第282話

 アビスの大群が、壁に取り残されたレッサートレントと蜘蛛達を狙って一斉に這い寄ってくる。

 俺は滞空しながら、翼の羽ばたきに合わせて〖鎌鼬〗を放ち、蜘蛛とレッサートレントに攻撃を仕掛けようとするアビスを牽制しつつ、同時にダメージを与える。

 風の刃が叩き付けられたアビスは体液を噴出して拉げ、壁に貼り付く。


【経験値を456得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を456得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが72から73へと上がりました。】


 早速三体分の経験値が入った。

 こ、これひょっとして絶好の狩り場じゃね……?

 アビスの攻撃じゃ俺のところまでは届かねぇし、向こうさんはさすがに跳べねぇだろうし。

 いや、レッサートレントと蜘蛛が危険に晒されてるからこそアビスが集まってくるんだけどよ。


 うらっ!


【経験値を156得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を156得ました。】


 おらぁっ!


【経験値を192得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を192得ました。】


 そりぁっ!


【経験値を138得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を138得ました。】


 うりゃぁぁっ!


【経験値を204得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を204得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが73から74へと上がりました。】

【称号スキル〖害虫キラー〗のLvが5から6へと上がりました。】


 着実に、五十体前後のアビスを削っていく。


 倒した分だけ死骸を乗り越え、新たなアビスがレッサートレントへと接近する。

 俺の背では、アロは最大まで魔力を込めた〖ゲール〗を放ってアビスを壁ごと落とし、プチナイトメアは糸を吐き出してアビスの背にくっ付けて引っ張り、崖底へと落としていた。

 レッサートレントも、必死に枝を振るってアビスを引きつけまいと大暴れしてくれている。


 蜘蛛……キッズアレイニー達は、好き勝手に動きながらも糸を吐き散らして壁に簡易の巣を作り、アビスの足止めを行ってくれている。

 アビスが巣に踏み込んだところでスピードが落ちるので、そこを〖鎌鼬〗で狙い撃つ。


 蜘蛛が散らばって動いてんのが心配だが、こっちに遠距離から狙いをつけて戦えるのが俺を含めて三体いるおかげで、どうにか目を離さずに守り切れている。

 主に俺が〖鎌鼬〗で叩き、逃したアビスはアロとプチナイトメアが処理してくれた。

 それでも追いつかなかったときは、相方が〖デス〗、〖ハイレスト〗でカバーしてくれる。

 次々とアビスは崖底へと落下していく。


 俺のLvも74から75へ、75から76へと、どんどん上がっていく。

 気が付けば、あっという間にLv78へとなっていた。


 上手く善戦できてはいたのだが、どんどんレッサートレントと蜘蛛達は中心へと追い詰められていた。

 だが範囲が狭くなれば、それだけアビスを狙いやすい。

 それに、包囲網に参加しているアビスも、もうほとんど数えられる程度しかいない。

 一気に仕留めてみせる。


「グゥオオオオオッ!」


 俺は唸り声を上げ、アロとプチナイトメアに注意を促す。

 アロとプチナイトメアは動きを止め、俺の背にしがみついた。


 俺は両翼に魔力を最大まで込め、一気に前方へと押し出す。

 両翼を同時に〖鎌鼬〗に使ったことで滞空の維持が難しくなり、同時に〖鎌鼬〗の反動が俺を襲う。

 俺は尾を前に回し、後転することで勢いを殺して再び滞空の体勢へと戻る。

 二つの大きな風の刃が、崖壁ごと四体のアビスを粉砕した。


【経験値を450得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を450得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが78から79へと上がりました。】

【称号スキル〖害虫キラー〗のLvが6から7へと上がりました。】

【通常スキル〖鎌鼬〗のLvが6から7へと上がりました。】


 アビスのいた場所が削れて大きな窪みができ、脚や破片が砂と混じってぱらぱらと散っていく。


 残ったアビスは、もう十体程度である。

 そろそろ壁での戦いは決着がついたかと思ったそのとき、壁の穴から、大きなアビスが這い出てきた。

 他のアビスより、倍近い横幅がある。

 素早さは通常のアビスよりもかなり遅いが、一歩一歩ずんずんと突き進む姿からは、謎の威厳があった。


 なんだあいつはと思ったら、他の穴からも更に一体現れた。

 丁度、レッサートレントと蜘蛛達を囲むように、上と下の穴からである。

 がっちゃがっちゃと多脚を這わせ、悠然とレッサートレントの元へと向かっていく。


「「ヴェェェェェェエェェェッ!」」


 野太い鳴き声は、おっさんの叫び声のようでもあった。

 な、なんだこいつら。

 上位種なんていやがったのか。


【〖ヘビーアビス〗:C+ランクモンスター】

【〖アビス〗の中でも大喰らいで、体格の大きな個体が至る進化。】

【その体表は恐ろしく頑丈で、容易に貫くことはできない。】

【盾として加工されることが多い。】


 へ、ヘビーアビス……防御特化型のアビスか。

 なに、こいつらそんなに種類いんの? もうお腹いっぱいな気分なんだけど俺。


 でっかいアビスの鳴き声を聞き、他のアビスが一層と苛烈にレッサートレント達へと迫る。

 一体のアビスが逃げようと壁を這って降りてきたのを、すれ違いざまに踏み潰す。


「〖ゲール〗!」


 俺の魔力を用いてアロの放った魔力の竜巻が、ヘビーアビスの下の一体へと襲い掛かる。

 ゴウッと音がして、崖の表面が崩れて飛び交う。だがヘビーアビスはやや足を止めたものの、迷わず前進する。

 アロもかなりLvが上がり、魔法の威力も上がっているはずなのに、傷ひとつつかない。

 俺も急いで〖鎌鼬〗を放つ。

 風の刃がヘビーアビスの背を穿つ。大きな亀裂ができ、体液が流れ出た。

 しかし、それでもヘビーアビスは前進を止めない。

 さっきよりも魔力を翼に込め、俺は新たな〖鎌鼬〗の準備へと掛かる。


 ヘビーアビスは蜘蛛の巣に差し掛かると仲間の死骸を踏んで避けていたが、奥に差し掛かると死骸も少ないので、やがて諦めて蜘蛛の糸が張り巡らされた壁を踏んだ。

 糸の粘着力を引き剥がすため、ヘビーアビスが大きく足を上げる。

 そのとき、上のヘビーアビスの背に、一本の糸が付着した。


「ヴェ……?」


 プチナイトメアの糸である。

 プチナイトメアがぐっと俺の身体に強く張り付いたので、俺は溜めていた〖鎌鼬〗を下方のヘビーアビスへと放ち、その衝撃を利用して後ろへと飛んだ。

 糸に引かれ、上のヘビーアビスの身体が崖から離れる。


「ヴェエエエエエエエエエエ!」


 上のヘビーアビスが野太い断末魔の声を上げ、反対側の壁へと振り子のような軌道を描きながら突き進んでいく。


「キキ、キッ!」


 途中で、ぷつりと糸が切られた。

 ヘビーアビスの巨体がそのまま落下していき、そのうちにゴシャッと鈍い音が鳴った。


【経験値を156得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を156得ました。】


 ……結構えげつないことすんな、この蜘蛛。

 引っ張ったのが俺だからか、俺にも経験値が配分された。


 一方、下方のヘビーアビスも二発目の〖鎌鼬〗を受けてついに耐えられなかったようで、体液を噴出しながら崖底へとずり落ちていく。


「ヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェ!」


 その動きはどんどん加速していき、脚が数本弾き飛んだところでその姿が一気に見えなくなった。

 最後は先ほどのヘビーアビス同様、ゴシャッという音で終わった。


【経験値を250得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を250得ました。】


 ……お前ら、ここの巣向いてねぇぞ多分。

 加勢に入ったヘビーアビスが無様にずり落ちていくのを目にしてか、アビス達はようやく退却を始めた。


 俺もさすがに疲れたので、崖の上へと戻って一旦休むことにした。

 〖鎌鼬〗とかもう、何十発放ったかわからん。

 アロからもかなり魔力を吸い出された。

 MPを回復させたい。


「グォォオ……」


 俺が首を伸ばして顎を地につけると、背から降りたアロが心配そうに頬に手を触れてくる。

 後に続き、レッサートレントと蜘蛛達が這いあがってきた。

 とと、そうだ。

 アロ達がどれくらいLv上がったのかも確認しねぇとな。

 今回、みんなかなり頑張ってくれた。

 相応に経験値も入っているはずだ。

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