第347話
「アア、アァアアア、アアアアアァァァアァァッ!!」
バジリスクの、老翁の頭部がけたたましく吠えながら飛び掛かってくる。
ぎらりと、白目のない悪魔の様な赤い眼が輝く。
真っ向からバジリスクの目を受けると、身体全体に寒気が走った。
〖石化の魔眼〗だ。
俺は身体中の魔力の流れを意識し、対応した。
俺の身体に変化はない。
魔力の数値があまりにかけ離れて居るので、状態異常に陥らなかったのだ。
びくり、バジリスクの眼球が震える。
俺は前足の爪でバジリスクを捉えようとしたが、バジリスクが翼を広げ、軽々と後方へ跳んで回避した。
に、鶏の身体の分際で……。
やはり魔法強化された素早さは侮れない。
一撃叩き込めれば、俺の攻撃力なら致命傷になるはずなんだが。
翼を広げ、〖鎌鼬〗のスキルで風の刃を放つ。
俺はそのまま風の刃を追いかけてバジリスクへの距離を詰める。
「アァァッ!」
またもやバジリスクがふわりと左へ跳んで、俺が〖鎌鼬〗で放った風の刃を避ける。
俺は風の刃の真後ろへと走っていたが、バジリスクを追って地面を蹴り出して飛び掛かった。
ここだっ! 今ならこいつの顔面を、思いっきりぶん殴ってやれる。
バジリスクの皺塗れの顔が、ぷくっと膨らんだ。
俺は頭にバジリスクのスキル構成を浮かべ、次の行動を予期した。
間違いねぇ、〖毒毒〗が来る!
咄嗟に回避に動こうとした自分の足を止め、その場に踏み留まった。
「アギュォッ!」
想定通り、バジリスクの窄めた口から、黒い液体が拡散させられた。
き、きったねぇ。バジリスクの〖帯毒〗スキルはLv8、〖毒毒〗スキルもLv8……これは、とんでもねぇ猛毒だ。
だが、ここで退いたら、また取り逃がしちまう。
「グルォオオッ!」
俺は腕を大きく振るい、バジリスクの毒液へと前足を叩き込んだ。
視界は塞がれていたため前がよく見えなかったが、とにかく俺の前足は、バジリスクにぶち当たった。
て、手応えあった。
当たった。
だが、あいつは〖ハイレスト〗があるから、瀕死に追い込むにはMPも枯渇寸前にする必要がある。
それまでこんな化け物と戯れてる余裕はねぇ。
トレントの石化を治すためにも、ダメージを与えたら、回復されるよりも先に、そんまま足をへし折られねぇとな。
バシャリと、毒液が俺へと掛かる。
仕方ねぇ……それは、承知の上だ。俺は〖毒耐性:Lv6〗があるし、生命力も高い。
痛み分けならドンと来い。
掛かった鱗に、熱の様な激痛を感じる。
つつ……特に、顔を庇って直接掛かった前足に、針で貫かれたような痛みが走る……と、考えながら腕へと目をやって、俺は一瞬身体が凍り付いた。
老人の顔面が、毒液に乗じて、俺の腕に喰らい付いていた。
夥しい数の歯が、メリメリと俺の鱗にめり込んでいる。
思えば、バジリスクには、恐らく尾の蛇が持っているスキル……〖熱感知〗がある。
見えなくなろうが、あっちの頭がある限り、俺の居場所は筒抜けなのだ。
的確に前足に喰らい付くことも容易だっただろう。
バジリスクは顔面で俺の一撃を受け止めていたらしく、顔は大きく窪んで大痣ができていたが、致命傷には程遠い。
元より、見えないところに我武者羅に攻撃を放っただけなのだ。
直撃とはいかなかった。
「アァァァ……」
続いてネチャリと、生暖かい感触が腕に走る。
バジリスクの歯の隙間から出て来た、先の裂けた青紫の舌が、俺の腕を舐めとった。
ぶるりと悪寒が走り、俺の前足から力が抜ける。
こ、こいつ……!
前足でそのままバジリスクを押さえつけようとしたが、どうにも震えて力が入らない。
〖穢れの舌〗というスキルをこいつは持っていた。あれで何らかの状態異常を付加したようだ。
俺は逆の前足でバジリスクの頭を地面に叩きつけようとしたが、蛇の目が鎌首を擡げて俺を凝視してることに気が付いた。
「シャァァッ!」
蛇が身体を伸ばして吠えた瞬間、口先から黒い光が出る。
あ、あれは、〖ハイスロウ〗!?
素早さを引き下げる魔法だ。
あの魔法にはいい思い出がねぇ。
ただでさえスピードで苦戦してんのに、あんなもんくらったらお終いだぞ。
俺は尾でバジリスクをぶん殴り、その反動で自分も後ろへと飛んで〖ハイスロウ〗の魔法を回避した。
あ、あぶねぇ……。
せっかく距離を詰めたのに、こっちから開けちまったが……仕方ねぇよな?
つーか、避けれたよな、今の? 一応確認しとくか……。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖イルシア〗
種族:ウロボロス
状態:毒、抵抗力低下、石化(小)
Lv :96/125
HP :2304/2517
MP :2496/2520
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
じょ、状態異常のオンパレードになってんじゃねぇか。
スロウがなかったのは幸いだが……抵抗力低下に、石化って……。
抵抗力低下は、あの、舌で舐めとったときに付加されたのか? それくらいしか記憶にない。
つーか、石化ってことは、この前足の怠さは……
俺はバジリスクに噛みつかれていた前足へと視線を落とす。
前足の先端部分が灰色になり、硬質化していた。ばかりか、段々とその硬質化の範囲が広がってきている。
や、やられた!?
石化した前足のせいで、速度ががくっと下がっちまう。
そうなったら、バジリスクを捉えられねぇ。ばかりか、このままじゃ俺が石化しちまう。
そもそも、身体が不完全な状態だとバジリスクに近接で押される可能性もある。
さすがこの島でLv最大まで上げただけはある。こいつ、かなり嫌らしい戦いをしてきやがる。
き、斬り落として、再生させるか?
いや……ばっさりいった前足を完全に修復するとなれば、かなり時間と魔力、集中力を要する。
そこをバジリスクに間違いなく狙われる。
ど、どうする?
そのとき、背後からがさりと物音が鳴った。
振り返れば、ナイトメアが木々の狭間から俺の方を窺っており、俺と目が合うとクイッと頭部を動かす。
こっちにこい、とでも言っているようだ。
それからすぐにナイトメアは木々の奥へと消えた。
ナ、ナイトメア……!
すっかり気配を消してると思ってたが、今まで罠でも作ってたのか?
で、でも、バジリスクとナイトメアじゃステータス差も体格差もあるから、糸くらいじゃどうにもなんねぇと思うが……いや、これまで何度と敵を嵌めて来たナイトメアだ。
何か、考えあってのことだろう。
俺はジリジリと、バジリスクを睨みながら下がった。
それに気を良くしてか、バジリスクが俺の元へと突撃してくる。
俺は姿勢をそのままに後退し、ナイトメアがいたところを目指して移動し、バジリスクを引きつけてからは身を翻して駆けだした。
バジリスクの位置を確認するために小さく振り返ったとき、視界の端に石化したトレントさんの姿が見えた。
待ってろよトレントさん、絶対どうにかしてみせっからな……!
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