第171話
後ろから感じる強烈なプレッシャーに追われながら、〖転がる〗で砂漠を突き進む。
そろそろ玉兎とアドフからはかなり距離を開けたはずだ。
海沿いへ向かいながら速度を落とし、ゆっくりと大ムカデを引きつけていこう。
「ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!」
……しかしやっぱアイツ、本当に規格外だな。
勇者よりは数段劣るからコイツを倒せなきゃ勇者にも勝てないと意気込んでたんだが……早計だった気がしてきたぞ。
ええい、弱気になるな。
俺だって、二度も大ムカデに喰い殺されかけたんだ。
アイツが規格外なのは百も承知の上だ。
大ムカデとは、砂漠に来てからかなり長い付き合いになる。
攻撃パターンもほとんど体験済みだ。
ああも何度も見ていたのだから、攻撃の隙もある程度は掴めている。
最初に遠巻きに姿を見たときはまさかこうまで何度も対峙することになるとは思わなかったが、今日でそれも終わりにしてやるよ。
大ムカデ攻略の大きな障害は、全部で三つだ。
高攻撃力から繰り出される強烈な接近技、高防御力と特性スキルの〖蟲王の甲殻〗による防御性能、そして威力も範囲も頭おかしい遠距離スキル〖熱光線〗通称ムカデビームだ。
この三つの間を潜り抜け、大ムカデに決定打を与えなければいけない。
一応、すべてへの対応策は考えてはいる。
つっても、有効かどうかは戦ってみなけりゃわからねぇんだけども。
実際に対峙した今となっては、安直だったかなぁと後悔しなくもないが。
シミュレーションと実物ではやっぱし迫力が違う。
最後に見たのが赤蟻相手に死にかけてるところだったから、殺されかけた恐怖が薄れていたのかもしれねぇ。
ちらりと、後ろへ目をやる。
「ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィッ!」
砂を掻き分けながら突進してくる大ムカデの顔面が見えた。
思ったより、近くまで引きつけちまってたな。
あんまし見てたら戦意削がれそうになるんだけど、なんとか堪えねぇと。
目瞑ったまま勝てる相手なわけないんだし、この感じに慣れねぇと勝負にすらならないからな。
遠距離からのムカデビーム乱射で詰む以上、メインは接近戦なんだから。
しっかりじっくり動きを凝視するくらいの気持ちで行かねぇと。
ちょうどいい条件の場所を見つけて反撃に出るか、全力で一旦引き離すか。
先延ばしにしてても意味ねぇよなぁ……。
そろそろ、勝負を仕掛けるか。
丁度、遠くに大きな岩が見えてくる。
あれだ、あれで仕掛けよう。
行けるはずだ。
想定よりちっとデカイが、あれならギリギリ持ち上げて飛べる。
不安は残るが、あれより条件のいい岩はなかなか見つからない。
これを逃したら後がないかもしれない。
あの岩を空高く持ち上げ、〖くるみ割り〗で大ムカデの頭を叩き潰してやる。
〖くるみ割り〗は俺の持つスキルの中で最も高い威力を持っている。
これが通らなかったら、俺の持つスキルではあの甲殻にダメージを通すことはまずできない。
ビビるなよ、俺。
しっかり敵の動きを見極めろ。
ミスったら噛み殺される。
上に飛び上がり、俺のいた位置へと突進してくる大ムカデに大岩を叩き込む。
問題なのは、ムカデビームの発射までに間に合うかどうかだ。
溜めにはそれなりに時間が掛かるはずだが、想定よりもデカイ岩を掴んでしまった。
いや、アイツの防御性能を考えたら、これくらいじゃないと心許ねぇんだけど。
俺は一気に減速を行い、大岩へと飛びついて無理矢理停止する。
身体に大きな衝撃を感じ、脳が揺らいだ。
それでも大岩に腕を回し、地面を蹴って飛び上がる。
翼で自分の身体を死ぬ気で押し上げ、なんとか上昇する。
高さは……これが限界か。
これ以上は無理だ。粘れば、ムカデビームの餌食になる。
目で大ムカデの位置を確認。
大ムカデは俺のほとんど真下で動きを止め、顔を持ち上げている。
攻撃のためか、頭部をこっちに向けてくれるのは好都合だ。
弱点を思い切り叩き潰してやれる。
俺は宙で動きを止めて大岩を下に回してから身体を傾け、大ムカデに向けて照準を合わせる。
大ムカデは俺を見上げながら、大口を開いている。
口許には赤い光が集まっていた。
間違いない、ムカデビームの準備動作だ。
もしも〖サンドブレス〗か〖麻痺噛み〗で対抗してくれたら、大岩で押し込めそうだからありがたかったんだが……やっぱし、それでくるか。
「グゥォォォォォオオオッ!」
「ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィィィィイッ!」
吠えながら、宙を翼で掻き分けて落下速度を少しでも水増しする。
間に合え、マジで間に合え。
これでムカデビームの餌食とかマジでゴメンだぞ。
大ムカデの顔面へと大岩を叩き込む瞬間、大ムカデの凶悪な口が更に大きく開き、それに伴って赤い光が広がる。
間に合わない。本能的に理解させられた。
「グルァッ!」
俺は大岩を蹴り、真横へと飛んだ。
大岩が、大ムカデの顔面直前で動きを止めた。
大岩から赤い直線が生えた次の瞬間、大岩が爆散した。
俺は翼を羽ばたかせて空中で姿勢を整え、地面に尻尾を突き立ててブレーキを掛けることで、何とか足から着地することに成功した。
危ねぇ、頭を地に打ち付けるところだった。
「ギヂァアアッ!」
大ムカデは顔部を振るい、岩の破片を顔から落とす。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ジャイアント・サンドセンチピード
状態:通常
Lv :64/80
HP :459/463
MP :211/244
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
クソ、ぜんっぜんダメージ通ってねぇ。
ほとんど勢いを殺されちまった。
あの程度のダメージ、〖HP自動回復〗ですぐ打ち消されちまう。
反撃をもらわなかったのは不幸中の幸いだが、そう割り切れるほど状況はよくねぇ。
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