第279話
【〖プチナイトメア〗:D+ランクモンスター】
【過酷な環境で育ち、強い魔力の干渉を受けた個体が稀に至る進化形態。】
【スキルが豊富な上にステータスも高いが、それよりも知性の高さと執念深さによって恐れられている。】
【放っておけばどんどん手に負えなくなるため、冒険者の間では深追いしてでも討伐することが推奨されている。】
【だが、人間のそんな事情を知ってか知らずか、追って来たものを罠を張って悠々と待ち構えているケースが多い。】
……とりあえず仮面蜘蛛の詳細を確認してみたが、普通にロクでもねぇ。
つーか、顔にがっちり装着されてる面についてはまったく言及ねぇのな。
なんだあれ、剥がしたらどうなるんだ?
いや、問題ごとはそんな些細なところじゃねぇんだけど。
仮面蜘蛛はこっちの気など知らずに、相変わらず相方へと纏わりついている。
……こうしてるとただ無邪気に見えねぇこともないんだけど、どうにも説明文やらスキルがおっかなさ過ぎる。
過酷な環境……強い魔力干渉……。
過酷……だったか?
自分から嬉々として厄介ごとに突っ込み続けてたようにしか思えねぇんだけど。
強い魔力干渉は……まぁ、十中八九俺のせいだろうな。
頻繁に〖ハイレスト〗使ってたせいか、進化の直前に相方が〖ハイレスト〗ぶつけたせいか、〖竜鱗粉〗の呪いの影響のせいか、ちょっと心当たりが多すぎて絞り切れそうにねぇんだけど。
玉兎も、桃玉兎に進化したときは〖呪い耐性〗持ってたんだよな。
わーい強くなったぞって、手放しに喜べる状況じゃねぇからなぁ……。
成長したら親アレイニーから託された義理は果たしたってことでリリースしたかったんだが、温厚なはずのアレイニーはともかく、冒険者罠に嵌めて喜んでそうなプチナイトメアはちょっと放置できそうねぇぞ。
……幸い〖呪い耐性〗持ってるから、ずっと手許に置いとくって手もあるけど。
相方には懐いてるみてぇだしな。
執念深いって書かれてっけど、恨みが深いってことはきっと愛情も深いんだろう、多分。
拗れたら後が怖そうだけど、なんか俺の方には全然寄ってこねぇし、相方が頑張って相手してくれ。
元々飼いたいって言い出したの相方だし、玉兎が俺にくっ付いてるの見て羨ましそうにしてたもんな!
念願がかなってよかったじゃねーか。
ふと相方の方を見る。
頭の上には、仮面蜘蛛が乗っていた。
「キキッ、キキキ!」
金属をするような音が仮面蜘蛛から聞こえる。
鳴き声……なんだろうか。
少し違和感があったので目を凝らしてみると、相方の顔に若干ながら赤紫の斑点が浮かんでいた。
『ナンカ、頭痒インダケド……』
お、おう……頑張ってくれ、応援してるぞ。
えっと、そいつ毒あるから注意してくれよ。
〖毒耐性〗のお蔭かさして目立つ出来物ではないし、〖HP自動回復〗のお蔭か自然に引いているようだ。
ああ、うん。むしろ耐性がついて丁度いいだろう。
……不安は尽きねぇけど、とりあえずアビスの巣探しを再開するか。
遠ざけていられる問題じゃあねぇからな。
この森で暮らしている以上、リトヴェアル族にアロ達を隠しつつ、不定期に現れるアビスから守り続ける術はない。
となれば、アロとレッサートレントと蜘蛛達の総力でアビスを楽々と撃退できる範囲までレベリングするか、アビスの巣を壊滅させるかしかない。
巣を探す手掛かりは先ほど同様、英雄ガザザの逸話に従ってアビスの帰巣本能に賭けるしかない。
……どっちも殺しちまったから、また新しいアビスを見つけなきゃなんねぇんだけどな。
『ダッタラ簡単ジャネ?』
俺の思考に、相方の思念が入り込んでくる。
おん? なんだ?
「ガァッ」
相方の声と共に、アビスを窒息死させた蜘蛛の糸の塊が黒くぼやけた光を帯びる。
ぐにょぐにょと糸ダマが蠢き出す。
こ、これってもしかして……。
【称号スキル〖悪の道〗のLvが7から8へと上がりました。】
【称号スキル〖卑劣の王〗のLvが8から9へと上がりました。】
どう考えても〖
ちょ、ちょっと相方さん!?
『……マズカッタカ?』
申し訳なさそうに相方が俺に尋ねてくる。
……あ、ああ、うん。
俺が言うのも本当になんなんだけど、あんまり好んで使いたいスキルじゃなかったから、なんつーか……上手く言葉にできねぇんだけど。
……しかし、〖卑劣の王〗がMAX手前まで来ちまったな。
もうこれ、1ポカもできねぇよ……いや、MAXになったからどうなるっつうの、よくわかってはねぇんだけど……。
とりあえず蘇らせちまったもんは仕方ねぇ。
敵の兵蘇らせて手下にして本拠地暴くって、マジで悪役の鑑だな、もう。
こればっかりは〖卑劣の王〗もしかと受け止めるしかねぇ。
また窒息死させるっつうのも残酷だし、とにかく糸ダマを爪で引っ掻いて破くことにした。
中から、アビスがよろめきながら這い出てくる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:アビスゾンビ
状態:呪い
Lv :1/12
HP :17/17
MP :5/5
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
……う、うむ、わかりやすい名前で結構。
つーか、Fランクじゃねぇんだな。
【〖アビスゾンビ〗:Eランクモンスター】
【〖アビス〗の死骸に悪霊が憑依したモンスター。】
【危険性はまずない。】
Eランク……元のランクが関係してんのかな?
いや、考察したところで、あんまし使う気はねぇんだけど。
「ヴェ、ェア……」
ぎろりとこちらを見たかと思うと、欠けた足でよろよろと歩きだす。
……やっぱ俺、このスキルはどうにも慣れねぇな。
蜘蛛達が、再びアビスゾンビへと近づいていく。
ひょっとしてこいつら、また糸ダマにしたり喰おうとか考えてねぇか。
しっしと手で掃って遠ざけようとするが、七体もいるのでキリがない。
「キキ! キッ!」
相方の頭に乗っている仮面蜘蛛が奇妙な音を立てる。
蜘蛛達はびくりと身体を震わせ、トボトボとアビスゾンビから離れて行った。
あ、あいつら、仮面蜘蛛の言うことは聞くのか。
蜘蛛同士、通じ合う部分があるのかもしれない。
俺が追い払うのに苦労しているのが見てわかり、助け舟を出してくれたようだ。
やっぱし説明にもあった通り、蜘蛛の中じゃダントツで知性が高そうだな。
「キキ、キキキキ!」
仮面蜘蛛を見ても、鳴き声のような甲高い音を立てるばかりである。
仮面の顔も細目の笑みから変わることはない。
……なんか不気味なんだけどな、いろんな面で。
いつかアレイニー引き連れて下剋上に来たりしねぇよな?
「ヴェェ、エァ、アア!」
とそのとき、アビスゾンビが引き下がる蜘蛛へと目掛けて大口を開けた。
口の端の部分が千切れ、体液を垂れ流すほどの勢いである。
慌てて前足で弾き、アビスゾンビを転がした。
「ヴェア、アアッ!」
アビスゾンビは起き上がり、俺にも敵意剥き出しの目を向けている。
だ、駄目だなこりゃ。
アロも生前の記憶がかなり残ってるみたいだし、アビスにも本能や殺された記憶が残っているのかもしれない。
自発的に案内をさせるのは難しそうだな。
ここは一度、脅しを掛けてみるか。
「グゥオオオオオオオオオオッ!」
喉に魔力を溜め、盛大に〖咆哮〗を放つ。
ザァァァッと周辺が騒めき、次の瞬間には一気に静かになった。
直接正面から〖咆哮〗受けたアビスゾンビは、身体をビクビクと震えさせたまま動かなくなった。
【通常スキル〖咆哮〗のLvが2から3へと上がりました。】
今の〖咆哮〗、いい感じだったな。
もうちょっと練習すれば、まだまだ威力を上げられそうな気がする。
下級モンスターを追い払うには持ってこいっぽいし、もうちょっと機会を見て練習するのも悪くねぇか。
「ヴェ、エエ……」
アビスゾンビは身体を翻し、ヨタヨタと逃走を始めた。
……ちょっと気は進まねぇが、あの後を追いかけさせてもらうかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます