第280話
アビスゾンビを追いかけて進む。
アビスゾンビは脚がいくらかもげており覚束ない足取りであり、ステータスも低いためか移動スピードが遅いため、追跡は容易だった。
むしろじれったれいほどである。
相方が若干苛立った様子でアビスゾンビを睨んでいる。
蜘蛛達も好き勝手に散っていたが、ナイトメアが睨むとさぁっと集まってくる。
……リーダーができて、本当によかった。
『アア、ソウダナ』
若干げんなりした様子の相方が答える。
……ま、まぁ、頑張ってくれ。
俺はナイトメアの顔に貼り付いてる仮面だか甲羅だかわからねぇものを見ながら、ふと考える。
あいつ進化したら、あれより厳つい姿になるんだろうか。
つーか、次の進化で止まるよな?
次の次があったとしたら、そのときは恐らくBランク前後だ。
想像もつかんが、マジモンの化け物になっているだろうということは予想がつく。
それに纏わりつかれる相方を思い浮かべ、そっと俺は目を閉じた。
『……他人事ダト思イヤガッテ』
仕方ねぇよ。
ペットを飼っても、一番可愛い子犬の時期はすぐに過ぎていくもんだからな。
アビスゾンビを追いかけるのに手間はかからなかった。
しかし、道中で度々現れる、他の魔獣にはなかなか苦労させられた。
〖鎌鼬〗で切り裂いて経験値へと変換し、〖咆哮〗で牽制してアビスゾンビを守りながら後を追いかけていく。
そうこうしている内に、なんとなく必死に先へ先へと駆けるアビスゾンビが、可愛く思えて来たような気が、しないでもない。
守っている内に庇護欲が湧いたというか、キモイ容姿にもいい加減慣れてきたというか、それに生き返らせたんだから責任を持たねばならんという、義務感が出て来たというか……。
『……ナンカ、変ナコト考エテネェカ?』
相方が目を細めて俺を睨む。
い、いや、アビスが進化したらどうなんのかなぁって、ちょっと思っただけで……。
『オレ、嫌ダゾ』
でもなんか、生き返らせちまったんだし、責任っつうか……。
『オレ、嫌ダゾ!』
相方が強く思念を飛ばしてくる。
……うん、まぁ、そりゃそうか。
『大体、ソウイウ、オマエノ責任ダノイウノガワカンネェヨ。死体チット動カシタダケダロウガ』
相方は悪びれる様子なく、アビスゾンビを見る。
続いて、同じ目でアロを見る。
アロはその視線が怖かったのか、ぴくりと身体を震わせた。
相方はつまらなさそうに、すぐ前を向く。
……相方は生まれついてのウロボロスだから、生き返らせるのも、食料を得るために何かを殺すのも、同じ感覚なのかもしれない。
元々、相方には本能的な言動が目立つ。
どっちがおかしいのかといえば、前世の人間としての感覚が残っている俺が、ドラゴンとしては異常なのだろうが。
『マ、オマエガ嫌ナラ、控エルケドヨ』
お、おう、どうも……。
なんか、すまねぇな。
『デモ、アビス、嫌ダゾ。ソレニ、サッキ攻撃シテキタジャネェカ』
いや、でも確認してみたらあれにも〖邪竜の下僕〗ついてるし……。
トレントだって命令は聞いてくれるし、多少は効果あると思うんだよ。
この道中で"守られた"って感覚が多少なりとも、向こうにもあるかもしれねぇし。
時折アビスゾンビはこちらを振り返り、動きを止めることがある。
アビスの表情などわからないが、何かアビスの中で変化が……。
『嫌ダゾ』
あ、はい……。
進めば進むほど、道は険しくなってくる。
綺麗な花畑があれば、奇妙な光を放つ虫の大群もいた。
捻じれた木々が行く手を遮ることもあった。
森にまだこんなところが広がっていたのか。
また落ち着いてから、探索し直したいものだ。
「ドラァァァアァアッ! ドラ、ドラアァァァッ!」
遠くから、鈍い音を大きな空洞で響かせているかのような、奇妙な鳴き声らしきものが聞こえてきた。
続いて、ドスンドスンと岩塊を地面に叩き付けるような音が響いてくる。
なんだ、これ……。
既視感というか、どこか懐かしいような……いや、でもこんな鳴き声……。
声の方角へ目を凝らせば、遠くに黄土色の巨大な土塊が見えた。
ぐいんと長い首の先には頭らしきものがついており、目があるべきところには穴が空いている。
あの奇妙な生物に、俺は心当たりがあった。
【〖クレイドラゴン〗:C+ランクモンスター】
【土塊から生み出されたモンスター。】
【力がとても強く、再生能力もとても高い。】
【魔王の悪ふざけは、人々に恐怖を齎す。】
……やっぱりクレイ系かよ。
「ドラァァァアァアッ!」
まぁ、こんな頭悪い鳴き声それしかねぇよな。
何がドラァァだよ、ドラゴン舐め腐りすぎだろ。
お前は『マオオオ!』と叫ぶのかと。
しかし、あの量の魔土を回収できるのはありがてぇな。
また今度、余裕があるときに回収したいものだ。
今は人化の手があるし、あの頃とは俺も火力が段違いだ。
さぞ立派な陶器が作れることであろう。
クレイドラゴンは縄張り意識でもあるのかこちらを遠巻きに煽っているようだが、今回は無視させてもらうことにした。
勝ち誇ったように鳴き声を上げていたが、今は気にしない。
この場所はしっかりと記憶させてもらうがな。
そうこうしている内に、どんどんと道は険しくなっていた。
捻じれた硬い木が増えていき、地面もどんどん固くなっていく。
まだ血の残る、喰い散らかされたらしい魔物の死骸を度々目にするようになった。
やがて、大きな崖へと出た。
崖、というか、大きな地面の亀裂、というべきか。
アビスゾンビはちらりとこちらを振り返った後、その崖の中へと降りて行った。
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