第342話
嬉しそうに燥いでいるマジカルツリー――トレントさんの背後で、プチナイトメアの赤い繭が、わずかに揺れたのが見えた。
いつの間にか、柔らかい糸の束だった繭が硬質化している。
そろそろ、中身が出てきそうだ。
俺がじいっと見つめていると、やがて繭に罅が入り、中から黒い触手のようなものが、ぬぅっと、押し出されるように這い出てきた。
俺が呆然としていると、触手に続いて出てきた白面が、左右を見回す。
赤い繭の罅が広がって、中から大きな蜘蛛が姿を現す。
今までより二回り……いや、三回りは大きくなったプチナイトメアが現れた。
中で大分圧迫されていたらしい。
全長は、既に三メートル近くある。
今までは可愛らしさがまだあったが、今では恐怖の方が強い。
ト、トレントさんより強いんじゃねぇのか?
いや、まぁ、ステータスを見てからだな……。
【〖ナイトメア〗:C+ランクモンスター】
【過酷な環境で育ち、強い魔力の干渉を受けた個体が稀に至る進化の最終形態。】
【姿を隠し、闇夜から命を掠め取るその様は、正に悪夢の名に相応しい。】
【〖ナイトメア〗の現れる地方では、白面の怪物に会えばとにかく逃げろ、という伝承が広まっていることが多い。】
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種族:ナイトメア
状態:通常
Lv :1/70
HP :122/122
MP :18/115
攻撃力:111
防御力:69
魔法力:118
素早さ:97
ランク:C+
特性スキル:
〖闇属性:Lv--〗〖HP自動回復:Lv3〗〖帯毒:Lv5〗
〖気配感知:Lv3〗〖猫又:Lv--〗〖忍び歩き:Lv5〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv2〗
〖毒耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv4〗
通常スキル:
〖毒牙:Lv3〗〖蜘蛛の糸:Lv5〗〖仲間を呼ぶ:Lv1〗
〖糸達磨:Lv3〗〖毒糸:Lv3〗〖首吊り糸:Lv3〗
〖騙し討ち:Lv3〗〖カース:Lv2〗〖人化の術:Lv3〗
〖自己再生:Lv1〗〖ダークスフィア:Lv1〗〖クレイ:Lv1〗
称号スキル:
〖邪竜のペット:Lv--〗〖糸の達人:Lv5〗〖意地悪:Lv--〗
〖突然変異:Lv--〗〖執念:Lv5〗〖狡猾:Lv4〗
〖深淵喰らい:Lv2〗〖暗殺者:Lv3〗〖最終進化者:Lv--〗
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ス、ステータス、かなり高めだな……。
同ランクのトレントさんが可哀想に見える。
防御以外全部負けてんじゃねぇのか……。
スキルもかなり優秀なのが増えてやがる。
〖忍び歩き〗に〖気配感知〗……この二つは、使い熟せば危機回避と狩りが一気に楽になる。
〖ダークスフィア〗は、キメラリッチが使ってた限りは強そうだったな……〖自己再生〗……〖自己再生〗はいいぞ。
欠損をそこまで気にしなくてよくなる。
あとは、〖猫又〗に〖人化の術〗か……。
〖猫又〗はマンティコアの持ってたやつだな。
〖人化の術〗の馬鹿高いMP消耗を抑えてくれるんだったな、アレは確か。羨ましい。
トレントといい、なぜ俺が欲しかったスキルをあっさりと手に入れていくんだお前達は。
ま、まぁネコ科しか手に入らねぇってわけじゃないってわかったから、俺もいつか、あのスキルが手に入る希望が見えた。
キャットドラゴンとかに進化すればいいんだろ。
……あり?
称号スキルに、〖最終進化者〗が増えてる……?
ナ、ナイトメア、お前、C+で終わりなのか。
いや、むしろ、普通の魔物はそんなもんなのか?
う、ううむ……一般的にゃC+って、それなりに高いランクのはずではあるから、そう言われてみりゃそんなもんなのかもしれねぇけど……。
トレントさんがBランクになったら、完全に立場逆転しちまうな、これ。
それはそれで見てみたい気もすっけど、ちょっと可哀想な気も……。
アロもひょっとしたら、次ぐらいが最終進化なんだろうか。
ナイトメアが、何事かと不思議そうに相方を見る。
相方は咄嗟に顔を下へと逸らした。
続けてナイトメアが、俺の方を見る。
俺も堪らず、さっと視線を逸らした。
これもしもトレントさんが進化するようなことになったら、ナイトメアがお荷物になるんじゃ……。
い、いや、進化上限のことはよくわかんねぇけど……ひょっとしたら、上限を解除する方法も、何かあるかもしれねぇ。
俺だって、称号スキルで進化先が増えたことがある。
悲観するのはまだ早いはずだ。
と、とりあえず今回で、アロ、トレント、ナイトメアが、全員C+になったな。
スキルも強化されてきたし、アロ以外にも真っ当な戦い方が見えてくるようになった。
こりゃあ、案外簡単に遺跡探索もできちまうかもしんねぇな。
さて、進化も済んだところだし……せっかくだから、この木に拠点を構えてみることにすっかな。
ここならアダムもあんまり登ってこねぇみたいだし、休むにはちょうどいい。
キメラリッチくらいの相手なら、俺が余裕で返り討ちにできる。
だが寝込みをアダムに襲撃されんのは、ステータス的にもそうなのだが、ビジュアル的にもちっとキツイ。
アダムもイヴも、今まで見た魔物の中で最凶の外見を持ってやがる。
巨大樹の適当な窪みを見つけて……と考えていると、「フーッ! フーッ!」と、魔物のいきり声が聞こえて来た。
遠くの方に、尾を左右に打ち付けている、ピンクの細身のドラゴン……発情竜ギーヴァの姿が見える。
や、やべぇのに見つかった! そうだ、木にはこいつがいるんだった!
もうちっと高いところに拠点を構えねぇとな。
とりあえず、ここは撤退だ。勝てねぇ相手じゃないが、なんか戦いたくねぇ。
向こうに敵意がねぇから、やりづらいってのもあるし……。
「……来させない」
そっと、アロが無言でギーヴァの方へと手を挙げた。
手に、緑の光が集まっていく。
「風魔法、ゲー……」
俺はアロの方へと首を下ろして舌を伸ばし、素早くアロを口内へと収納した。
「――ッ!? ――!!」
アロが俺の口内でもがく。
レベルを上げてぇのはわかるが、アレはちょっと……本当にやりづらいから。
もっと……こう、俺を外敵と見なしているような奴と戦いてぇ。
俺はいつも通り、トレントを手に持って木の枝を蹴とばす。
ナイトメアが、俺の尾先へと目掛けて赤い糸を吐き出し、ぶらんと宙吊りになった。
うし、上の方まで逃げるぞ。
俺が高度を上げると、ギーヴァが鎌首をもたげ、口惜しそうに俺を睨む。
「クォオオオン! クォォォオオン! クォンッ! クォオオンッ!」
ギーヴァはこれまでとは違い、哀れみを誘うような、猫撫で声を発していた。
それでも効果がないとわかると、腹を上にして、ぱたぱたと枝の上を跳ね回る。
一生そうやってろ! 悪いが、俺にそんな気はねぇからな!
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