第283話
まずは一番最初に、蜘蛛達のLvから確認することにした。
相当疲れたらしく、ややぐったりとしている。
ぐったりしつつも、口許にはアビスの一部を咥えている辺りちゃっかりしているというか、なんというか……。
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種族:キッズアレイニー
状態:通常
Lv :9/30
HP :4/57
MP :2/36
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お、結構上がってるな。
他の蜘蛛も何体か調べてみたが、多少の誤差はあるもののだいたいは同じLvだった。
続いて、相方にちょっかいを掛け続けているプチナイトメアのLvを確認する。
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種族:プチナイトメア
状態:通常
Lv :12/45
HP :23/101
MP :2/93
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おおう、こいつ要領いいな。
ポイポイ落下させてたし、安全圏から結構糸で妨害して戦場引っ掻き回してたもんな。
……で、トレントさんは。
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種族:レッサートレント
状態:呪い
Lv :11/25
HP :19/75
MP :2/60
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あ、あんまし上がってねぇ……。
崖下降りる前にすでにLv9あったはずだよな?
いや、まぁ、Lv高かったら上がり難いのは仕方ねぇんだけど……後輩のプチナイトメアに抜かされてんぞ。
単にプチナイトメアが低Lv時から動きやすい性能だったってだけのことなんだろうが。
レッサートレントが俺の表情を見てか、目に相当する窪みを歪め、申し訳なさそうにやや幹を前傾させた。
俺も釣られて頭を下げてしまう。
い、いや、いつも要所要所ですごく助かってるぞ。
これからもよろしく頼む。
んで……肝心なのは、アロだ。
アロはLv20だったから……進化には、あと10上がっている必要がある。
アロは魔法連打でかなり貢献してくれたはずだが、ここから必要経験値量がシビアになってくる頃だ。
だいたいいつも、Lv10ごとに必要経験値量の壁が分厚くなっていくのを感じる。
ここで乗り越えていてほしいものだが……。
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名前:アロ
種族:レヴァナ・メイジ
状態:呪い
Lv :28/30
HP :69/114
MP :56/126
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……後2、か。
進化に辿り着いてこそいなかったが、ほとんどリーチが掛かっている。
アビス達は、あの五十の軍勢がすべてではないだろう。
あれはただの先兵である。
これだけ森中に繁殖していたアビスが、五十体ぽっちで済むはずがない。
恐らくこの崖を降りていった深淵の先に、更なるアビスが待ち構えているはずだ。
第二ラウンドを凌げば、確実にアロを進化まで持っていけるだろう。
ついに、このときが来たのだ。
俺はアロの顔をじっと見つめる。
アロは、最初はただの骨だった。
それから魔法を操る骨に進化して、今では肌質が悪く髪もぱさついてはいるが、人の形を成している。
恐らく、次でほとんど普通の人間と区別がつかなくなるだろう。
アロは人間の身体に未練があるが、その理由を俺は知らない。
人間なら当たり前の生きていたいという本能なのか、他に何か未練があるのか、それはわからない。
言葉を充分口にできる今なら教えてくれそうな気もするが、なんとなくそれも憚られる。
本当に人間の身体を得たからといって、達成できるものなのかどうかもわからない。
勿論、どんな理由であろうが、達成が困難そうであろうが、俺は全力で手伝うつもりでいるが。
アンデッドの顔をあまり見られたくなかったのか、アロは恥ずかしそうに顔を俯いた。
「ガァ……」
俺は小声で謝る。
それから少し歩き、崖の底を覗き込む。
底は薄暗くて距離があるのでよくは見えなかったが、平な地面が広がっているようだった。
硬そうな黒っぽい木の根が壁から突き出てあちらこちらに生えており、壁にはいくつも穴が開いているようだった。
何か、魔物の死骸らしきものもいくつか見える。
そして、不気味なほどに静まり返っていた。
だが〖気配感知〗で探れば、切り取った空白が底にあるかのような違和感を拾うことができる。
アビスには気配を誤魔化すスキルがあるが、恐らく集まってそのスキルを使っているため、そこだけぽっかり世界から切り離されたような錯覚を与えるのだろう。
……なんとなく、
アロ以外は、置いて行った方がいいかもしれない。
例え待っているところを襲撃されたとしても、プチナイトメアが主体となって戦って他がサポートに回れば、単体のアビスへ対処できるはずだ。
単体とは限らないだろうが、上に気配を感じてから急いで戻れば、それで大丈夫だ。
とりあえずは相方に〖ハイレスト〗で全員のHPを最大まで回復させておいてもらうことにした。
続いて、アロにMPを吸わせる。
アロの身体から黒い光が漏れ始めてきたところで中断する。
「グォッ!」
俺はプチナイトメアへと吠える。
プチナイトメアは相方の近くを這っていたが、俺の声を聞くとこちらを向いた。
俺は顔を横に向ける。
釣られて、プチナイトメアも顔を同じ方向へと向ける。
俺の目線の先には、わらわらと各々に持ち帰ったアビスの残骸に喰らい付いている蜘蛛達がいる。
プチナイトメアは子守を頼まれたことはわかったようだが、ぷいっと俺から顔を背けて糸を吐き出し、相方の頭の上へと移動して脚を曲げる。
……相方、お前から頼んでくれないか?
相方は少し間を置いてから頷き、目を頭上に向ける。
「……ガァ」
相方の声を聞いて、プチナイトメアは相方から飛び降り、顔を向かい合う。
「キキッ! キキッ!」
鳴き声を上げてから、他の蜘蛛達の元へと移動していく。
……ど、どうにか頼めたか。
アロの方を向く。
アロは俺と目が合うと、崖の方をちらりと横目で確認し、覚悟を決めたようにこくりと頷いた。
それが崖底に飛び込む覚悟なのか、人の容姿を取り戻すことに対する覚悟なのかはわからねぇが。
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