第226話

「ガァッ! ガァッ!」


 バラバラになったワイトを〖魂付加フェイクライフ〗で復活させた後、相方がアビスに興味を示し始めた。

 俺は辞めさせようとはしたのだが、相方がどうしてもアビスが食べられるかどうか試してみたいらしい。

 よほど腹が減っているのだろう。

 抵抗されてはまともに歩くこともままならないため、最後には俺が折れてアビスに近寄ることになった。


 相方は恐る恐るとアビスの死骸に頭を近づけ、すんすんと鼻を鳴らす。

 目を細めながら舌を伸ばし、そうっとアビスに口を近づける。


 それから舌が触れるより先に目を開ける。

 相方の目と、アビスの死骸の目が合う。


「ガァ……」


 相方が舌の動きを止め、寂しげに鳴きながら頭を引く。


 ……やっぱし、いくらなんでもこれは喰う気になれんよな。

 そりゃそうだわ。

 相方がアビスにかぶりついたらどうしようかと思ったわ。


 相方はぶるりと頭を震わせ、泣きそうな目で俺を見る。

 腹減ったのはわかるけど……もうちょっとマシなもん喰おうぜ。

 祠に帰ったら貢物もあるしな。


 アビスの死骸を放置し、森の探索を再開した。

 あの貢物には肉だってあったんだし、あんな気持ち悪い生き物ばっかりってことはないはずだ。


 EかFの魔物がいたらワイトのレベル上げもやっておきたいんだけどな。

 ワイトも、進化すればすぐバラバラになる癖は抜けるはずだ。


 俺はちらりと背後のワイトへと目を向ける。

 ワイトがぽっかりと開いた二つの眼窩で俺を見上げる。

 ……ワイトってなんか喰ったりするんだろうか。

 しないか。するわけないよな、見るからに消化器官とかなさそうだし。

 だって骨だもん。


 探索中に青紫色のモグラやらフクロウっぽい魔物を見つけたのだが、どちらも逃げ足が速かった。

 モグラの方はこちらが感知するのとほぼ同時に地中に潜って行ったし、フクロウは何かのスキルなのかすぐ背景に混じって消えてしまった。


 危険な魔物が多いから、アビスみたいな寄生虫みたいな奴や、逃げ足が速い奴に分かれるんだろうな。

 そういえばマンティコアも、他のステータスは大したことないのに足だけは速かったな。

 なんかから逃げるためだったりするんだろうか。

 ……あれより強いのがいたらちょっと手こずりそうだな。


 しかしこの調子だと、ワイトと安心して戦わせられる魔物が見つかりそうにねぇな。

 単に食糧として狩るだけならなんとかなりそうな気がするんだが、生きたまま捕らえて弱らせ、ワイトと戦わせるとなると……う~ん。


 俺は足を止め、ワイトを振り返る。

 ワイトも俺に合わせ、足を止める。

 

 ワイトにはこの森はちょっとレベルが高過ぎるな。

 なんかこう、手っ取り早くワイトのレベルを上げる方法はねぇもんか。


 ワイトをじぃっと見ていると、唐突に閃いた。

 あ、あるじゃねぇか。

 ワイトと同レベルの魔物を〖魂付加フェイクライフ〗で造っちまえばいいじゃん。


 い、いやでも、〖魂付加フェイクライフ〗で生き死にをあんまし左右するのは……。

 ……でも肉塊でも動いたんだから、明らかに無生物っぽいのとかでもどうにかなりそうだよな。

 元からあからさまに生物っぽくないのを魔物化しても生死を冒涜してる感はあんましねぇし、セーフだろ、うん。


 これならワイトと同レベルの魔物なんてすぐ造れそうだし、押され気味なら俺が横から手出しすればいい。

 なんだ、万事解決じゃねぇか。

 となると、なんか手っ取り早そうなのを探さねぇと。

 魔物化しても、あんまり強くなさそうな……。


 俺が首を振ると、遠目に生えてからまだ数年であろう小さな木が見つかった。

 まだ木の皮も厚くなく、綺麗な若々しい色をしている。まばらに葉をつけていた。

 見るからに手頃である。


 若木に駆け寄ってから俺はワイトを見下ろし、顎で若木を示す。

 ワイトに『これと戦えるか』と訊いたつもりだった。

 ワイトは俺の意を汲み取ったらしく、こくこくと頷いた。


 それから俺は相方に向け、「グォッ」と一声鳴いた。


「ガァ……」


 相方は口寂しそうに歯を打ち合わせる。

 こ、これが終わったら本格的に狩りを始めるから……。

 次の飯もお前から喰っていいから、頼むって。

 ワイトが毎回バラバラになっていたら可哀相だし、お前だって手間だろう?


「ガァッ」


 俺の念が届いたらしく、相方は若木に向き直り、〖魂付加フェイクライフ〗を使用した。

 若木が黒い光に包まれる。


【通常スキル〖|魂付加(フェイクライフ)〗のLvが2から3へと上がりました。】


 黒い光が晴れたときには、若木に顔らしき窪みができていた。

 根を引き抜き、土を辺りに撒き散らす。


「ギ、ヒギィー!」


 若木の口部分の窪みが裂けるように広がり、そう雄叫びを上げた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:リトルトレント

状態:呪い

Lv :1/5

HP :7/7

MP :6/6

攻撃力:1

防御力:2

魔法力:3

素早さ:1

ランク:F


特性スキル:

〖闇属性:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖根を張る:Lv1〗〖クレイ:Lv1〗


称号スキル:

〖邪竜の下僕:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 せ、成功しちまった。

 なんだよこれ、配下造り放題じゃねぇかマジで。


 攻撃力と素早さは低いが、HPや魔法力は高いな。

 支援系に向いていそうだ。


 しかしこうして見ると、なかなか愛着が湧いてしまう。

 どう成長するんだろうとか、ちょっとワクワクしてしまう。

 それにあの称号スキルが今回もついていることからして、俺と敵対するようなことはまずないだろう。

 これは一旦予定を変更した方がいいかもしれない。


「ガォ……」


 俺がワイトに声を掛けようとしたそのとき、すでにワイトは動き始めていた。

 ワイトはトレントへ接近し、振り下ろされた枝を避けて背後へと回り込む。

 そのままトレントの背に絡みつく。

 ワイトの身体から、黒い霧のようなものが漏れ出す。


 トレントは身を捩ってワイトを振り落とそうとする。

 ワイトは振り落とされまいとしがみつく。

 部分部分、ばらけた骨が地に落ちていく。


「ギィ! ギィ! ヒギィ!」


 だんだんとトレントの動きが鈍くなっていき、体表の色もくすんでいく。

 そして最後には動かなくなった。

 トレントの動きが止まると、ワイトから洩れていた黒い霧が止んだ。

 HPを奪うスキルだったようだ。


 トレントは長らく水を得られなかったかのように枯れ果てていた。

 トレントについていた葉はすっかり変色しており、風が吹くと枝ごと地へと落ちた。


 俺は自分が命じた以上止めていいものかどうかの判別もできず、一部始終を呆然としながら見守ることしかできなかった。

 ようやく我に返った頃には、ワイトが嬉しそうに欠損した身体を引き摺りながら近づいてくるところだった。


 う、うん……い、いや、よくやったと素直に褒めてやるべきところなんだろうけどさ。

 なんというかこう、自分の中で気持ちの整理が……。

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