第181話

 走る俺を、二体の赤蟻が追ってくる。

 あいつらも勝ち目がないのはわかってるだろうに、よくやるよ。

 蟻社会は人間社会より厳しそうだな。

 特攻して死んで来いとか何も珍しくなさそうなイメージがある。


 まぁ向こうが逃げたら、今度はこっちが攻めに出るだけだからな。

 俺が逃げているのは有利な距離を保ったまま勝負したいからであって、本当に逃げ切りたいわけじゃあねぇし。

 向こうが逃げてくれるのならば追いかけながらの〖鎌鼬〗で全滅させれるし。

 赤蟻達も、そのことを理解した上で追ってきているのかもしれない。


 こいつら、散って逃げるとかできなさそうだもんな。

 結局巣に帰るのは見えてるし、すぐに合流しちゃいそう。


 俺は速度を落とし、赤蟻を焦らしながら走る。

 向こうは〖クレイガン〗をほとんど撃てない今、近接戦で仕掛けたいはずだ。

 そこで、この俺の減速だ。

 赤蟻からしてみれば、最後の好機のようにも見えるだろう。


 赤蟻達は俺の挑発に引っ掛かり、スピードを上げる。

 俺が減速した今の隙に飛びかかろうと、そう考えているのだろう。


 俺は更にスピードを落とし、赤蟻との距離を縮める。

 この距離なら避けきれまい。

 〖鎌鼬〗一発で仕留められる。

 

 俺は、近い方の赤蟻に向け、〖鎌鼬〗を放つ。


「クチャァッ!」


 走るのに躍起になっていた赤蟻は、正面から風の刃を受ける。

 切断された足が飛び散り、赤蟻が動きを止める。

 慣性に従って赤蟻の身体が前に放り出され、腹這いになって地の上を擦った。


【経験値を400得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を400得ました。】

【〖厄病竜〗のLvが60から61へと上がりました。】


 残る一体が、俺へと飛び込んでくる。

 タイマンなら、赤蟻相手にゃまず負けねぇ。


 俺は身体を逸らし、噛みつき攻撃を回避する。

 赤蟻の頭部が、俺の前に無防備に差し出された。

 これはもらったな。


 腕を最大限まで伸ばし、大きく振るう。

 遠心力の乗った俺の鉤爪が、赤蟻の首に直撃する。

 スパァンと音を立て、赤蟻の頭部が飛んだ。


【経験値を416得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を416得ました。】

【〖厄病竜〗のLvが61から62へと上がりました。】


 ぽとりと、俺の背後に赤蟻の頭部が落ちる。

 その音が聞こえてから、赤蟻の身体が砂の上に倒れた。


【通常スキル〖首折舞〗のLvが3から4へと上がりました。】


 よしよし、スキルレベルも上がった。


 これで四体とも仕留め終わった。

 ついにLv62か。

 この調子だと、赤蟻二十体分くらいで次の進化まで持っていけそうだ。


 ……進化したら、赤蟻の巣入れんのかな。

 どれくらいサイズ変わるのかは知らねぇけど、体格的にキツくならねぇ?

 ヤベ、見落としてたかもしれねぇ。

 え、大丈夫だよな? いや、どうだろ。


 ……万が一に備え、赤蟻の巣の中で進化するのは絶対にやめよう。

 一歩間違えたら、そこで一生過ごすしかなくなっちまうかもしれねぇ。


 進化先は多分選択制だから大丈夫だとは思うが……それでもまぁ、サイズで選んで弱いのを引くのはゴメンだな。

 こればっかりは進化先一覧が出てから考えるしかないが。


 さてと、あのビッグシザーの下敷きになっていた赤蟻を回収しねぇとな。

 今回はレベル上げよりもムカデ団子作戦がメインだ。


 俺は逃げてきた道を〖転がる〗で戻る。

 まだ下敷きになってくれてると助かるんだけどな。


 ビッグシザーの死骸が見えてきたので、〖転がる〗を解除する。

 ビッグシザーの下では、足をバタつかせている赤蟻がいた。


「クチャッ! クチャァッ!」


 よかった、まだ脱出できてなかった。

 元気に鳴き叫んでいる。


 俺は後ろから回り込み、ひょいとビッグシザーを持ち上げてやった。


「クチ……」


 ほっとしたように、赤蟻がこちらを振り返る。


「グァッ」


 残念だったな。

 赤蟻じゃない、俺だ。


「クチャアッ!?」


 赤蟻は動転したように後ろに退く。

 俺は赤蟻の動きを追い、距離を保つ。

 そのまま軽く一発ぶん殴る。


「グチッ!?」


 翼を使って飛び、赤蟻の後ろへと回り込む。

 そのまま背を掴んで地面に擦ったまま〖飛行〗を続ける。


「グチチチチチチチチチァッ!」


 残酷だが、こうするしかない。

 蟻はフェロモンを撒いて道を覚えるらしいからな。

 飛んで運んだら、上手く巣に帰れなくなる可能性がある。

 こうやって地面に擦りつければ臭いも残るだろう。


 高度は低いし、下からの支えもあるので翼への負担は小さい。

 俺はそのまま赤蟻を引き摺り、ムカデ団子の山へと帰還する。

 赤蟻を大ムカデの甲殻の抜け殻へと放り投げ、そのまま自分は着地して〖転がる〗で逃げる。

 途中で止まり、遠目から赤蟻の動きを観察する。


 赤蟻は起き上がってから、足を動かしたり身体を捻ったりを繰り返していた。

 身体が正常に動くかの確認だろう。

 相当引き摺ったからな。正直、足が欠損しなかったのは奇跡だと思う。


 赤蟻はそれから、ムカデ団子へと近づいていく。

 鼻を押し当ててから、首を捻っている。


 なんだ、アウトなのか?

 いや、いけるって。

 意外と喰えると思うぞ。

 俺はもう齧りたくないが、ああいうのが好きな人もいるって。

 運べ、運んでくれ、頼む。

 お前だけが頼りなんだ。


 赤蟻はムカデ団子を咥え、ぐっと頭部を持ち上げる。

 勝った。


 赤蟻は、元来た道を引き返していく。

 俺はひとまず安堵を覚えた。

 運ばせる作戦はこれで成功だ。


【称号スキル〖卑劣の王〗のLvが4から5へと上がりました。】


 ……進化前に、嫌なもんもらっちまったな。

 ま、これくらいは覚悟してたさ。

 あとで〖レスト〗のレベルを上げて相殺しとかねぇと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る