか効果が出るようになんのかな……。


 新しく増えたスキルは……特性スキルは〖アンデッドメイカー〗だけか。

 なんか不穏だな……これって、そういうことだよな?

 通常が〖魅了〗、〖ワイドドレイン〗、〖ダークスフィア〗……み、魅了……。

 〖ワイドドレイン〗は、広範囲へのドレインだよな。


 指定はないが……これは、HPとMPの両方か?

 そんで……称号スキルが、〖最終進化者〗と、〖アンデッドの女王〗か……。

 アロの進化はここまでなのか。ナイトメアもC+どまりだし、こんなもんなのかもしれねぇな。

 まだ〖最終進化者〗を持ってねぇのはトレントさんだけだ。

 これ、まさかのトレントさん一強時代が来るかもしれねぇな。


 さて、ついにトレント、ナイトメア、アロが進化を迎えちまったわけだが……C+、C+、B+か。

 俺が進化するのはまだもうちょっと掛かりそうだし……ちょっとレベリングしたら、大樹下の神殿に向かえるかもしれねぇな。


 あそこは、俺と何らかの関係があるはずだ。

 今更この世界と、俺が元いた世界の関係がわかったところで、俺なんかが関われる問題だとは思えねぇ。

 こっちで大事なもんが増えすぎたし、何より俺には前世の知識はあるが、エピソード記憶は一切ない。

 それでも、俺は知っておきたい。

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