第180話

 赤蟻達は右側、真ん中、左側と分かれて突っ込んでくる。

 三体とも離れているので、各々に〖鎌鼬〗を撃ち込んで足止めするのにも時間が掛かる。

 こいつら連携取るの上手すぎだろ。


 俺は尾を見せて逃げながら、ちょくちょく振り返って〖鎌鼬〗を撃ち込む。

 避けきれない〖クレイガン〗を翼や尾で弾く。

 多少のダメージは仕方ない。

 身体にもらわなければ重大なダメージにはならない。

 今の俺には〖レスト〗だってあるからな。


 〖鎌鼬〗連打でつんのめらせていた四体目が起き上がり、再び俺へと駆け始めていた。

 クソ、ちょっと無理してでもアイツを片付けておくべきだったか。

 四対一での撃ち合いはなかなかキツイ。

 奴ら、数の差を活かして的確に嫌なところへ撃ち込んで来やがる。


 右、左、後ろから〖クレイガン〗がほぼ同時に撃ち込まれる。

 おおう、息ぴったりか。

 避けるのに躍起になりすぎると隙を晒すことになるな。

 俺は真後ろから来た分は素直に回避し、左右には翼と尻尾で対処する。


 今の状況、あんまりよくねぇな。

 一度〖転がる〗で振り切って立て直すのも視野に入れるか?

 いや、こっちだってMPやHPを結構持ってかれている。

 これだけ削られてほとんど成果なしなんて様を続けていれば、処刑の日に間に合わなくなっちまう。

 時間以上に、体力の浪費が痛い。


 今、赤蟻一体一体の間隔はかなり開いている。

 単体なら力技で押し潰せる。

 ここは勝負に出る場面だろ。

 一体潰せれば、残りは三体だ。

 状況がかなり好転する。ダメージを負いながらでも倒し切る価値はある。


 俺は手足を丸め、〖転がる〗に移行する。

 俺が逃げるつもりだと判断したのか、赤蟻達は足を速める。

 俺は大きくカーブし、右側から回り込もうとしていた赤蟻へと突進する。


「クチャアッ!」


 赤蟻は正面から〖クレイガン〗を撃ち込んでくる。

 避けられるが、避けてはタイムロスだ。

 他の赤蟻が駆けつけてくる。それは厄介だ。

 俺は回転数を上げ、赤砂の弾丸を弾き飛ばした。


 そしてその勢いのまま、赤蟻を撥ね飛ばす。

 後方に大きく飛んだ赤蟻へと追撃を加える。

 一発! 更に二発目!

 宙に浮いた赤蟻に続けてタックルを仕掛ける。

 赤蟻の前脚が千切れ、胴体の一部が拉げた。


「グヂッ!!」


 赤蟻はベッと口から体液を吐き、背から地面に落ちる。

 その上を容赦なく通過する。


【経験値を416得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を416得ました。】

【〖厄病竜〗のLvが57から59へと上がりました。】


 うっしゃ、まずは一体目!

 これでかなり楽になるな。


 ただ仕方がないこととはいえ、一体に意識を割きすぎた。


「クチャッ!」「クチャッ!」「クチャァッ!」


 赤蟻を仕留めきるのに集中している間に、他の赤蟻に囲まれていた。

 どうやら囲んで三方向から〖クレイガン〗を撃つつもりらしい。


 赤蟻への衝突を繰り返している間に、〖転がる〗は大きく減速している。

 再加速し、一旦距離を取らねばならない。

 速ささえあれば砂弾を弾き飛ばしてダメージを抑えることもできる。


 回転数を引き上げようとしたところで、身体ががくっと下に落ちた。

 地面がへこんだ?

 いや、これは〖クレイ〗のスキルで砂を動かして地形を変えたのか。

 〖転がる〗の視野の狭さと直線的な動きが災いしたか。


 このまま〖転がる〗の力押しで脱出するか?

 いや、一度飛ぼう。そっちの方がいい。


 回転を止めたところで、体勢を整える猶予もなく俺へと三発の〖クレイガン〗が飛んでくる。

 受け流せねぇ。

 尻尾で叩き落とし、翼で防ぐしかない。

 俺は翼と尾を前方へと向け、迎撃態勢に入る。


 あれ、音は三つだったのに、二つしかない?

 そう思いつつも一発目を翼で防ぎ、二発目を尾で叩き落とす。

 二発目の影から、三発目の砂弾が現れた。

 あいつら、やりやがった。


 腕を前に出し、爪で弾こうとした。

 だが砂弾は爪の上を滑り、胸元へと飛び込んでくる。


「グゥォッ!」


 胸部に一発、砂弾をもらった。

 かなりの威力だが、狼狽えている余裕はない。

 痛みに気を取られていたら数の暴力で嬲り殺される。

 ビッグシザー先輩みたいになる。

 俺は地を蹴り、赤蟻達が〖クレイ〗で窪ませた地形から脱出する。


 翼をガードに使い過ぎたせいか、いつも以上に上手く飛べない。

 空中で体勢が崩れたらお終いだ。早めに着地し、手を地につけて四足で駆ける。


「クチャッ!」「クチャ!」「クチャアッ!」


 相変わらず三方向から囲んだまま、並行して走ってくる。

 せめて〖飛行〗でこの陣形から抜け出したかったものだ。


 一体一体、〖鎌鼬〗で牽制しながら走る。

 赤蟻達は着実に弱っているはずだ。

 あまり〖クレイガン〗を撃ってこねぇ。

 MPが尽きかけてるんだな。

 大して最大MPない癖に、あんなにバンバンスキル使うからだっつうの。


 危なかったが、そろそろ蟻さんの限界も見えてきたな。

 俺の右後ろを走っていた赤蟻が、〖鎌鼬〗を受けて地にひっくり返る。

 今のは避けれる一撃だったと思うが、体力的にも限界だったか。


【経験値を400得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を400得ました。】

【〖厄病竜〗のLvが59から60へと上がりました。】


 死んだか。

 お前はよく頑張ったよ。ドラゴン相手にここまでやる蟻ってなかなかいねぇぞ。

 少なくとも、前世では見たことがなかった。あんまり覚えてないけど、それだけは断言できる。

 あんな蟻いたら地球なら滅んでる。


 さて、これで残るは二体か。

 また〖転がる〗で引き離そうかと思っていたが、二体なら普通に殴り勝てる。

 一気に仕留めてやる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:レッドオーガアント

状態:通常

Lv :24/55

HP :46/226

MP :12/69

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:レッドオーガアント

状態:通常

Lv :25/55

HP :55/230

MP :8/71

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 うし、HPもMPもほとんどない。

 こっちだってMPの浪費はなるべく抑えたい。

 逃げながら攻撃するのはやめにして、一気に仕留めに掛かるか。

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