第244話
アロは進化してから少し動きづらそうにしていた。
そのため再出発を少し遅らせ、アロの様子を見守ることにした。
どうにも土で作った肉擬きが上手く動かせないらしい。
関節を曲げる度、ポロポロと粉のようなものが落ちる。
アロの今のランクがDだ。
玉兎も、俺が進化させたのはDランクまでである。
ここからは一気にレベルが上がり難くなるはずだ。
俺がここまで来られたのだって、経験値倍増があったことと、目標があったから死に物狂いでレベルを上げていたから、という点が大きい。
回復ループがあるにしても、なかなか時間が掛かることだろう。
とはいえEからDで、一気に骨から肉付き(土擬き)にまで進化したのだ。
〖レヴァナ〗は肉体へのあこがれを持つアンデッドだと神の声も言っていた。
人間に近いアンデッドのルートに入ってるんじゃねぇのかな、とは思う。希望込みだが。
Cランクで人間に近い形態になってほしいところだ。Bは、ちょっと難しい。
「あ……あ、お」
俺が考え事をしていると、しゃがれた声が聞こえてきた。
思考を中断し、声の主であるアロへと目を向ける。
アロは関節を鳴らしている間にだんだん動くことに慣れてきたようだった。
あまり違和感なく歩けるようになっていた。
アロが充分動けることを確認した後、移動を再開する。
リトヴェアル族の村を大回りし、マンティコアの逃げた方向へと向かう。
竜神の巫女ヒビは、『あっちの方向なら大丈夫だ』などと言っていた。
つまりそれは、マンティコアの行き先に見当がついているということだ。
ということはマンティコアは逃げるときあまり大きくは曲がらず、ほとんど直進するように逃げた可能性が高い。
逃げた方向へと歩き続ければ、マンティコアの居場所を見つけ出せるはずだ。
〖気配感知〗を張り巡らせながら歩く。
足跡なんて草のせいでわかんねぇし、木のひっかき傷なんていっぱいある。
結局〖気配感知〗に頼るしかねぇ。
大まかな方向しかわかんねぇのはやっぱしキツイな。なんだか、こんな調子だと見逃しちまいそうでなぁ……。
しばらく歩いてみたが、特に何かの気配は見当たらねぇ。
地に鼻先をつけてすんすんと臭いを嗅いでみたが、そんなマンティコアの臭いなんてピンポイントでわかりゃしねぇ。
せいぜい土と花粉の臭いがするだけだ。
知らない道を歩き続けてきたせいで、だんだんと方向感覚がわからなくなってきた。
もうこうなっちまったら最終手段の〖飛行〗を使うべきか。
つっても、マンティコアの探索はアロのLv上げのおまけ的な要素が強かったからなぁ。
見つからねぇなら見つからねぇで、もうそろそろ帰っちまおうかな。
マンティコアに関しては、ヒビが大丈夫だと断言している。
下手に〖竜鱗粉〗ばら撒く必要もねぇか。
万が一マンティコアを見つけることができたとしても、正直アイツを捕まえる方法がまるで浮かばねぇってのも本音のところだ。
アイツの足の速さはちょっと侮れねぇ。
下手したらこっち側に避難していたマンティコアを再び人里近くへ移住させることになるかもしれねぇ。
少し立ち止まってから、辺りを見回す。
背の方へと目を向けると、えっちらおっちらと後をついてくるアロの姿が目に映る。
俺の歩いた痕跡は薄っすらと残っている。
他の魔物のものと混じってはいるが、記憶を辿れば簡単に帰ることはできるだろう。
アロの表情をちらりと窺う。
土肉のせいか、顔の表情はほとんど変わらない。
ただ、少し落ち着きがないように見える。
そわそわと道の先の方をあっちへこっちへと見回している。
アロには完全ではなくとも薄っすらと生前の記憶が残っているように見える。
ひょっとしたらこの辺の地については、生前のアロも何か知っていたのかもしれない。
つっても、リトヴェアル族の村からは大分離れている。
魔物だっているんだから、リトヴェアル族の子供が気軽に来れるところではないはずだ。
アロだって、来たことはさすがにないと思うんだけどな。ちょっと考え難い。
引き返すか、戻るか。
そう悩みながら前を向くと、木の枝に小っちゃい粘土の塊みたなのが三体座っているのが見えた。
あれは、森小人ラランだ。本当にこの森ん中ならどこにでもいるんだな。
三体の内、一体のラランが俺と目が合う。
正確には、目のような模様のようなものだったが……そのラランは、ぽりぽりと頭を掻く仕草をした。明らかに俺を意識しての行動に思えた。
立ち上がり、座っていた枝に手を掛けてそこにぶら下がる。
な、何やってんだ?
奇怪な行動だが、他の二体はその様子に気を留める様子もない。
二、三度ブランコの要領で前後した後、真下へと飛び降りる。
小さな土煙が上がる。それが晴れてから、着地に失敗したらしいラランがゆっくりと立ち上がった。
そして俺とは反対方向へと歩いていく。三歩ほど進んだところで、そのラランの姿がすぅっと消えた。
俺がじぃっとラランの去って行った方を見つめていると、枝に残っていたはずの二体もいつの間にかいなくなっていた。
ついて来い的な意思を感じた気がする。
いや、それはちょっと違うか。
なんつーか、あの適当とも思える態度には、来たいなら来れば? 的なニュアンスが強かったように思えた。
……い、行くだけ行ってみっかな。
リトヴェアル族から隠し事をされているようで、ちょっと不安な気はしていた。
不信感は解消しておきたい。
ラランの後を追ったが、それからラランはすっかり出てこなかった。
単にあいつら俺から逃げただけだったんじゃなかろうかと考えながら歩いていると、アロの足音が不意に途切れた。
振り返ると、アロが立ち止まったまま周囲を見回している。
何かを警戒するような動きだった。
俺は〖気配感知〗に意識を集中し、範囲を広げてみる。
少し距離を置いたところに、人間の気配が引っ掛かった。
たまたま訪れた外部の旅人なのか、リトヴェアル族なのかはわからない。
背はそこそこ高い。二十歳は超えていそうだった。
とはいえ、リトヴェアル族ではないはずだ。
村からかなり離れているし、そもそもこの方向は、マンティコアが逃げて行った方向だ。
あの村の人間が、わざわざこっちの奥へと狩りに出向くとは思えない。
なんかの儀式だったりでやむを得ない事情が~なんてことも考えられるが、そんな祭壇的な場所があったら、ヒビもあっちだったら大丈夫、なんてことは言わなかったはずだ。
しかし、一人か。
気配から緊張は感じるが、特に怪我を負っているわけではなさそうだ。
まったく無関係の旅人だろうか。
ちょっと様子を見てみたいが、アロの姿を見られるわけにはいかねぇな。
どうしたもんか……と考えていると、また一人追加で〖気配感知〗に引っ掛かった。
戸惑っていると、一人、また一人と増えていく。
結局全員で五人、俺の〖気配感知〗レーダーに引っ掛かった。
一人、一人、三人に分かれている。
こ、これ、ただの旅人って感じじゃねぇな。
手分けして何かを捜してる? 何かこいつら、土地勘利いてそうな……。
三人組がぴたりと動きを止めた後、その内の一人が先頭に立ち、俺の方へと真っ直ぐに向かって来た。
ヤベェ、絶対にバレた。向こうもなんか感知スキル持ってやがる。
に、逃げるか?
いや、でもこれ、正体確認しといた方がいいんじゃねぇのか?
土地勘あるならリトヴェアル族の可能性が高いし、本当にそうなら出合頭に攻撃してくることはまずないはずだ。
何をしにここまで来ていたのか、ちょっと聞かせてもらいたい。
勿論、その場合はどうにかアロを隠さなきゃいけねぇが……。
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