第278話

 子蜘蛛達は落ち着きがなく、同じところをカサカサと行ったり来たり、挙動不審に各々ウロウロとしていた。

 その内の一体が、俺のところにフラフラと寄ってきた。


 相方がそっと顔を降ろすと、子蜘蛛は相方へと近づいていく。

 俺じゃなくて、相方が目的だったんだろうか。

 最初に拾うのを決めたのは相方だし、生まれて最初に見たのも相方だし、なんかそういうのがわかってたりするんだろうか。

 ただその一体は何もするわけでもなく、相方の顔に纏わりつくようにふらついているだけだった。


『ドウシタンダ、コイツラ?』


 相方が心配そうに俺を見る。

 大丈夫だって、多分、ただの進化だろ。

 このタイミングだとそれしかねぇし。


 俺が念じると、相方は首を傾げながら子蜘蛛を見守る。

 ……ステータス、見れねぇのかな?

 見方教えたら……いや、スキルって自然と身体が覚えてる感じだからな。

 俺が〖魂付加〗や〖デス〗使えねぇようなもんか。


 じっと観察していると、子蜘蛛達が一斉に動きを止めた。

 プルプルと頭部と腹部、それから脚を震えさせ始める。


「ガァ……」


 相方が不安そうに鳴き声を漏らす。

 近くの一体へと、〖ハイレスト〗を掛けていた。

 ……いや、それは関係ねぇと思うけど。


 とはいえ、俺も何が起こったのかまったくわからない。

 不安を感じつつも眺めていると、一体の震えが収まった。

 自然とそちらの一体へと注視が移る。


 子蜘蛛の身体が、ぐぅっと膨れ上がり始める。

 人間の両手程度の大きさしかなかった子蜘蛛が、中型犬ほどのサイズにまで変化した。

 膨張に耐え切れない体表がパンパンに張られ、首の部分の皮に裂け目が入った。

 子蜘蛛の頭部を覆っていた体表がぺろりと剥がれ、中身が剥き出しとなる。


 皮から露出した頭部は、赤子の肌のように柔らかそうだった。

 空気に晒され、神経質にひゅくひゅくと伸縮を繰り返している。

 目を細めてみれば、わずかに産毛のようなものが窺えた。


 こ、これはあれか、脱皮か。

 何事かと思っちまったよ。


 ぐっ、ぐっと身体を伸ばし、腹部を覆っている皮からも、まるで着ぐるみでも脱ぐかのような調子で抜け出した。

 最後は身体を横倒しにしながら脚をくねらせ、完全に古い体表から逃れる。


 起き上がり、改めてブルブルと身を震わせる。

 外気に晒された肌が、ゆっくりと硬くなっていく。


 一体が皮から脱したのを皮切りに、残りの七体も次々と皮を脱いでいく。

 ビタンビタンと横に倒れ、クネクネと古い皮を脱ぎ捨てる。

 完全に脱すると身体を震わせて外気に馴染ませ、その後、あろうことか脱ぎ去ったばかりの半身、自らの抜け殻をもっしゃもっしゃと貪り始める。


 ……な、なかなか貴重なもんが見れた気がする。

 そんな何度も見たいかって問われたら、もう一生分見ましたんで勘弁してくださいと返させてもらうが。


 つーかこの子ら、食に貪欲過ぎねぇ?

 思えば玉兎も相方も食い意地張ってんな。

 なんなら猩々と拗れたのもあいつらが俺の干し肉盗んだのが発端だし、黒蜥蜴も毒の入った壺に頭突っ込んで出られなくなって、足をジタバタさせてたときもあったな。


 俺の中身が人間だし、弱い時分は保存食作れる知識もあったから、その辺の認識が甘いだけなのかもしんねぇな。

 飯に困ってねぇことに感謝しねぇと。


 柄は全員変わっておらず、鮮やかな緑の体表を持っていた。

 アレイニー系統で進化を進めているのだろう。

 アレイニーは、一応気性は穏やかのはずなんだけどな……。


 親のアレイニーは、人間よりも大きかった。

 今の蜘蛛達はせいぜい中型犬程度の大きさである。

 恐らく、親の形態に達するまでもう一つ進化が必要なのだろう。

 完全に進化したらもうちょっと行動も落ち着くのかもしれねぇ、それに期待しよう。


 試しに、一体のステータスを確認してみる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:キッズアレイニー

状態:通常

Lv :1/30

HP :5/25

MP :2/20

攻撃力:33

防御力:18

魔法力:24

素早さ:36

ランク:D


特性スキル:

〖HP自動回復:Lv1〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖噛みつき:Lv2〗〖蜘蛛の糸:Lv2〗

〖糸達磨:Lv1〗〖痺れ糸:Lv1〗


称号スキル:

〖天真爛漫:Lv--〗〖邪竜のペット:Lv--〗〖糸の達人:Lv1〗

〖コンビネーション:Lv3〗〖深淵喰らい:Lv1〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ふんふん、キッズアレイニーね。

 思えば俺の昔の進化先にもキッズ系統あった気がするわ。

 なんか懐かしいな。

 俺が辿った厄病子竜も、ある意味キッズ系統に入ってたりすんだろうか。


 〖ベビーアレイニー〗→〖キッズアレイニー〗→〖アレイニー〗で進化するんだな、多分。


 とりあえず、HPを回復させてやっといてくれ相方……。

 目線を落とすと、地に顎をつけて黒い何かと対峙している相方がいた。

 黒い何かがガサガサと蠢き、相方への距離を詰める。

 相方が驚いたように仰け反って顔を上げるが、黒い糸が相方の鱗に付着し、身体へと張りついた。


「ガァッ! ガァッ!」


 相方が驚いて、ぶんぶんと首を振っている。


 な、何あれ……蜘蛛、だよな? 

 キッズアレイニーを数えると、七体しかいなかった。一体足りない。

 一体だけ、真っ黒に変色していたらしい。

 恐らく、進化前から相方の近くにいた子蜘蛛である。


 一体だけ、妙な進化でもしたのか……?

 訝しんで見ていると、真っ白の人面がこちらを睨んだ。


「グォッ!?」


 驚いて声をあげてしまった。

 よくよく見てみれば、黒い蜘蛛に白い面のようなものがくっ付いているだけである。

 面の下に口があるし、面の上には八つの真紅の目玉が並んでいた。


 顔じゃなくて、甲羅みたいなもんか……?

 白塗りの面は、三日月のような細目と口が描かれており、不気味な笑みを浮かべているように見える。

 な、何この蜘蛛……。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:プチナイトメア

状態:通常

Lv :1/45

HP :58/58

MP :2/60

攻撃力:60

防御力:48

魔法力:65

素早さ:45

ランク:D+


特性スキル:

〖闇属性:Lv--〗〖HP自動回復:Lv1〗

〖帯毒:Lv2〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv1〗〖魔法耐性:Lv2〗

〖毒耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv2〗


通常スキル:

〖毒牙:Lv2〗〖蜘蛛の糸:Lv2〗

〖仲間を呼ぶ:Lv1〗〖糸達磨:Lv1〗〖毒糸:Lv2〗


称号スキル:

〖邪竜のペット:Lv--〗〖糸の達人:Lv4〗〖意地悪:Lv--〗

〖突然変異:Lv--〗〖執念:Lv5〗〖狡猾:Lv4〗

〖深淵喰らい:Lv2〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 え……何、これ……。

 ぜ、全然ステータス違うんだけど。

 なんでこんなにスキル多いの。

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