第200話

 俺は先頭グループの赤蟻と並行して走る。


 こちらの赤蟻は左側十体、真ん中五体、右側十体に分かれて敵の巣を目指す。

 俺は真ん中部隊に加わっている。

 まだ姿は見えないが、先ほど先行した五体は遠回りして反対側から回り込んでいるはずだ。

 先ほど隊長赤蟻から見せられた陣形通りだ。



 敵の赤蟻は、まだ十体程度しか巣から出てきていない。

 こちらの赤蟻は三十体いる。簡単に制圧できそうだな。

 ただこれで終わりということはないので、まだまだ増えるだろうが。


 俺はちょっとでも経験値が欲しい。

 地面を蹴って、スピードを上げる。

 味方の赤蟻を追い抜き、単独で巣の周辺、敵の赤蟻の群れへと突っ込んだ。


 狭い巣と違ってここは広し、挟み撃ちをくらうこともない。

 危なければ、俺の素早さならば一旦引いて〖自己再生〗や〖ハイレスト〗で回復できる。

 HP最大値も高いので、リンチにあっても早々簡単には致命傷にならねぇはずだ。


 三体の赤蟻が、俺の目前へと飛び出してきた。

 向こうもこちらが三つの部隊に分かれたのに対抗し、戦力を三分割するつもりらしい。


 恐らくコイツらの目的は、味方が巣から出て来るまでの時間稼ぎだ。

 戦力差でも劣っている今、攻撃に出るよりも防衛に徹したいはずだ。

 そうなれば、どう動きたいのかも絞れてくる。


「グォォオオオッ!」


「クチャッ!」「クチャ!」「クチャァッ!」


 赤蟻三体が横に並び、〖クレイガン〗を撃ち込んでくる。


 下手に止まったり回り込めば、相手の思う壺だ。

 コイツらの目的は、足止め。

 今奴らが最も恐れていることは、俺が最短距離で突っ走ってくることだ。


 俺は石礫を敢えて躱さず、全て腕で受け止めた。

 当たる気で突っ込めば、ある程度までならば当たっても仰け反らずに済む。

 それに、下手に避けるよりも致命傷への攻撃を避けられる。

 俺の回避行動を予測して撃っていた〖クレイガン〗も考慮しなくていい。

 まぁ、HPが高くて回復力がある今だからこそ取れる選択ではあるが。


 とと、頭は絶対守らねぇとな。

 玉兎をすっ飛ばされるわけにはいかねぇ。


「クチャッ!?」


 避けさせることを前提に撃っていた赤蟻達は、一歩後ろに退く。

 時間稼ぐつもりで撃ったのに直進されたらやっぱり焦るよな。

 いい牽制にもなったか。


 しかし、さすがに無茶をしたか。

 腕や足の鱗が所々剥がれ、血が滲んでいる。

 〖MP自動回復〗もあるし、一応回復しておくか。


 〖自己再生〗より〖ハイレスト〗の方が効率はいいのだが、〖ハイレスト〗のスキルは相方に持っていかれている。


「グゥォッ!」


 俺は相方へと吠える。


「グア?」


 相方はきょとんとした顔で俺を見つめ返してくる。

 いや、回復頼みたいんだけど……。


「グァァツ!」


 相方が吠えると、光が俺の身体を包んだ。

 傷口がみるみるうちに塞がっていく。


「クチャァッ!」「クチャッ!」「クチャァッ!」


 三体の赤蟻が、一斉に襲いかかってくる。

 赤蟻達は俺の目前にまで出て来ると、ばっと左右真ん中に分かれる。


 俺は真ん中の赤蟻へ頭突きをかまし、右側の赤蟻を尻尾でぶん殴る。

 尻尾は威力よりも、遠くへ押し出すことを意識した。

 一体ずつ確実に潰していきたい。


 左から向かってくる赤蟻は、相方に丸投げしていた。

 ちらりと左を見る。


「グァウ! グァツ!」


 相方は、赤蟻の腹に噛みついて地面に引き倒していた。

 よくやった、やればできるじゃねぇか。


 俺は上体を起こして翼を広げ、後ろ足で地面を蹴って背後へと飛んだ。

 頭突きと尻尾の押し出しで怯んでいた赤蟻二体は、飛び掛かって来なかった。

 時間稼ぎが目的だから、距離を取ってくれるのなら下手に追撃はするまいと判断したのかもしれねぇ。


 俺はそのまま、空高く飛び上がる。

 〖飛行〗が上がったおかげか以前よりも飛びやすい。

 以前よりも複雑な動きなんかもできそうだが、それの検証はまた今度だ。


「クチャアッ! クチャアッ!」


 相方の喰らい付いている赤蟻がジタバタと暴れる。

 高く飛んだのは、コイツを確実に仕留めるためだ。


 今はまだ低レベルなので、一体倒せばそれなりのレベルアップが見込める。

 敵の赤蟻に仲間を呼ぶ時間を稼がれるとしても、俺個人としてはこっちの方を優先させてもらう。


「ガァッ!」


 赤蟻の暴れるのに負け、相方が口を放す。

 俺は大口を開け、相方の拘束から逃れて自由落下する赤蟻へと喰らいつく。


「クチャッ!?」


 このまま地上に落ちるだけだと油断していたらしい。

 残念だったな。

 こっちには頭が二つあるぞ。


 〖くるみ割り〗で直接叩き付けてやりたいところだが、玉兎はあのスキルの反動に堪え切れないだろう。

 俺は首を後ろへと引いてから勢いよく振り下ろし、赤蟻を真下へとぶん投げる。


「クチャアァッ!」


 翼をピンと伸ばして落下速度を速め、勢いよく落ちていく赤蟻の後を追う。

 赤蟻の背が地に叩き付けられるのに合わせ、〖転がる〗の要領で身体の上下を入れ替えて踵落としを決める。


「ブジェッ!」


 赤蟻は体液を吹き出し、軽く身体を痙攣させてから息絶えた。


【経験値を243得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を243得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが5から15へと上がりました。】


 ツーランク差開いちまったからか、ちょっと取得経験値減ったな。

 それでも美味しいことには違いないが。


 やっぱしさすがAランクモンスターだ。

 レベルが上がったら、その分格段に身体能力が上がっているのがわかる。


「クチャァッ!」


 さっきの二体が、落下した俺を狙って〖クレイガン〗を撃ってくる。

 俺はそれをまた腕で防いだ。

 衝撃はそれなりに伝わってくるが、今度は鱗に傷はつかなかった。

 これならあの二体くらい、どうとでもなりそうだ。


「クチャッ!」「クチャッ!」


 巣穴から、大量の赤蟻が流れ出てくる。

 さっき奥に引っ込んで行った赤蟻が呼んだ分だろう。

 二十体ほど出てきたが、それでもまだまだ列は止まる気配を見せない。


 ……これ、もう戦力差逆転したな。

 さすがにあの数から袋叩きにされたら、以前の大ムカデみたいになりそうだ。


「クチャッ!」「クチャアッ!」


 俺の後ろから、味方の赤蟻達が追い付いてくる。

 そのまま俺を抜かし、敵の赤蟻の大群へと向かう。俺もすぐにそれに混じった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る