第240話

 俺は予定通り、アロを連れて森を散歩することにした。

 リトヴェアル族の集落を大回りして避けつつ、逃げたマンティコアを追うことが目標だ。

 道中で食糧とアロのレベル上げを熟せたらなおいい。


 子蜘蛛共は連れ出しちまったら制御できそうにないので、レッサートレントに面倒を見ておいてもらうことにした。

 俺がジェスチャーで頼むと、無表情ながらにこくこくと頷いて引き受けてくれた。

 いきなり枝に蜘蛛の巣張られてたけど、レッサートレントならきっとうまくやってくれるはずだ。

 俺はそう信じている。


 〖|魂付加(フェイクライフ)〗に既に常時呪い付加の効果がある分、アロやトレントには〖竜鱗粉〗は通らない……と、思う。

 確信はないが、骨がゴホゴホ咳き込んでんのはちょっと想像つかねぇ。

 あくまでも仮説なので様子がおかしくなったらそんときにまた考える必要があるが、ひとまず今のところは問題なさそうだ。


 ただ、子蜘蛛はそうはいかねぇだろう。

 生まれる前から相方の額に貼り付いてたから玉兎みてぇに耐性がつくかもしれねぇが、あまり分のいい賭けだとは思えない。

 相方には悪いが、子蜘蛛には必要最低限外ではなるべく近づかない予定だ。


 進化して子蜘蛛に耐性スキルがつくかどうか、慎重に見極める必要がある。

 子蜘蛛達を置いて来たのはそう言った理由もある。


 〖気配感知〗で人の気配を探りつつ森を歩く。

 今のアロを人間に見つかるわけにはいかねぇ。

 竜神様が骸骨を連れて歩いてたらパニックになることは避けられねぇだろう。


 もっとも集落からは大分距離を置いているため、そうそう遭遇することはないはずだが……と、考えていたのだが、人間らしき気配を感じた。

 ……気を抜けねぇな。


 リトヴェアル族ってばりばり狩猟民族っぽいし、集落離れでもずんずん出て来るか。

 二対一とはいえCランクのアビスと普通に戦ってたしな。

 今は殺気や興奮は感じないので、交戦状態でもなさそうだ。

 ここは避けさせてもらうか。


 巫女さんが気にしなくていいって言ってたところ漁ってるわけだし、なんとなくリトヴェアル族には気付かれない方がいい気もする。

 そこまで隠さなくてもいいだろうけど、なんかちょっと気まずいというか。

 信用してねぇってふうに受け取られても嫌だしな。


 そろそろ集落の反対側に回り込んだ位置にまで来たかというところで一度立ち止まった。

 一瞬飛び上がって確認してぇが、多分そうしたら目につくよなぁ……。

 〖竜鱗粉〗も散らばるだろうし。

 今結構Lv高いからどうなるかわかんねーのがな。


 適当に行ってみるかと考えていたところ、ぐっちゃぐっちゃと下品な咀嚼音が聞こえてきた。

 まさか、マンティコアか。

 そう考えて俺はアロをおいて一気に駆け、音の現況を探る。


「フゴッ、フゴ?」


 ……木の陰にいたのは、豚に似た魔物だった。

 垂れさがった肉で目が塞がっており、首がない。

 ほんとに黒い大柄の豚そのものだった。


 黒豚はちらりと俺を見てから首を上げる。

 口許からは血が垂れていた。黒豚の頭の下には、青い鹿のような魔物が臓物をぶちまけて倒れている。

 危機感が薄いのか相当強さに自信があるのか、黒豚は俺を見ても逃げなかった。

 安定のステータスチェックから入らせてもらうか。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:オインオイン

状態:通常

Lv :9/30

HP :57/68

MP :33/33

攻撃力:32

防御力:41

魔法力:19

素早さ:22

ランク:D


特性スキル:

〖食再生:Lv1〗〖面の皮:Lv2〗


耐性スキル:

〖毒耐性:Lv3〗〖麻痺耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖突進:Lv2〗〖噛みつき:Lv3〗

〖クレイ:Lv1〗〖転がる:Lv1〗


称号スキル:

〖大喰い:Lv2〗〖悪食:Lv3〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……ただの豚じゃねーか。

 いや、気は抜けない。こいつ〖転がる〗持ってやがるぞ。

 なんて豚だ。きっと相当の名のある豚に違いない。


 まぁ冗談は置いといて……低レベルだが、Dランクかぁ。

 でも素早さと攻撃力が若干低めだな。

 アロでも一撃なら受けても耐えられる。

 それになりより、


「フゴーッ! フゴーッ!」


 ……俺を前にしても逃げないってのが丁度いい。

 アロのレベル上げには持って来いだ。

 大した心臓してやがる。


「フゴォオオッ!」


 どうやら黒豚は、獲物が奪われると思って憤慨しているらしい。

 青鹿よりずっと美味そうなもんが目の前にあんだけどな。

 もっと自分を客観視した方がいいぞ。


 俺は一歩下がり、アロに目を向ける。

 アロはこくりと頷き、黒豚へと向かう。

 アロが前に出たのを確認してから俺は身を縮め、黒豚を刺激しないようにする。


 下手に手を出しちまったらアロの取得経験値が減っちまうからな。

 なるべくアロ一人で喰らいついてほしいところだ。


 アロはD-のオオモリガニ相手に有効打を与えられないでいたようなので、Dランクのオインオインはちょっと厳しいかもしれねぇ。

 だが、今回は最初から俺がいる。

 危なくなったら即座に戦闘を強制終了させられる分、アロも攻めに出やすいはずだ。

 この黒豚はスピード型でもねぇし、攻撃自体は当たるはずだ。

 〖流血〗の状態異常を負わせることができれば大ダメージを狙える。


 大きなダメージを負わせればそれだけ経験値も入ってくれるはずだ。

 上手く行けば進化目前まで持っていける。

 いや、最善で立ち回ることができれば一気に進化まで行ける可能性もある。


 アロは黒豚と向かい合った後、俺を振り返ってカタカタと頷く。


 行ってこいアロ。

 同じ部位ばしばし殴って〖流血〗取って、そっからは守りに徹して逃げ回れば勝機がないこともないはずだ。

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