第182話
ムカデ団子を咥えた赤蟻の後を、コソコソと追跡する。
一応、あの赤蟻が無事にムカデ団子を運べるかどうか見届けなくてはいけない。
赤蟻は単体でもかなり強いが、今はかなり弱っている。
途中で他の魔物に襲われて道中で倒れたら、ここまでの苦労がすべて水の泡と化す。
妙な構図ではあるが、俺はなんとしても奴を巣まで送り届けなければならないのだ。
しかしえっちらおっちらとムカデ団子を運んでいるのを見ると、つい情が移りそうになる。
あの赤蟻、群れのためになると思って頑張ってムカデ団子を運んでるんだよな……。
山を見つけたとき、これは大きな功績を上げたと内心で喜んでいた可能性もある。
俺は首を振って思考を掻き消す。
駄目だ、駄目だ。
あの赤蟻に運んでもらわないと、レベリングができない。
これが失敗したら、あの勇者に勝てなくなっちまうかもしれねぇ。
この砂漠で効率よくレベルを上げるには、赤蟻の巣を蹂躙する以外に手はない。
大ムカデはいないし、大ナメクジクラスの魔物を探して狩って回るのも骨が折れる。
いっては悪いが、一体一体が大ナメクジクラスの赤蟻は、レベル上げに物凄く丁度いい。
あれ……あの赤蟻、動き方が変じゃないか?
そう思っていると、赤蟻が転んで口からムカデ団子を取りこぼした。
あっ、おい、大丈夫か?
足か? 足がひょっとして駄目になってんのか?
赤蟻は素早く立ち上がり、ムカデ団子を拾い直す。
ほっとしつつも、不安がどうにも拭えない。
あいつのステータス、今どんなもんだ?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:レッドオーガアント
状態:流血
Lv :24/55
HP :33/226
MP :69/69
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……やっぱHP、ヤベェな。
このままだと魔物に襲われずとも途中でお陀仏しかねない。
俺はさっと赤蟻へと近づく。
赤蟻は口を開け、ムカデ団子を地に置いてから俺を威嚇する。
「クチャッ、クチャァッ!」
さっき引き摺られた恨みを覚えているらしく、吠えついてくる。
「グォッ!」
俺は〖レスト〗を使い、赤蟻のHPを回復させる。
「……クチャ?」
それ、もう一回。
更にもう一回。
光が赤蟻の身体を包む。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:レッドオーガアント
状態:通常
Lv :24/55
HP :95/226
MP :69/69
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うん、これで大丈夫だな。
しかし、例によって効力が薄いな。
俺の魔力、結構高いはずなんだけどな。
……そういや〖悪の道〗の称号スキルのせいで、回復魔法の効果が減ってるんだったか。
種族的な問題もあるんだろうか。
赤蟻が訝し気な目で俺を見てくる。
俺は素早く〖転がる〗で逃げ、再び距離を取った。
警戒されたらあのムカデ団子を捨てることも考えられる。
赤蟻からしてみれば、近づいて回復魔法を掛けてきたと思ったら再び物凄い勢いで遠ざかって行ったって感じだからな。
その前にビッグシザー運搬中に襲撃して引きずり回してムカデ団子の山にシュートした前科もあるし。
赤蟻視点だと不審者ってレベルじゃない。知力によっては、何かあると勘繰りかねない。
ただそこは所詮虫のようで、また何事もなかったかのようにムカデ団子運びを再開した。
良かった、蟻でよかった。
やっぱし本能には勝てないんだろうな。
猩々か黒蜥蜴なら今のでバレていたはずだ。
そのままコソコソと追跡を続けていると、俺の〖気配感知〗のスキルが、近くに何かが潜んでいるのを教えてくれた。
赤蟻の進路の先、その地中に何かがいる。
しかもその地中に潜っている生物は、明らかにこちらに気付いているようだった。
赤蟻が近づくにつれ、その生物から魔力が強く漏れ始めているのがわかる。
地中の生物は、間違いなく何かを仕掛けてくるつもりだ。
赤蟻は気付いていない。
俺としては、なんとしても赤蟻にあのムカデ団子を運ばせねばならない。
逆側に回り込んで方向転換させたいところだが、遠すぎて間に合わない。
とりあえず、俺は何が起きても対応できるよう、一気に赤蟻との距離を縮める。
「――!?」
俺が全力で追いかけてくることに気付いた赤蟻は、走る速度を上げる。
あ、おいっ!
そっちは駄目だってば!
俺は守ってやろうとしてるんだぞ! 動機は不純だけどな!
赤蟻が謎の気配の真上に来た瞬間、地面が大きく窪んだ。
突如現れた穴はどんどんと広がって行き、俺を三体収納できるほどのスペースになった。
赤蟻は、その大穴の斜面を転がり落ちて下へと落ちていく。
穴の中心には、巨大な虫がいた。
サイズは赤蟻より一回り大きく、俺よりは一回り小さい程度だった。
だいたい3メートルくらいか?
大ムカデ同様砂色をしており、二本の大きな角を持っている。
産毛のようなものが身体中を覆っており、ふたつのつぶらな黒目があった。
この罠の形……あの外見、こいつ、アリジゴクかよ!
アリジゴクは大きく首を伸ばし、角を打ち鳴らしながら赤蟻が転がり落ちてくるのを待つ。
赤蟻は這い上がろうとするが、斜面が滑るらしく、上手くいっていないようだった。
まともに体勢も立て直せないまま、下へ下へと落ちていく。これは時間の問題だろう。
俺は大穴に飛び込み、赤蟻の背を掴んで翼を広げる。
アリジゴクが砂に埋まっていた身体を出し、首を伸ばして俺へと角を突き付けてくる。
俺はその角を思いっきり蹴っ飛ばし、その反動を利用して大穴から抜け出した。
つう、足の裏が痛い。
これくらいの怪我なら〖HP自動回復〗の力ですぐ全快するだろうが、スキルLv上げを兼ねて〖レスト〗を使っておく。
すぐに傷口が塞がった。
俺はそのまま低空飛行してアリジゴクから逃げ、着地してから赤蟻を地面に置いた。
ふう、上手くいってよかった。
顔を上げれば、遠くに赤蟻の巣が見える。
もう護衛は必要なさそうだ。
俺が手を放すと、赤蟻は一目散に俺から逃げていく。
【称号スキル〖ちっぽけな勇者〗のLvが5から6へと上がりました。】
これでも上がんの?
なに? 今までの累積分的な感じなのか?
進化前に縁起いいな。
次から俺、魔物助けも頑張っちまうぞ。
途中で赤蟻が俺を振り返り、立ち止まる。
うん? どうしたんだ?
ひょっとしてまさか、やっぱりムカデ団子を置いてくつもりなんじゃあ……。
「……クチャッ」
そう鳴いて赤蟻は小さく頭を下げ、再び方向転換して赤蟻の巣へと直進していく。
ざ、罪悪感ヤベェ……。
ごめん神の声さん、やっぱりさっき上がったスキルLv下げてくれ。なかったことにしてくれ。
【称号スキル〖嘘吐き〗のLvが2から3へと上がりました。】
違う、そうじゃない。
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