第191話

 アドフが落ち着いたところで、これから進化するということを玉兎を通して伝えた。

 アドフも進化のことを知っているようではあった。

 一定の経験を経た魔物が、大きく姿を変える現象として認識されているようだった。


「普通ならば、危険度の高い邪竜の進化など、絶対に見過ごせるものではないのが……今の俺は、それに頼る他ないのだから、不思議なことだ」


 そういって、すっと砂の上に座った。

 少し、寂しそうに見えた。

 腕のせいだけとは、俺とは思えなかった。

 自分の帰る場所がなくなったことを、強く再認識したからだったのかもしれない。

 

 別にそれで、馬鹿にされたなどとは思わない。

 俺だって身内殺されて犯罪者に仕立て上げられた挙句、邪竜と一緒に故郷にクーデター紛いのことをする羽目になったら、人生の終わりを覚悟する。


 ……おい、神の声。

 どうせ聞いてるんだろ。


 善竜なんて都合のいいことは言わねぇ。

 だから、せめて、あの勇者を倒せるだけの力を持ったドラゴンを頼む。


 俺だって、なるべくなら人里に降りられるドラゴンになりたい。

 そのための称号スキルだって伸ばしてきたつもりだ。

 だが、第一目標はニーナの救出だ。

 友達一人見殺しにしてまで、おめおめと人間と仲良くしたいだなんて、俺はそんなことは願わねぇ。


【進化先を表示しますか?】


 この問いかけも、随分と久し振りだな。

 勿論、断る理由はない。

 今回進化先が何個あるのかはわかんねぇけど、あの勇者をぶっ飛ばせそうな奴を選ばねぇと。


 今がB-ランクだから、A-くらいの進化先ならあるかもしれねぇな。

 Aランクのモンスターって見たことねぇな。

 ムカデよりランク上とか、想像もつかんけど。


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【未来】

〖名もない醜き竜〗:A

〖パンドラ〗:ランクA

〖ウロボロス〗:ランクA

〖ゴルゴーンドラゴン〗:ランクA-

〖デモン・チャリオット〗:ランクA-

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【現在】

〖厄病竜〗:ランクB-

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【過去】

〖厄病子竜〗:ランクD+

〖ベビードラゴン〗:ランクD-

〖ドラゴンエッグ〗:ランクF

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 あ……あ、ああ……。

 オールAランク……いや、それはいい。

 一瞬、これだけいっぱいあったら強い善竜コースもあるんじゃないかと思ったけど、そんなことはなかった。

 名前だけでわかってしまった。

 今回、ゲテモノ枠しかねぇ。


 い、いや、確かに俺は、とにかく力が欲しいとはいったけども。

 なんだよ〖パンドラ〗って。

 これ本当にドラゴンか? パンドラゴンなのか?

 明らかに災害振り撒く気満々じゃねぇか。


 今までせいぜい一個変なのが混じってるくらいだったのに、ついにまともなのがゼロになってしまった。

 な、なんでだ?

 俺……〖救護精神〗も〖ちっぽけな勇者〗も、結構高かったはずだぞ。

 厄病竜か、俺が厄病竜だからこんな目に遭うのか?


 あんまりにあんまりだろ。

 え、こ、この中から選ばなきゃ駄目なの?

 ちょっとヤバいぞ。

 俺がハレナエに入ったら、間違いなく国中大パニック待ったなしだろこれ。


 …………と、とにかく、例によって下から詳細をくれ。


【〖デモン・チャリオット:ランクA-〗】

【別名、悪夢の大車輪。魔界の戦車を引くドラゴンだと言い伝えられている。】

【体表から伸びた無数の針がスパイクとなり、地形を崩しながら走る。】

【翼が退化しているため、空を飛ぶことはできない。その代わり、身体の針を用いて直角な壁でも駆け登ることができる。】

【転がるだけで山一つ轢き潰すため、地図が当てにならなくなる。】


 どこにいるんだよこんな悪魔。

 いや、おかしいだろ。世界のどこかにこんなドラゴンがいるのかと思ったら、俺ちょっとぞっとするんだけど。


 どうすんだこれ、ハレナエごと勇者ぶっ飛ばせるぞ。

 ニーナも洩れなくぶっ飛ぶぞ。

 なんならちょっと頑張ったら世界滅ぼせそうだぞ。


 確かにこのドラゴンに進化して〖転がる〗で駆け回れたらさぞ楽しいんだろうけども、ちょっと却下だな。


【〖ゴルゴーンドラゴン:ランクA-〗】

【五つの魔眼を持つドラゴン。】

【それぞれ催眠、混乱、麻痺、猛毒、石化の呪いを持つ。】

【逃れられない強烈な状態異常を重ね掛けし、外敵を確実に呪い殺す。】

【また、髪を蛇の魔物に変えることができる。】


 へ、へぇ、ランクはA-だけど、応用が利いて強そうだな。

 ただ、五つ目がある時点でちょっと俺には意味が分からないんだけど。


 ……なんかぶっ壊れ性能ばっかりに見えるんだけど、ひょっとしてこれ、最終進化じゃないのか?

 そうだとしたら、一生この姿でいなくちゃならんってことだと思うんだが。


【〖ウロボロス:ランクA〗】

【この世の理に反した、永遠を知るドラゴン。老いることがない。】

【雌雄同体の双頭竜。その存在自体が永遠と禁忌の象徴であるとされている。】

【神に背き、生命を冒涜するような魔法を操る。】

【HP、MP共に底知らず。回復魔法のエキスパート。】


 やった!

 これ、絶対〖救護精神〗の成果じゃん! やった!

 なんも嬉しくねぇよド畜生が!!

 そんな大層なのはいらねぇからちょっとでもまともなもん持ってこいよ!


【〖パンドラ:ランクA〗】

【世界に災いを齎すと言い伝えられているドラゴン。】

【人を魔物へ、魔物を人へ変える呪いを持つ。】

【動きは遅いが、強固な体表を持つ。死んだとき、広範囲に強力な死の呪いを放つ。】

【大昔の勇者が、パンドラを辺境にある自身の故郷まで引きつけてから討伐したという逸話が残っている。】


 ……ない、ないな。これがぶっちぎりでないな。

 でもこれ……ひょっとしたら、自力で人間に戻れるのか?

 いや、神の声の前科考えたら過信できないし……それになにより、最初の一行が滅茶苦茶引っ掛かる。

 えっと……次で最後か。


【〖名もない醜き竜:ランクA〗】

【人と出逢った例がないため、名前のないドラゴン。】

【『醜い』としか名状できない姿をしている。】

【常に凶悪な呪い、猛毒をばら撒いているため、近づくことすら容易ではない。】

【草木は疎か土さえも腐り果て、動物は苦しむこともなく、皆静かに眠りにつく。】

【ドラゴンは、自分以外の生物を夢見て歩み続けた。】

【世界の果てで決して朽ちない花を見つけたとき、なぜ自身が他の生物と出逢わないのかを知る。】

【その花の前にゆっくりと蹲り、もう二度と歩き出すことはなかった。】


…………。

 本当にどうすんだこれ。

 ラスボスか裏ボスみたいなのしかねぇぞ。

 全部ジョーカーでババ抜きやってる気分なんだけど。


 下手したらハレナエごとオーバーキルじゃねぇか。

 なんつーか、強い云々以前に、傍迷惑なのが多すぎる。


 称号スキルを掻き集めてきたいところなのだが、今はもう、時間がない。

 今日明日でレベルを上げ直して、明後日にはハレナエに行かなければならない。

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