第219話
無事に森に着地した。
しばらくは川に沿って進んでみることにしよう。
水の位置はしっかり把握できてねぇと辛い。逆にいえば、水さえ確保できれば獲物がなかなか見つからなくともどうにかなる。
歩きながら、新しく手に入ったスキルだけちょっと調べておくかな。
あんまし頼りたくはなかったが……神の声よ、チェック頼むぜ。
まずは胡散臭い方……〖魂付加(フェイクライフ)〗からだ。
【通常スキル〖魂付加(フェイクライフ)〗】
【命なきものに、偽りの生命を与える。】
……えっと、蘇生系の魔法スキルか?
でもこれ『偽りの』ってところがどうにも不気味なんだけど……。
多分、普通に生き返してくれる感じじゃねぇよな。
ゾンビチックなアレだよな。
スキルLv上げたらなんか変わった使い方ができそうな気もするんだけど……うーむ……。
今度、魔物か何かで試してみるか。
使い熟せれば利用価値は見えてきそうだ。とはいえ、具体的には何も思い浮かばねぇけど。
で……次は、もっと胡散臭い方だな。
マジでロクなスキルねぇわ。
つっても、こっちは調べられんのかどうかちょっと自信ないんだけど……。
【神聖スキル〖人間道〗】
【人の世界を支配する権限を得る。本来の力は失われているが、進化先に大きな影響を与える。】
……で、出たけど、想像以上にアバウトだな。
これLv無い系のスキルだし……称号スキルみたいなもんだと思ってたらそれでいいのかな。
進化先に影響与えてくれるのはいいんだけど、なんか素直に喜べねぇな。
〖人間道〗っていうくらいだから酷いことにはならなさそうな気もするけど、なんか白々しすぎて怪しいっつうか……。
〖人化の術〗に釣られて厄病子竜になったらとんでもねぇしっぺ返しくらったこともあるしな。
首長くて顔だけ人間とか、そういう絶妙にキモイ進化遂げたりしねぇよな。
ついでだから、ちょっと他のスキルも見てみるか。
なんかの役に立つかもしれねぇし。
通常スキルはなんやかんや、ほとんど用途わかってるし……耐性スキルも、そんままっぽいからな。
特性スキルも気になるところはなし……じゃあ、称号スキルだな。
【称号スキル〖王蟻〗】
【功績の認められた〖隊長蟻〗へ、女王蟻から直々に贈られる称号。】
【優れた遺伝子の持ち主とし、女王蟻との子を成す権限が与えられる。】
【巣の赤蟻から主として認められる。】
…………お、おう、そうか。
称号スキルは、もういいか。
思えば、称号スキルも別に中身わかったからこれができたってもんはなかったな。
〖歩く卵〗にはかなり助けられているが。
「ガァッ! ガァッ!」
俺の左の頭、相方が川の方へと首を伸ばす。
どうやら喉が渇いたらしい。
相方と並び、川に口をつけて水を飲んだ。
水を飲みながら、ちらりと左を見る。
相方がばちゃばちゃ音を立てながら水を飲んでいた。
なんか歯垢的なものが流れていく。
……俺、川上で良かった。
頭を上げると、川を挟んだ向こう側に石積みの簡素な建物が見えた。
入り口は反対側にあるようだ。
高さは4メートルちょっと、といったところか。
幅も4メートル近くあり、奥行きは10メートル近くはある。それなりに大きい。
背を屈めずとも、俺の巨体がすっぽりと入る。川も近いし、暮らすには丁度良さ気に思える。
しばらくはあそこを拠点に動いてみるのも悪くねぇかもしれない。
俺は翼を広げ、川を飛び越える。
着地の衝撃で辺りが揺れた。
とと、もうちっと慎重に動かねぇと。今の音で近くの魔物を刺激しちまったかもしれねぇな。
今のところ特に危なそうな魔物は見つかってねぇけど、アドフが言うには大ムカデがうろつくあの砂漠より危険なところのはずなんだし。
なんだっけ、えっと……そう、リトヴェアル族だな。
なんかそういうヤベェ魔族って呼ばれてる奴らがいるって話だったか。
とりあえず、それにだけは気をつけておかねぇと。
俺は足音を抑えながら、石積みの建物へと近づく。
回り込むように歩いていると、入り口の両脇にドラゴンの像が並んでいるのが見えた。
いや、ただのドラゴンじゃねぇ。
首が二つある。俺と同じ双頭竜だ。
ほう、なかなか作り込まれているようだ。
どれどれ、じっくりと見てやろう。
距離が縮まると、建物の中から魔物の気配が漂って来た。
結構デカイ気配だ。これ、先住民の方がいらっしゃるな。
無策で近づくのはまずいかもしれねぇな。
大ムカデ引き千切れるような奴なんかが出てきたら嫌だし、引き返した方がいいかもしれねぇ。
でもドラゴンの石像があるくらいだから、ひょっとしたらドラゴンがいたりすんのかな。
ちょっと覗いてみたい気もするんだけど……いや、ここは大人しく退がっておこう。
藪を突いて蛇を出してたらキリがねぇ。
背を向けようとすると、相方が鳴いた。
「ガァ?」
逃げていいのかと、俺にそう訊いているようだった。
相方の顔や声を見ていると、なんとなく言いたいことが伝わってくる。
これは〖意思疎通〗のスキルのお蔭なんだろうか。
「あ……や、ヤダ……キャァアアアアッ!」
何か引っかかることでもあるのか……と考えていると、建物の方から悲鳴が聞こえてきた。
まさか、魔物の近くに人間がいたのか!?
魔物に気を取られていて気付けなかった。
アドフから色々と訊かされていたので、人間がいるなんて思いもしなかった。
確かによくよく探ってみれば、二人ほど人間がいるのがわかる。
俺は慌てて建物の入り口の方へと回り込む。
「グォォォオオッッッ!」
俺は咆哮を上げて魔物の気を引く。
敵意を明確に見せれば先制攻撃の機会を失うが、仕方がない。
邪魔な木を避ける間も惜しかったので、体当たりでへし折った。
建物の中から、何かが立ち上がったような物音がした。
次の瞬間、入り口の方から黄色い化け物が飛び出した。
「ゲバゲバゲバァッ!」
馬鹿デカイ鳴き声を上げながら、それは俺の方を振り返った。
全長七メートル近くあるのではなかろうか。
俺とほぼ同じ体格をしている。
その姿はまるで巨大なライオンのようだった。
黄色い毛皮を持っており、茶褐色の鬣が顔の周囲を覆っている。
長い尾の先は針玉のようになっており、その顔は人間の女と豹を足したような不気味な作りになっていた。
口の右端は血に濡れており、人間の子供の上体が覗いていた。
子供は、腹部を牙で貫かれている。あまりに惨い。
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