第170話
俺は目線を左右へ動かし、獲物を探しながら砂漠を歩く。
苦労するとは思ってたが、なかなか見つからねぇな。
ま、元より蟻の巣の場所を思い出しながら移動して、途中で見つけられたらラッキ―程度だったからな。
それなりに移動できたな。
そろそろ、また真上に飛んで辺りを確認してみるか。
「グゥアッ!」
俺は一声上げてから立ち止まり、それから背へと尻尾を伸ばす。
尾の先端に、玉兎の耳が絡まる。遅れて、遠慮気味にアドフが俺の尾に乗る。
ゆっくりと尻尾を下ろし、玉兎とアドフを地上へと運んだ。
「ぺふぅ……」
『本当ニ、アレ、戦ウノ?』
おうよ。
一気に経験値を溜めるには、それしかねぇ。
勝算があるのかどうかは怪しいが、俺なりにも対策は練ってあるからな。
アイツを倒せなきゃ、あの|勇者(バケモノ)相手になんか戦えるわけがない。
ただ、相手が見つかったら玉兎は逃げといてくれよ。
「ぺふ……」
『デモ……』
……あんまし言いたくはねぇんだけど、玉兎連れながら勝てる相手じゃねぇんだよ。
俺も戦闘中、気遣っちまうだろうし。
「ぺふぅ……」
納得はしきれていないようだったが、とりあえずは了承してくれたようだ。
アドフもCランク上位のモンスター程度の実力ならある。
こっちからの対話を無視して思い込みで襲いかかったのを気にしてたみたいだし、頼めば玉兎の護衛くらいはしてくれるだろう。
それに、まだどうするべきなのか悩んでいるのか気持ちの整理がついていないのか、直接頼んできはしないが、アドフも親戚連中を助けるためには俺の手を借りるしかないとわかっているはずだ。
レベリングの協力くらいはしてくれるだろう。
どうやらアドフの様子から見るに、凶暴でない魔物は本来、ごく一部の種族に限られているらしい。
邪竜はその少数の種族には入らないようだ。
できれば次は一般的に気性が大人しいとされてるようなドラゴンに進化しておきたいところだが……今は、選んでられる余裕がないからなぁ……。
やっぱり大人しいドラゴンより、凶暴なドラゴンの方が強そうだし。
でも俺だって〖レスト〗覚えたんだから、なんか神々しい感じのドラゴンが来てもいいと思うんだけどな。
無理かなぁ、今が厄病竜だし。
「さっきから、何を探しているんだ?」
玉兎から急かされて俺から距離を取っていたアドフが、俺を振り返ってそう言った。
「ぺふっ」
『ムカデ、オッキイノ』
俺の思念を読むまでもなく、玉兎はアドフへとそう返した。
アドフはぽかんと大口を開け、足を止める。
玉兎に引かれ、思い出したように足を動かす。
かなり間抜けな表情だったが、それも無理はない。
俺も昨日までなら『大ムカデと戦え』って言われたらあんな表情をしただろうな。
アドフもハレナエに住んでたんだから、あの大ムカデの恐怖はよく知ってるだろうし。
「グゥォォッ!」
俺は吠えながら地を蹴り、上空へと飛び上がる。
翼を広げて後押しし、向かい風の中で目を開ける。
砂、砂、一面の砂。
遠くの方に、また綺麗な湖が見えた。
もう騙されねぇぞあのクソナメクジが。
玉兎に〖クリーン〗使ってもらう手もあるが、アイツのMP、〖念話〗だけで尽きそうだからな。
聞きたいことは山ほど残ってるから、アドフとの会話を減らすわけにもいかねぇし。
玉兎は万能だが、役割が多すぎてMPが追いつかなくなりつつある。
一番高くまで飛び上がったところで、首を大きく曲げる。
砂漠の地が一部、揺れているのが見えた。
なんだアレは。
いや、違う。砂漠の砂と同じ色の、巨大な魔物が移動しているだけだ。
ついに出てきやがったな。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ジャイアント・サンドセンチピード
状態:通常
Lv :64/80
HP :463/463
MP :244/244
攻撃力:332
防御力:301
魔法力:201
素早さ:242
ランク:B
特性スキル:
〖多足類:Lv--〗〖蟲王の甲殻:Lv6〗〖土属性:Lv--〗
〖HP自動回復:Lv5〗〖気配感知:Lv4〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv2〗〖落下耐性:Lv4〗
〖毒耐性:Lv6〗〖麻痺耐性:Lv2〗〖混乱耐性:Lv2〗
〖睡魔耐性:Lv3〗
通常スキル:
〖毒毒:Lv5〗〖穴を掘る:Lv6〗〖サンドブレス:Lv4〗
〖クレイウォール:Lv3〗〖麻痺噛み:Lv2〗〖酸の唾液:Lv4〗
〖熱光線:Lv4〗
称号スキル:
〖百足の王者:Lv--〗〖砂漠の主:Lv6〗〖不退:Lv4〗
〖執念:Lv7〗〖チェイサー:Lv6〗〖最終進化者:Lv--〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
……コイツ、会う度にレベル上がってないか?
別個体の可能性もあったが、やっぱり全部同個体臭いな。
まぁ、こんなごっついのがそう何体もいても困るんだけど。
しかし、やっぱ生きてやがったか。
赤蟻に集られた後、逃げ切れてたんだな。
喰い千切られていたはずの足も、短くはなっているものの見事に全て生え揃っている。
相変わらず化け物過ぎるだろ。
アイツこそ生きる災害だと思うんだよな。不思議と称号スキルにはないが。
大ムカデはこちらに気付いたのか、頭を持ち上げる。
目が、合った。
大ムカデは大口を開き、ガチャガチャと歯を打ち鳴らす。
おお、興奮してる興奮してる。
きっと近くにいたら、あの不快な『ギヂヂヂヂヂヂ』という音が聞こえてくることであろう。
でもこの間赤蟻に集られたのは、自ら巣穴に頭突っ込んで動けなくなったお前の自業自得だからな。
俺は一切悪くねぇぞ。
俺、それで怒られる義理は一切ねぇからな。
このまま滞空していてムカデビームを撃ち込まれたら堪らねぇ。
俺は素早く地上へ急降下し、四足で着地する。
砂が大きく舞った。
「グァッ!」
俺は首を大ムカデがいた方角から90度ずれた方に向け、道の先を顎で示した。
大ムカデは、まだ俺のことを覚えているようだった。
それもかなり逆恨みしてる状態で。
人間が好物みたいだったが、この調子なら最優先で俺に突撃して来るだろう。
アドフと玉兎を別方向に逃がしておけば、あっちが襲われることはまずなさそうだ。
玉兎はこくりと頷き、アドフを耳で引きながら逃げて行く。
……あの一人と一体、大丈夫かな。見てて不安になるんだけど。
まぁ、それより自分の心配だよな。
俺は大ムカデが向かってきているのとは逆方向へ、〖転がる〗で突っ走る。
こっちの先は大きな丘になっているため、ある程度距離が開いていればこちらの姿を捉えられることはない。
正確に位置が掴めさえしなければ、ムカデビームをぶっ放されることはないはずだ。
普通ならここまで警戒しなくていいんだけど、あのビームは射程範囲が頭おかしいからな。
大ムカデが空を飛べたら、一キロ先からでも撃ち込んで来かねない。
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