第270話

 アロとレッサートレント、ベビーアレイニーの集団を率いて森を進む。

 さすがに今の状態でリトヴェアル族と顔を突き合わすわけにもいかないので、集落とは反対の方向を目指して進んでいく。


 ベビーアレイニーは好き勝手に這い回っているが、一応は俺の後を付いてきてくれているようだった。

 ……逸れてそのままアビスの餌にされちまいそうだから、あんまし勝手なことしてほしくないんだけどな。

 言うことを聞かせる術もねぇから仕方ねぇ。

 餌やるだけなら、怠け癖がついて一生狩りもできなくなっちまいそうだし。


 とりあえず、ベビーアレイニー共はさっさと進化してDランクになってもらいたいもんだ。

 それだけでかなり丈夫になるはずだ。


 〖気配感知〗でリトヴェアル族と接触しないよう、気を付けながらも森を進む。


 小さな気配に目線を上げれば、また枝の上に緑の光の仄かに放つ小人達が座っていた。

 森小人、ラランである。

 近くの枝にずらりと並んでいる。

 今回は普段より多く、八体である。

 何か増えるきっかけとかあるんだろうか。

 体重がねぇんじゃなかろうかと思っていたが、さすがに少し枝が軋んでいた。


 ララン達は何をするわけでもなく、ただじっと俺を遠巻きに観察しているようだった。

 やっぱ、俺のこと見張ってんのかな?

 なんか不気味なんだけど。


 なぁ、俺もそろそろ、竜神っぷりが板について来たっしょ?

 そう思いを込めて視線をやるが、特にララン達に反応はない。

 しばし観察し合っていると、全員さっと枝を降りて、同じ方向へと駆け出して行った。

 すぐに姿は消え、後には一体も残らなかった。


 ……相変わらず、よくわかんねー奴らだな。

 後をつけて行ってみるか?


 でもこっちは森の浅い部分に入るし、俺だけならともかく、アロ達がいる今、人との接触率が高そうなところを目的もなく歩き回りたくはない。

 前にラランについて行ったときは、もう一つの集落を見つける切っ掛けになったんだよな。

 んでも、ラランが俺を連れてく理由なんてないし……あれはただの偶然か?

 以前も今回も、ほとんど俺から離れる方向へ消えて行っただけだし。


『コッチ、コッチ!』


 俺が悩んでいると、ぐいぐいと相方が別方向へと首を引っ張る。

 何かを見つけたらしい。

 俺も〖気配感知〗で、相方が示す方へと探りを入れてみる。


 何か、大きめの気配を感じる。

 地面に頭をくっ付けてみると、足音のようなものが微かに響いている。

 巨体系の魔物か。

 ステータスを見ねぇことには何とも言えないが、スピードはなさそうだ。

 俺も横から補助できるし、経験値稼ぎににゃ持って来いなんじゃなかろうか。


 大型モンスターの進行方向はこちらに向いているようだったので、少し高めの見晴らしがいいところに立ち、敵を迎え撃つことにした。


 大型っつっても、まぁ俺より一回り小さいくらいか。

 せいぜいリトルロックドラゴンくらいだな。

 昔はミリアを連れて逃げるくらいしかなかったと思うと、ちょっとノスタルジーな気持ちになる。


 と、感慨に耽っていると、遠くの木が派手に倒れた。

 木の根元に姿を現したのは、全長六メートル近い、茶色の体毛に覆われた大牛だった。

 顔の毛が異様に長い。

 目を真っ赤にしており、息が荒いことから興奮状態であることがわかった。


 こ、こいつはちょっとキツイか。

 とりあえず、この距離ならステータスのチェックができるな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:グラファント

状態:憤怒

Lv :27/55

HP :342/361

MP :125/153

攻撃力:152

防御力:167

魔法力:98

素早さ:64

ランク:C


特性スキル:

〖怒りん坊:Lv――〗〖HP自動回復:Lv1〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv2〗〖毒耐性:Lv3〗

〖落下耐性:Lv4〗


通常スキル:

〖ホーンランス:Lv4〗〖突進:Lv3〗〖ぶちかまし:Lv2〗

〖ハイジャンプ:Lv3〗〖メテオダイブ:Lv2〗〖パワー:Lv3〗


称号スキル:

〖森の力持ち:Lv4〗〖猪突猛進:Lv3〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……アロのステータスは【魔法力:42】、【素早さ:22】だ。

 今までの経験上、相手と正面からぶつかってダメージを与えるのには、最低でも防御力の半分の火力が必要となることがわかっている。


 傷口作ってそこを攻めさせれば、戦闘に貢献したってことでいくらかは経験値が配分されるはずだが……一撃もらえば即死クラスだし、ちっと危ないか。


 でも、狙い目なのは間違いねぇ。

 俺の素早さなら、グラファントとやらがアロ達への攻撃を出した瞬間に弾くことができるはずだ。

 それに、怪しいスキルを持っていないというのがありがたい。


 見たことがないスキルもあるが、名前から察するに前方への攻撃を目的としたスキルしかない。

 後ろを取らせて正面に俺がつけば、アロ達への攻撃は大きく制限できるはずだ。


 〖メテオダイブ〗は全方位に被害が出そうだが、〖ハイジャンプ〗とセットのスキルなのだろうと並びから予想がつく。

 大きく跳ね上がってから落ちてくるのだろう。

 準備動作がデカいのなら、安心してアロ達の避難、もしくはカウンターに出ることができる。


 Lvがそこそこ高いから経験値も期待できる。

 アビスへの自衛のためにも、ここで獲物を逃すわけにはいかねぇ。

 戦えないにしても、充分に逃げられるくらいのステータスは持っておいてほしい。

 現状だと、ある日突然全員アビスに喰い殺されてました、なんてことになりかねない。

 ここは勝負に出るべきだ。


 しかし、考え事をしていたとはいえ、先に相方が見つけちまうとはな。

 もうちょっと〖気配感知〗を張るときは集中するようにしねぇと。


『アレ、美味ソウ。狩ッタラ焼イテクレ』


 ……ああ、だからか。

 なんとなく予想はついてたけどよ。


 俺はグラファントの図太い足許に向かい、〖鎌鼬〗を軽く放つ。

 魔力を纏った風の刃が、グラファントの足へと吸い込まれていくように接近していき、体表をわずかに傷付けた。


 勿論、その気になれば足ごとばっさりともらうこともできる。

 だが、あくまでもこの一発は挑発のためだ。

 ここで怖がらせて逃走態勢に入られては、戦いどころではなくなってしまう。

 かるーく攻撃し、むしろ実力差がそうないとアピールすることが大切だ。


「ブゥモ……?」


 グラファントは野太い首を擡げ、俺へと敵意の籠った視線を向ける。

 ぴくぴくと瞼が痙攣している。

 人間風に言うと、『何やってくれてんだテメェ……?』とでも言ったところか。


 俺は身体を縮込めて、少しでもグラファントから見てそんなに強くなさそうな振りをするように努める。

 弱い虫が身体を広げて強く見せようとする、逆の戦術である。

 腰を低く低くしつつ、翼をちょいちょいと動かして弱々しい〖鎌鼬〗を放つ。

 べしっ、べしっとグラファントの額に風の刃がヒットする。


『何ヤッテンノ……?』


 相方が首を伸ばし、俺を心配そうに見る。

 い、いや、あのデカブツを油断させようと思って……まぁ、俺の方がデカブツなんだけど。

 ほら、相方も屈めよ。

 地に顎つけろよ。


「ブゥモォオオオオオオオッ!」


 グラファントが口を開けて吠え、俺へと向かって突進して来た。

 挑発は充分に成功したらしい。

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