第341話
プチナイトメアはキメラリッチにかぶりついていたが、腹が膨れたのか、キメラリッチの首元から降りた。
そして口から赤い糸を吐き出し、自身の身体を覆っていく。
最後、プチナイトメアの頭が隠れ切る前に、プチナイトメアがちらりと俺の方を見て、腕を振った。
なんだ……?
俺が適当に頷いて返すと、ペッと地面に赤い糸を吐いた。
どうやら、相方の方に腕を振っていたようである。
……これやられたら、結構普通に腹立つな。
今ならプチナイトメアからゾンザイに扱われていたトレントさんの気持ちがわかるぞ。
当の相方の方は、欠伸をしながら巨大樹の枝の下へと首を伸ばしていた。
これがモテるドラゴンの余裕か……。
糸はあっという間にプチナイトメアの頭部まで隠し、赤い一つの繭が出来上がった。
プチナイトメアよりも二回り以上は大きい。
人間一人入れそうなサイズである。
進化の準備に入ったみてぇだな。
次にアイツが、どんな進化になるのか……。
次が多分、C+くらいだな。
アロとランクで並ぶわけだ。そんなアロも、あっという間にBランクへ進化できるわけだが。
C+とBが加わったら、大分楽になるな。
ぶっちゃけ三体の中では、まともな攻撃が繰り出せるのは、ランクがC+で、魔法特化な上にマナドレインで俺からMPの吸い上げができる、アロだけだったんだよな……。
遠距離のアロ、鉄壁のトレント、遊撃のプチナイトメアとか、進化によってそれぞれの個性が伸びてくれれば、真っ当な連携が組めるようになるはずだ。
そうなりゃ、今までとは段違いな戦い方ができる、
キメラリッチクラスの魔物でも、俺のサポートなしで倒せるようになるかもしれねぇ。
そうなりゃレベルだって今まで以上にバンバン上げられるようになる。
探せばいくらでも
あの遺跡の探索にも入れるようになるはずだ。
さて、プチナイトメアが出てくるのが楽しみだな。
今までのパターンからいって、そう時間が掛かるわけではねぇだろう。
それに繭も、バクバクと妙な振動を繰り返している。
糸が赤いのと合わさって、まるで心臓そのもののようである。
今にも、中からプチナイトメアが這い出てきそうだ。
『…………』
ふと、背後から視線を感じ、俺は振り返った。
トレントが、もの言いたげに俺の方を見ていた。
……なんだ? ああ、ひょっとして、〖フェイクライフ〗産の魔物だから、アロと同様に進化時に〖フェイクライフ〗が必要なのか。
トレント、今まで進化したことなかったら、すっかり気づかなかったぜ。
おい相方、下ばっか見てねぇで、ちっと〖フェイクライフ〗を使ってやってくれ。
思いっきり、魔力を込めてな。トレントさんの今後を祝って。
「…………ガァ」
相方が面倒臭そうにこちらを振り返り、小さな声で鳴いた。
トレントさんを黒い、怪しげな光が覆う。
〖フェイクライフ〗の魔法である。
な、なんか、雑な魔法だったけど……トレントさん、無事に進化できたのか? できたよな?
黒い光の中から、ぬうっと、一本の、木の枝が伸びてくる……。
いや、木の枝の先端が、五つに綺麗に裂けている。これはまるで、腕そのものだ。
黒い光が晴れると、中から一回り大きくなったトレントの姿が現れた。
木の皮はやや黒く、厳つくなっている。
葉は緑というよりは、青みが強い。
お、おお……。
この体表、以前と比べてちょっと堅そうだぞ。
期待しちまっていいのか?
なんだ、この魔物は?
【〖マジカルツリー〗:C+ランクモンスター】
【魔法を操ることに長けたトレント。】
【トレント特有の打たれ強さを活かし、魔法の補助によって利点を活かして戦う。】
【葉に独特な魔力があり、討伐を試みる冒険者は多い。しかしその嫌らしい戦い方故、半日戦った後に諦めて去る者も多い。】
お、おお! C+! 大出世じゃねぇか!
てっきりC-くらいなんじゃねぇかと思ってたが、杞憂だったようだ。
知恵の果実を喰ったおかげだな!
……んでもなんか、種族情報で微妙にディスられてねぇか?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:マジカルツリー
状態:呪い
Lv :1/60
HP :161/161
MP :3/110
攻撃力:43
防御力:85
魔法力:113
素早さ:56
ランク:C+
特性スキル:
〖闇属性:Lv--〗〖グリシャ言語:Lv2〗
〖硬化:Lv2〗〖MP自動回復:Lv1〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv4〗
通常スキル:
〖根を張る:Lv4〗〖クレイ:Lv2〗〖レスト:Lv3〗
〖ファイアスフィア:Lv2〗〖アクアスフィア:Lv2〗〖クレイスフィア:Lv2〗
〖ウィンドスフィア:Lv2〗〖念話:Lv1〗〖グラビティ:Lv2〗
〖ポイズンクラウド:Lv1〗〖フィジカルバリア:Lv3〗〖アンチパワー:Lv2〗
称号スキル:
〖邪竜の下僕:Lv--〗〖知恵の実を喰らう者:Lv--〗
〖白魔導師:Lv3〗〖黒魔導師:Lv2〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うおおおおおっ! めちゃくちゃスキル増えてんじゃねぇか!
スキルレベルもごっそり上がってやがる。
こりゃあ、これからの活躍に期待大だな!
えっと……〖硬化〗か。ふんふん、よさげじゃねぇか。
うんうん、〖ポイズンクラウド〗……〖フィジカルバリア〗……〖アンチパワー〗…………あ、ああ、確かに嫌らしそう。
〖パワー〗は攻撃力を上げる魔法だったな。〖アンチパワー〗は、逆に下げるんだろうか。
〖アンチパワー〗で相手の攻撃力を下げて、〖フィジカルバリア〗で自分の防御力強化、後は〖レスト〗で回復しつつ、〖ポイズンクラウド〗でじわじわと体力を奪いつつ、隙を見てスフィア系統の魔法で攻撃か……。
や、やらしい。確かにこれはやらしい。
対戦ゲームなら出した瞬間に電源切られても文句言えねぇレベルのスキル構成だぞ。
当のトレントさんは、自分の枝……もとい手を見て、嬉しそうにはしゃいでいる。
それから俺の方へとちらちらと見せびらかしてくる。
お、おう……よかったな。
しかし、トレントがC+ランクになってくれたのは、嬉しい誤算だ。
アダムの馬鹿みてぇに高い攻撃力を下げてくれるのはありがてぇ。
スキルレベル上げ、頑張ってもらわねぇとな。
……もっともあいつらは、〖グラビドン〗とかいう馬鹿みたいな威力の遠距離魔法を抱えてるわけだが。
物理攻撃にゃめっぽう強そうなんだが……うーむ、魔法相手はどうなんだろうか。
レベル上げてりゃ、また新しい耐性スキルや通常スキルも覚えるだろうから、そっちでちょっとは対策みたいなのができればいいんだけどな。
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