第184話
赤蟻の長蛇の列が、巣へと帰還していく。
皆一様に口にムカデ団子を咥えている。
成功した。
成功してしまったのだ。
「ぺふ、ぺふっ!」
玉兎ははしゃいでいたが、しかし俺は素直に喜ぶ気にはなれなかった。
そんな俺の様子を見てか、玉兎は伸ばしていた耳を地に垂らし、不安そうに俺を見上げる。
失敗したのではないかと思ったときには気が気ではなかったが、しかし成功した今となってはこれでよかったのだろうか、他に手はなかったのだろうかと思ってしまう。
あの列の中には、きっと俺がアリジゴクから助けた赤蟻も混じっているのだろう。
仲間内では、ムカデ団子の山を見つけた英雄として讃えられているに違いない。
きっとなんか、
『お前、よくやったな!』
『いやぁーなんか、たまたまドラゴンに連れてかれたんっすよセンパイ! 偶然ですって!』
みたいな会話があったのかもしれない。
脳裏に、顔を突き合わせてへらへらしている赤蟻の図が浮かんだ。
考えれば考える程辛いだけなので、俺は首を振って今のやりとりを頭から掻き消す。
最後尾の方には何も咥えていない赤蟻がいた。
どうやら団子の数よりも赤蟻の数の方が多かったらしい。
巣を守る赤蟻や別の場所に向かっている赤蟻がいることを思えば、やはり赤蟻の数は二百近くだと考えておいた方が良さそうだ。
それからもしばらく赤蟻の巣を見張っていた。
段々と巣から出たり入ったりしていた赤蟻の数が減っていく。
最初は誤差程度の違いしかなかったのだが、その数は途中から急激に減ってきていた。
ムカデ団子の効果が出始めているのか?
毒の効果で死なれてしまえば、経験値が入手できなくなる恐れがある。
あくまでもムカデ団子の目的は赤蟻の弱体化である。
そろそろ様子を窺いに行くことにするか。
俺は赤蟻の巣へと近づく。
俺の後を、玉兎とアドフがついてくる。
俺は〖気配感知〗を意識しながら、真っ赤な大穴を覗き込む。
中から二体の赤蟻が出て来るところだった。
「ク、クチャ」「クチャァッ!」
赤蟻達は俺を見つけると声を上げる。
片方は俺へと向かってきて、片方は巣の奥へと戻っていく。
足止め係と報告係か。
だが、前回よりも動きが遅い。
それになんだか、覇気が感じられない。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:レッドオーガアント
状態:毒、麻痺(小)
Lv :25/55
HP :127/230
MP :64/71
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:レッドオーガアント
状態:毒(小)
Lv :27/55
HP :199/239
MP :49/75
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
毒だ。毒が効果を見せ始めているのだ。
麻痺が入っている奴もいる。〖痺れ毒爪〗のせいだろうか。
でも、思ったよりもダメージが通っていない……?
いや、こんな状況だ。
きっと比較的ダメージの少ない赤蟻が率先して狩りに出向くことになっているのだろう。
この二体は、かなりマシな部類なのだろう。
因みに、俺に向かってきているのは、麻痺が入っていない赤蟻の方である。
HPが無事であろうが、身体能力がかなり落ちている。
ちょっと不安も残るが、攻め入るには今が絶好の機会だ。
俺は向かってくる赤蟻へと〖鎌鼬〗をお見舞いする。
フェイントも挟んでいなかったのに、赤蟻はまったく避けなかった。
風の刃をまともに身体で受けてその場で蹲ってから、〖自己再生〗で起き上がってからまた向かってくる。
あの攻撃も避けられなかったのか。
これ以上MPを使う必要もないな。
俺は翼を畳み、肉弾戦で迎え討つべく、姿勢を低くして構えた。
間合いに入ってきたので、こっちから飛び掛かってやった。
口先を突き出し、赤蟻の首の部分に喰らいつく。
「ク、クチャ……」
そのまま俺は地を蹴って軽く飛び上がり、頭から落下して赤蟻を思いっ切り地面に叩き付ける。
体液が飛び散り、じきに赤蟻は動かなくなった。
やっぱり、能力がかなり下がっている。
【経験値を388得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を388得ました。】
【〖厄病竜〗のLvが62から63へと上がりました。】
む、若干取得経験値が下がっているか。
やっぱり戦闘外の毒で弱っていた分、差し引かれているのか?
つっても、20か30程度だな。
これならば誤差の範囲だ。
うし、こっちも時間的にそこまで余裕はねぇ。
このまま赤蟻の巣に飛び込むか。
俺は今Lv63で、厄病竜の最大がLv75、進化まで後12、か。
多分、赤蟻を二十体分くらいだろう。
赤蟻の巣の中で大暴れして今日中にレベル最大まで持っていって、そこで一旦引き下がろう。
進化したらレベルの加減で一時的に弱体化するかもしれねぇし、クセの強い種族になっちまったら身体を上手く制御できない可能性だってある。
サイズが思ったよりデカくて通路に嵌ってそこで生きるしかなくなったりしたら本当に笑えない。
あの神の声だったらそれくらいのトラップは仕掛けてきそうだ。
俺は地面に叩き付けた赤蟻の死骸へと頭を下げてから、赤蟻の巣の入り口へと顔を向ける。
さて、玉兎とアドフはいつも通りのお留守番をしておいてもらうか。
「グォゥ」
俺が玉兎の方を向いて鳴くと、玉兎は頭を振った。
「ぺふっ!」
『ヤ! ツイテク!』
いや、それはちっと危ないんじゃ……。
『アソコ、暗イ。目、見エナイ』
確かにそうだけど、俺も〖気配感知〗を使えばある程度はなんとか……。
『ニーナ、助ケル! 何カ、シタイ!』
……そう言われちゃ、仕方ねぇな。
うっしゃ、行くとするか。
玉兎の〖灯火〗は、赤蟻の巣を突き進むのにかなり役立つはずだ。
「だったら、俺にも協力させてほしい」
アドフが大剣を鞘から引き抜き、地に突き立てる。
玉兎の〖念話〗はアドフにも届いていたらしい。
アドフ……ぶっちゃけ、赤蟻と大差ない戦力だからなぁ……。
赤蟻二体をギリギリ相手にできるかどうかくらいだろう。
俺より小さいから、狭い通路の中でも動きやすくはあるんだろうが……。
『アドフ、役ニ立タナ……』
ちょい、ちょっと待ってくれ! 語弊のある伝え方しないで!
い、いや、役に立たねぇって言ってるわけじゃねぇんだぞ!
本当に、うん!
俺だって、アドフが三人同時に襲いかかって来たらかなり危ないだろうし!
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