第192話
〖デモン・チャリオット〗、〖ゴルゴーンドラゴン〗……。
〖ウロボロス〗、〖パンドラ〗、〖名もない醜き竜〗……。
駄目だ。何回考え直しても選べねぇ。
どれになっても後悔するビジョンしか見えない。
とはいえ、進化してから再び蟻の巣でレベリングを行ってからハレナエへと向かいたい。
進化した直後はレベルが1に戻る。
下手したら進化前よりステータスが低くてまともに戦えないことも考えられる。
今更増えるかもわからねぇ称号スキルを当てにして動く猶予はない。
腹を括るか。
ちょっと早まった進化しちまって悔やむことになっても、ニーナを見殺しにするよりはずっとマシだ。
余裕ぶってられる立ち場じゃねぇんだから、目先の目標を優先するしかない。
それに勘だが、これは恐らく、最終進化ではない。
以前にちらっと名前を見た〖ジャバウォック〗がない。
それに前回に比べ、〖神の声〗の干渉がないからだ。
全部おどろおどろしいのしかないから誘導しなくても良かったのではという線もあるが、この五種類のドラゴンからは、俺に何をさせたいのかがあまり見えてこない。
〖神の声〗はあれだけ俺にしつこく干渉して来ていたのだから、何かそれ相応の目的があったはずだ。
〖リトルドラゴン〗を選ぼうとしたら圧を掛けられ、〖厄病子竜〗を避けようとしたら〖人化の術〗で釣り上げられた。
俺が〖厄病竜〗を選んだのだって、神の声に他の進化先を露骨に否定されたからだ。
この最後の最後で丸投げしてきたとは考え辛い。
恐らく、方向性は整っていて目標地点はまだだから、きっと細かい経路はさほど気にしていないのだろう。
そう考えれば、進化先が真っ黒に染まっている今回干渉して来ない理由に納得ができる。
希望的観測ではあるが、元より進化を後回しにするという選択は、今の俺には取れない。
はっきりいって全部あり得ない進化先だが、ここから絶対にあり得ない進化先を抜いて考えよう。
困ったときは消去法だ。
消極的だが仕方ない。
〖デモン・チャリオット〗はないな。
ランクもA-だし、一番パッとしなさそうだ。
〖転がる〗特化というのは気には掛かるが、さすがにそれで進化を選ぼうとは思えない。
多分、今回の進化先で一番弱い。
唯一ここから先の進化で巻き返しが効きそうな気もするが、それで勇者に負けたら元も子もない。
〖名もない醜き竜〗もちょっとあり得ない。
勇者は倒せそうだが、そのまま国ごと沈めることになりそうだ。
気持ち的にも絶対避けたい。一生ぼっち竜確定じゃねぇかこんなもん。
〖ゴルゴーンドラゴン〗、〖ウロボロス〗、〖パンドラ〗……。
やっぱ、選ぶのならこの三つからか。
〖ゴルゴーンドラゴン〗もランクは低いが、状態異常誘発の魔眼はそれを補うだけの性能はありそうだ。
あの神の声の説明文からのみの判断だが。
目がいっぱいはちょっと、いや大分嫌だが、もうそんなこといってる場合じゃねぇ。
二つ残して残りは閉じる練習をしよう。
〖パンドラ〗は、スピードがないのと死後に強力な呪いをばら撒くのがネックだなぁ……。
災いを齎すってのもなんか、意味深であんまし触りたくないというか。
魔物を人間に変える力は魅力的だが……詳細がわかんねぇしなぁ……。
……ん、待てよ。
ちょっと、神の声、ウロボロスの説明文を頼む。
【〖ウロボロス:ランクA〗】
【この世の理に反した、永遠を知るドラゴン。老いることがない。】
【雌雄同体の双頭竜。その存在自体が永遠と禁忌の象徴であるとされている。】
【神に背き、生命を冒涜するような魔法を操る。】
【HP、MP共に底知らず。回復魔法のエキスパート。】
……ひょっとしてこれ、人化の術使い放題なんじゃないのか?
それに腐っても回復魔法のエキスパートだし、他と違って呪いだの悪魔だのと連呼もされていない。
そもそも神に背きって、神ってなんだよ。
神お前だろ。なに他所他所しく他人行儀に語っちゃってるんだ。
お前になんか、いくらでも歯向かってやるっつーの。
いわれようは酷いが、冷静に見てみれば邪竜だとはいわれていない。
ちょっと宗教観的にまずいですよってだけだ。
ひょっとしたら俺に〖ウロボロス〗を選ばせたくないがために偏った言い回しをしている可能性もある。
それに最悪軌道修正が効かなくとも、人化の目が残るのは大きい。
勿論、新しい同居人のことは気にかかる。
双頭竜とか俺の精神が持つかどうか怪しい。それに俺の意に反して暴れまわるかもしれん。
ヤバいと思えば最悪斬り落として強制撤去させよう。
決めた、俺は〖ウロボロス〗にするぞ。
「グゥォォォ……」
俺は唸りながら、後ろに退く。
急に俺の姿が変わったら、わかっていても驚くだろう。
サイズもわからないのだし、アドフと玉兎から距離を取っておくべきだ。
気が付いたら踏み潰してましたとか洒落にならん。
身体の奥が、熱くなってくる。
熱は一気に頭から尻尾の先の鱗にまで行き渡る。
全身が溶かされる。
初めて〖人化の術〗を使ったときの感覚に似ている。
俺は身体をその場に埋めて目を閉じ、じっと痛みに堪える。
ようやく落ち着いたかと思ったとき、大きな違和感が俺の横に現れた。
「グゥァォォオッ」
厄病竜時代よりも、少し落ち着いた、澄んだ鳴き声だった。
俺が鳴いたわけではない。俺も一瞬、自分が無意識に鳴いたのかと錯覚してしまった。
目を開ける。薄い青紫色をした顔が目の前にあった。
白く長い髪が、そいつの首を覆っていた。
いや、鬣と呼ぶべきなのだろうか。どっちでもいいか。
髪を掻き分けるようにして、角が伸びていた。角はなかなか見事で、先が枝分かれしている。
きっと俺も、こいつと似たような造りの顔をしているのだろう。
俺は自分の背を振り返る。
大きく広がった翼が見えた。いかんいかん、閉じておかねば。
翼、結構進化したか?
体格は……さして変わってねぇのかな。
尻尾は伸びてるみたいだが。これだと、尾を使った攻撃のバリエーションも増えそうだ。
目線を落とす。
手が、前足寄りに変形している。
……陶芸できねぇな、これ。
【〖厄病竜〗から〖ウロボロス〗に進化しました。】
【特性スキル〖飛行〗のLvが5から7へと上がりました。】
【特性スキル〖竜鱗粉〗のLvが5から7へと上がりました。】
【特性スキル〖竜の鱗〗のLvが5から7へと上がりました。】
【特性スキル〖HP自動回復〗のLvが3から8へと上がりました。】
【特性スキル〖MP自動回復:Lv6〗を得ました。】
おう、上がってく上がってく。
〖飛行〗と〖竜の鱗〗がツーランクアップしたのはありがたい。
今までは上手く飛べなかったからな。
自動回復……取得時に既にLv6かよ。さすが回復能力を売り文句にしていただけのことはある。
〖竜鱗粉〗についてはもう何も言うまい。
【特性スキル〖双頭:Lv--〗を得ました。】
【特性スキル〖精神分裂:Lv--〗を得ました。】
……なんか、こうやって突き付けられると、やっちまった感があるな。
【耐性スキル〖即死耐性:Lv1〗を得ました】
【耐性スキル〖呪い耐性:Lv1〗を得ました】
【称号スキル〖竜王の息子:Lv--〗により、所持しているLv5未満の耐性スキルのLvが上昇します。】
お、おう。
じゃんじゃん増えてくな。
【通常スキル〖病魔の息〗のLvが4から6へと上がりました。】
【通常スキル〖毒牙〗のLvが5から7へと上がりました。】
【通常スキル〖痺れ毒爪〗のLvが4から6へと上がりました。】
【通常スキル〖レスト:Lv3〗が〖ハイレスト:Lv3〗へと変化しました。】
【通常スキル〖自己再生:Lv5〗を得ました。】
【通常スキル〖道連れ:Lv--〗を得ました。】
【通常スキル〖人化の術〗のLvが4から7へと上がりました。】
【通常スキル〖ステータス閲覧〗のLvが6から7に上がりました。】
なんか見覚えのあるスキルが……あれ、〖人化の術〗スリーランクアップ!?
こ、これ、もう使えるんじゃね?
【称号スキル〖永遠を知る者:Lv--〗を得ました。】
【称号スキル〖悪の道〗のLvが6から7へと上がりました。】
【称号スキル〖災害〗のLvが6から7へと上がりました。】
【称号スキル〖卑劣の王〗のLvが5から6へと上がりました。】
……おう、知ってた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖イルシア〗
種族:ウロボロス
状態:通常
Lv :1/125
HP :195/332
MP :83/342
攻撃力:221
防御力:180
魔法力:220
素早さ:230
ランク:A
特性スキル:
〖竜の鱗:Lv7〗〖神の声:Lv4〗〖グリシャ言語:Lv3〗
〖飛行:Lv7〗〖竜鱗粉:Lv7〗〖闇属性:Lv--〗
〖邪竜:Lv--〗〖HP自動回復:Lv8〗〖気配感知:Lv5〗
〖MP自動回復:Lv6〗〖双頭:Lv--〗〖精神分裂:Lv--〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv5〗〖落下耐性:Lv6〗〖飢餓耐性:Lv5〗
〖毒耐性:Lv5〗〖孤独耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv4〗
〖闇属性耐性:Lv4〗〖火属性耐性:Lv3〗〖恐怖耐性:Lv3〗
〖酸素欠乏耐性:Lv4〗〖麻痺耐性:Lv4〗〖幻影耐性:Lv3〗
〖即死耐性:Lv2〗〖呪い耐性:Lv2〗
通常スキル:
〖転がる:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv7〗〖灼熱の息:Lv5〗
〖ホイッスル:Lv2〗〖ドラゴンパンチ:Lv3〗〖病魔の息:Lv6〗
〖毒牙:Lv7〗〖痺れ毒爪:Lv6〗〖ドラゴンテイル:Lv2〗
〖咆哮:Lv2〗〖星落とし:Lv2〗〖くるみ割り:Lv3〗
〖人化の術:Lv7〗〖鎌鼬:Lv3〗〖首折舞:Lv4〗
〖ハイレスト:Lv3〗〖自己再生:Lv5〗〖道連れ:Lv--〗
称号スキル:
〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗
〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv4〗
〖嘘吐き:Lv3〗〖回避王:Lv2〗〖救護精神:Lv9〗
〖ちっぽけな勇者:Lv6〗〖悪の道:Lv7〗〖災害:Lv7〗
〖チキンランナー:Lv3〗〖コックさん:Lv4〗〖卑劣の王:Lv6〗
〖ド根性:Lv4〗〖|大物喰らい(ジャイアントキリング):Lv3〗〖陶芸職人:Lv4〗
〖群れのボス:Lv1〗〖ラプラス干渉権限:Lv1〗〖永遠を知る者:Lv--〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
……ステータス、下がったな。
攻撃力がっくり下がったのが痛い。
低レベルの内は簡単にレベル上がるはずだが、どこまで持っていけるか。
あの勇者が600台持ってたような気がするんだが、追いつけるんだろうか。
しかし……これといって、生命を冒涜しそうな魔法はないな。
これから覚えるんだろうか。
欲しくないような、ちょっと気になるような……。
俺の目は自然と、新しく生えた別の首へと向く。
「グゥ、グゥァッ!」
目が合うと、相方が俺に牙を向けてくる。威嚇されたと思ったらしい。
首が結構長いので危ない。怖い。
げ、鼻先噛まれた!
て、てめっ! このっ!
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