第331話
ひとまず、無事に陸地へと降り立ち、プチナイトメア、トレントを降ろした。
アロは俺の頭の上に乗ったままである。
別に、気に入ったなら定位置にしてもらっても一向に構わねぇんだけどよ……。
『腹減ッタゾ』
相方が、やや殺気立った様子で俺に文句をつける。
俺だって、ほぼ一日掛けで飛んできたせいで、空腹感と疲労感が凄い。
この地でまともに喰えるもんが見つからなかったら、正直ちょっと生きて戻れるかどうか、若干不安になるレベルである。
辺りを見渡すが、この辺りは一帯草原のようである。
辺りには疎らに、虹色の細長い花びらを持つ、変わった花が見られ、ここの幻想的な風景を一層飾り立てているようだった。
遠くの方にはぽつり、虹色の花に囲まれるように一つの小さな木が生えている。
真っ赤な実を一つだけつけているようだった。
林檎だろうか? 妙に色が鮮やかだが、後でチェックしてから相方に喰わせてやってもいいかもしれねぇ。
特に魔物は見当たらねぇ。
遠くの方に巨大な樹や崖が見え、また別の方を見れば、海が大穴へと吸い込まれていく様が窺える。
ちょ、ちょっと落ち着かねぇかな、ここ……。
とりあえず当面の目的としては、安全な食の確保、巣の確保か。
その次に、レベル上げだな。
アロ達のレベルも、上げておいて損はない。
それに俺も、勇者を倒したとき以来、〖人間道〗たる謎のスキルを手にしている。
これが無くなった瞬間に勇者のレベル上限が下がったことからして、進化に関わるものなのかもしれねぇ。
だとしたら、次の進化ではウロボロスのマイナスを補って真っ当な竜へと変わることができる……チャンスもあるはずだ。
昔、進化の選択肢で亜人らしきものが出て来たときもあった。
ああいうのが来る可能性だってある。
さて、俺の次の目標レベルはっと……。
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〖イルシア〗
種族:ウロボロス
状態:通常
Lv :92/125
HP :2425/2425
MP :2432/2432
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……高いんだよなぁ、馬鹿みてぇに。
今までハレナエ砂漠での赤蟻戦争、勇者戦、リトヴェアル族のアビス狩り、〖飢えた狩人〗との全面戦争とあれだけあって、まだ四分の三程度である。
レベルが上がれば上がるほど、上がりにくくなっていくことから考えて、ここから更に時間が掛かることが予想される。
基本的に、二階級下のCランクの魔物とばっかし戦ってたしなぁ……。
Bランクの魔物なんて、そこまで数いるもんでもなかったし。
ひょっとして俺、既にこの世界で最強なんじゃなかろうか。
他の進化分岐の説明文を見るに、Aランクモンスターが複数体も存在していたら、世界なんてあっという間に滅んじまうぞ。
俺だからよかったものの、ウロボロスとどっかの国が戦争になって、マジで手段選ばずに戦ってたら、国一つ落とせちまいそうだ。
さっき海の果てを見ちまったせいで、そもそもこの世界そんなに広くないんじゃないか説が俺の中ででてきたくらいだし。
……でも、俺まだ、〖最終進化者〗のスキルも持ってねぇんだよなぁ。
ひょっとして神の声の奴、本気で俺に世界を滅ぼさせようとでもしてるんじゃねぇだろうな。
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名前:アロ
種族:レヴァナ・ローリッチ
状態:呪い
Lv :59/65
HP :362/362
MP :381/381
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アロも……随分と逞しくなったもんだな。
そろそろ進化が近そうだ。
今がC+ランクだから、次はB、B+辺りか……。
HPとMPが高めな分、他と比べると移動速度に難があるのがちょっと不安なんだが……と考えていると、何か言いたげなトレントと目が合った。
ト、トレントさんはトレントさんのペースでが頑張ってくれるといいんだぞ、別にこう、焦らなくても……。
あ、でも、前に〖飢えた狩人〗との交戦でアロの横で頑張ってたらしいし……もう、進化近いんじゃねぇのかな?
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種族:レッサートレント
状態:呪い
Lv :14/25
HP :86/86
MP :74/74
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俺は居た堪れない気持ちになり、そっと目を逸らした。
えっと……今、Dランクだよな? 今っていうか、最初からずっとそうか……。
ああ、そっか……そうだったか……そうだったかぁ……。
トレントが入って来たとき、まだアロも骨だったのに、どこで差がついたというのか。
も、もしもちょうどいい敵がいたら、頑張って一緒にレベル上げような?
さて、プチナイトメアは……。
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種族:プチナイトメア
状態:通常
Lv :37/45
HP :163/163
MP :155/155
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…………。
プチナイトメアは俺の方をちらりと見てから、トレントへと頭部を向け、プッと糸の塊の様なものを吐きつけた。
糸の塊は、トレントの手前で落ちる。
「グォオオッ!」
おい、トレントさんはお前の先輩だぞ!
次そんな真似したら、ぜってぇ許さねぇからな!
興奮のあまり、思わず吠えてしまった。
プチナイトメアが、しょげた様に俺の相方側へと回り込む。
相方が慰める様に頬ずりしてから、キッと俺を睨みつける。
相方テメェ……ちょっと前まで鬱陶しがってたくせに、いつの間に懐柔されやがった……。
俺の目の黒い内は、トレントさんいじめは絶対させねぇぞ。
俺も負けじとトレントに頬ずりしようとしたが、トレントが一歩俺から退いた。
……あ、はい。すいませんでした。
……ま、まぁ、気を取り直して、とにかく魔物を見つけて、ここの危険度を測らねぇとな。
おちおちアロ達から目も離せねぇ。
俺が周囲を見回していると、相方がスンスンと鼻を鳴らした。
それから頭を降ろし、近くに生えていた虹色の花を地面ごと喰い荒らした。
牙の隙間からボロボロと土を零しながらクッチャクッチャと噛み、それからペッペッと土を吐き出した。
『コレ、ウメェゾ』
満足そうにそう伝えてくる。
そんな馬鹿なと思いつつ、歯先で咥えて千切って上を向き、一本食してみる。
一本じゃわからないかと思ったが、ふんわりとした甘さが口から広がり、口から鼻腔へと甘い香りが伝わっていく。
あまりに気持ちよくて、ついうとうとしそうになった。
こりゃあいいな。
どれどれ、なんて花なんだ?
【〖レイグルア〗:価値A-】
【虹色の花びらを持つ、美しい花。】
【寿命で枯れることはないが、その分、花がつくまで育つのに百年は掛かるとされている。】
【また、非常に繊細で、育てるのが難しい。】
【食したものに心地よい甘みを与え、睡眠状態にするが、恐ろしく高価な〖レイグルア〗をそんな用途で使う愚か者はいないだろう。】
……ひゃ、ひゃくねん?
横を見ると、相方がばっくばっくと無邪気に喰い荒らしていた。
お、お前、なんてことを……!
……つーか、睡眠状態に全然なってねぇな。
まぁ、こちとら巨体のドラゴンだしな。
価値A-の花が、ところ狭し……か。
俺が人間なら持って帰って大金持ちになりたいところだな。
しかし、育てるのが難しい、と来たか。
いったいこんな花、誰が百年も掛けて育ててんだ? 自然界なら不思議と無事に咲いちまうもんなのか?
それともレイグルアを管理している虫か、はたまた魔物の様な奴がいるのだろうか。
ふと、相方が喰い荒らしていた花を落とし、ばっと顔を上げた。
険しい顔をして先を睨んでいる。
気になるものでもあったのだろうかと思って相方の目線の先を追うと、誰かが林檎らしき木から、こっちに走ってくるところだった。
誰かと評したのは、それが人間の姿をしていたからである。
筋肉隆々の、裸の男が、こちらへと駆けてきていた。
だが不思議と、全く気配を感じない。
なぜ裸なのか、なぜ俺を見ても怖くないのか、その一切は謎だったが、近づいて来るにつれて、恐ろしいことに気が付いた。
首が、ない。ばかりか、腹と胸の部分に、拡大した人間の様な顔が張り付いている。
俺の頭の中で、一気に警鐘が鳴った。
そのナニかは近づくにつれて速度を上げていき、すぐに凄まじい速度へと変化した。
この速さからして、コイツ、ただの雑魚モンスターじゃねぇ。
顔は髭面の、ダンディーな男であった。
だが固定されているかのように表情が変わらない。
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