第230話

 俺はワイトを引き連れ、森中の探索を行うことにした。

 とりあえず当面の目的は食糧調達、ワイトの進化、俺のレベル上げ……後は、余裕があったらリトヴェアル族との接触くらいだな。


 美味いもん見つかればいいんだけどな。

 貢物には米とか猪とかあったし、探せば見つかるはずだ。


 ワイトの進化は……とりあえず、肉体を手に入れるところだからな。

 大丈夫だよな? このまま最後まで骨だったら不憫ってレベルじゃねぇぞ。


 俺の進化は……と。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖イルシア〗

種族:ウロボロス

状態:通常

Lv :61/125

HP :1555/1555

MP :1505/1505

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 お、HPゾロ目じゃん。

 なんかいいことありそ……それはどうでもいいか。


 レベルがまだ折り返し地点にも達してねぇんだよな。

 これから必要経験値量がどんどん上がって行きそうだし進化はしばらく先になりそうだけど……次の進化、相方どうなんだろ。

 お前、消えんのか?


「ガァ?」


 俺が顔を見ると、相方は間の抜けた鳴き声を出す。

 ……進化のこととかなんも考えてなさそうだな、こいつ。


 しばらくは気にしなくていいことなんだろうけど、やっぱし気になっちまう。

 二つから一つになっても、俺の中に戻るだけだよな? なんか殺した感じにならんよな?

 それとも今後の進化もずっと首二つだったりするんだろうか。

 いや、ひょっとしたら三つになる可能性だってある。

 ひとつ増えただけでも目標揃えたり機嫌取ったりに苦労してんのに三つになったら俺ストレスで死んじまうぞ。


 ふと足を止め、考える。

 リトヴェアル族の集落、この近くにあるはずなんだよな。

 こっちから出向いたらやっぱビビられるのかな。

 いやでも、向こうから今日来なかったし……こっちからも関わらないと忘れられちまうんじゃねぇのか?

 いやいやでも、下手に行って好戦的に取られちまったらもう目も当てらんねぇことになっちまうし。


 いやいやいやでも……と一人で葛藤していると、相方が冷めた目で俺を見ていた。


「グァァ……」


 やれやれといったふうに首を振り、前に向ける。

 顎をくいくいと先にやり『早く歩けよ』と促してくる。


 な、なんかスゲー負けた感がある……。

 なんだ俺、そこまでぼけっとした顔してたのか。


 つーか今日はワイトもいるから、リトヴェアル族のところに接触しに行くのはちょっとまずいか。

 ワイトも今の姿で仲間達と会うのは辛いものがあるだろう。

 今日は狩りに専念すっか。それがいいよな、うん。


「ガァッ! ガァッ!」


 歩みを再開したところで、また相方が首を引っ張ってくる。

 口許から勢いよく涎が飛んでいた。

 なんだよなんか見つけたのか。

 もっと思念送って伝えてくれてもいいんだぞ。スキルLv上げてぇし。


『うまそう! うまそう!』


 ……思念でも鳴き声でも大して変わんねーな。

 玉兎の方が色々喋ってたぞ。


 相方の目線の先を見ると、ぽうっと淡く光る何かがいた。

 人の形をしているが、かなり小さい。小動物サイズだ。

 衣服は着ておらず、のっぺらぼうだった。粘土で人の輪郭を作ったような生き物だ。


 根っこに隠れてこっちを見ているようだ。


 あれは……ちょっと喰えねぇんじゃねぇのか。

 つーか喰いたくねぇよ。なんだよあの魔物。


【〖ララン〗:Eランクモンスター】

【その独特の姿から森の守り人、森小人、木の精霊、などと呼ばれており、各地に様々な呼び名に関連した逸話がある。】

【温厚な性格をしており、木の魔力を吸って生きる。】

【怒るととんでもないことになる。】


 完全に触っちゃ駄目な奴じゃねぇか。


『うまそう! うまそう!』


 やめとけ、こっちが喰われんぞ。

 いや、このランク差だとさすがに大丈夫だとは思うが。

 ワイトのレベル上げに丁度いいような気もすっけど、ちょっと関わりたくねぇ。

 悪いが別の獲物を探すぞ。あんなの喰っても腹の足しにもなんねーだろうが。


 俺は反抗する相方を引き摺り、反対方向へと進んだ。


「ガァッ! ガァァァッ!」


 どんだけアレ食べたいんだよ。

 その願望がどこから出て来るのかちょっとわからんわ。


 ラランだかなんだか知らねぇけど、相方の暴れ様見てどっか行ってくんねぇかな。

 ちらりと後ろを振り向くと、ラランが三体に増えていた。

 仄かに発光する白緑色の人型が三つ仲良く並んでいる。

 あいつら喰われてぇのか。


 俺と目が合うと、三体は同時に肩をすくめる仕草を取った。

 それから光がぱんっと弾け、姿を消した。


「ガァ……」


 相方が、がっくりと首を項垂れさせる。

 そんなにあれ喰いたかったのかよ。

 悪いが、あんな不気味な奴相手にしたくねぇぞ。俺を巻き込まねぇように一人……いや、一体でやってくれ。


 何か魔物はいねぇかと探していると、カサカサと音を立てて走るアビスを遠目に見つけた。

 ……わざわざあれに近づきたくはねぇなぁ。

 倒しても喰わねーし。

 いや、でも駆除しといた方がいいか。

 Cランクだからワイトでも手出しすれば経験値稼げそうだしな。

 んー……でもやっぱ気が進まねぇっつうか……。


 悩んでいると〖気配感知〗が逆側に引っ掛かった。

 この感じは人間っぽい。

 リトヴェアル族だろうか。


 ちょ、ちょっと気になるな。

 様子だけ見てみてぇんだけど……いや、見つかるか。

 でもやっぱ、近くまで来てるのに避けるっつうのも……うん、ちょっと顔見せだけしておこう。

 ちらっと、ちらっとだけ。

 貢物の御礼とかしときたいしな、うん。

 ここで逃げるのはあり得ねぇよな。


 ……ただ、そうなると問題なのはワイトだ。

 ワイトとリトヴェアル族を合わせるわけにはいかねぇ。


 ちらりと後ろを見ると、ワイトが寂しそうに俺を見上げていた。


 う、うう……。

 と、遠目から姿を見るくらいなら大丈夫か。

 挨拶だけして、近づいてきてワイトが見つかりそうだったらそっと離れるか。

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