第234話
背にヒビとバロンを乗せ、俺は森の中を走った。
方向はヒビとの〖念話〗で教えてもらった。
『川を越え……そのまま真っ直ぐ進めば見えてくるはずです』
俺は軽々と川を飛び越える。
着地の衝撃で辺りが大きく揺れ、土の中や茂みから現れた魔物達がさっと俺から離れていく。
まるっこい大鼠やら狼なんかがいた。少しLvを上げれば、あれくらいならばワイトでも狩れるかもしれねぇな。
途中、背後から不気味な気配を感じた。
減速したくはなかったので、俺は相方に前方を確認してもらい、自分だけ振り返ることにした。
後ろの遠くの木の枝には、白くぼんやりと光る小人が五体座っていた。
以前にも見かけた、相方が喰おうとしていたラランという魔物だ。
わずかに窪んでいる目のような部位が、じぃっと俺を観察していた。
が、害意はないんだよな? こっち見てるだけだよな?
なんか超怖いんだけど。
『木、ブツカルゾ』
相方からの忠告を受け、俺はすぐさま首を前へと戻して障害物を避けた。
『森小人達も、竜神様の帰還を喜んでいるのでしょう。森小人達は、無暗に森を荒らされることを恐れていますから』
俺の視線からラランを気にしていることを察してか、ヒビが〖念話〗で解説してくれた。
そ、そうか、あいつら森荒らされるの嫌がってんのか。
〖神の声〗から聞いたときは、木から魔力吸い上げて生きてる……みたいな説明だったからな。
森の守り神ポジだった竜神はラランにとってもありがたい存在だったのかもしれねぇ。
下手なことしねーように気をつけねぇとな。
あんましトレント量産してたら悪い意味で目つけられそうだ。
……ん、ひょっとしてトレント作ったせいですでに要観察対象になってんのか俺。
ち、違うよな? 竜神の祠にいたからだよな?
バロンが妙な手つきで背を撫でてくるので相方がどんどん不機嫌になって行くことを除けば道中は順調だった。
『コイツ、無理。ヤッパ振リ落トシテクレ』
いいじゃねーか。
問答無用で剣で叩き斬られるよりはよっぽどいい。
俺は大喜びで人間に駆け寄ってったら半殺しにされたことだってあるんだぞ。
相方は鬱陶しそうに時折バロンを振り返っていた。
自由に動かせなくとも、相方にとってもやっぱり自分の身体らしい。
しかしこいつ、男口調なんだな。
雌雄同体の双頭竜って説明だったから、てっきり雌型なのかと思ってたわ。
いや、俺の影響受けてるだけって線もあるか。
今度実験も兼ねて首二つで人化してみっかな。
人間に見られたらまず間違いなく妖怪認定されるだろうが。
ある程度走ったところで、〖気配感知〗が沢山の気配を拾う。
この感じは、人間だな。集落が近付いてきた証拠だ。
速度を落として行き、木で作られた門の傍で一度止まる。
門のサイズは、身体を屈ませればギリギリ俺でも潜れる程度の高さになっていた。
リトヴェアル族の集落は杭を並べて作った柵で覆われているようだ。
柵は軽々跨いで越えられる高さではあるが、混乱を抑えるためにも門から入らせてもらおう。
急に柵を越えて俺が現れるよりも、門からすごすごと入ってきた方が住民を脅かさないで済むはずだ。
守り神なんだからマナーくらいは守った方がいいだろう。
旅人どころじゃないパニックになったら、マンティコアを倒すのにも支障が出かねない。
そうなれば、また被害者が増えちまう。
門の横には、槍を持った男が立っていた。
門番だろう。
「りゅ、竜神様!? ヒッ、ヒビ様! これは一体……」
門番は俺を見上げながら槍を手から落とし、よたよたと近づいてくる。
「竜神様が、旅の方に関心を持たれたのです。そのためお連れしました」
関心っつーか、敵意っつーか……。
杞憂だったらいいんだが、このタイミングで腹を怪我した旅人なんてマンティコアしか考えられねぇ。
〖人化の術〗は膨大なMPを消費するはずなので違うのでは……とも思ったが、どうにも間が良すぎる。
何か、俺の知らねぇスキルの穴があるのかもしれねぇ。自分で確かめねぇことには安心できない。
俺は首を曲げ、背に乗るヒビの顔を見る。
ヒビは俺が何か言いたいことを察したらしく、瞼を閉じた。
ヒビよ、旅人はどこにいるんだ?
なるべく旅人に警戒されないように、あいつの近くにいる人間を引き離してほしいんだが。
もしかしたら人に化けてる魔物かもしれねぇんだ。
『……なるほど、それで急いでいらしたのですね。すぐ、そのように手配します。ただし旅人がいるのは治療所ですので、不信感を持たせないように避難させるのは少し難しいかもしれません』
俺が問いかけると、〖念話〗で返事が返ってきた。
それだけ言うと、ヒビは俺の背から飛び降りた。
彼女は足を曲げて衝撃を殺しながら綺麗に着地した。軽く足の調子を試すように地を爪先で叩いてから、門番の前へと移動する。
「ゴズ、治療所に行って怪我人を集会所に運び出すよう呼びかけてください。竜神様のことは口にせず、理由は貴方が考えてどうにか納得させてください。私の名前を出しても構いません。ただ、旅の方にはそのまま寝ているようにと伝えてください。旅の方が不審そうにしていたときは、すぐにここに戻ってきて報告をお願いします」
「わ、わかりました!」
門番の名はゴズというらしい。
ゴズは手放した槍を拾い直すこともせず、一目散に村奥へと駆けて行った。
「グァッ!」
相方は首を伸ばしてバロンの頭を咥え、地へと引き摺り下ろす。
今のヒビとゴズのやり取りを見て、もうバロンを乗せている必要はないと判断したらしい。
「うぉわっ!」
バロンが地面と激突し、辺りに砂埃が舞う。
ち、ちっとやりすぎでね。
「グゥアッ」
相方が低く鳴くと、バロンを光が包んだ。
……一応、〖レスト〗は使うんだな。
顔を上げると、遠くに建物が並んでいるのが見えた。
煉瓦造りで一つ一つはそこまで大きくなく、円柱のような形をしていた。
その建物の陰から、リトヴェアル族の子供が恐る恐るこちらを見ていた。
三人仲良く並んでいる。
とりあえず俺は威圧感を与えないよう、その場に這いつくばって身を屈めた。
三人の表情がぱぁっと輝き、俺へと向かって走ってきた。
「竜神様だ! 竜神様だ!」
「ホントに戻ってきてたんだ!」
……守り神ルート、本気で悪くねぇかもしれねぇな。
どうしよ俺、もうここで永住しよっかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます